映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2009年02月05日

『スパイダー/少年は蜘蛛にキスをする』デビッド・クローネンバーグ

SPIDER David Cronenberg3.jpgSPIDER David Cronenberg.jpgSPIDER David Cronenberg2.jpg
SPIDER

これも非常に計算された映画で小さな物音が聞こえてくるような静かな作品であった。

偶然昨日観た『息子のまなざし』と同じ少年の犯罪のその後を描いていて導入部に説明がない為に「彼は誰だろう。何が起きたのだろう。一体どうなるのだろう」という謎に包まれながら観ていくことになる。
だが作品自体が表現したいものはまったく正反対といっていいほどで『息子のまなざし』が少年犯罪の問題を考え関わった人々がどうなっていくのかを情緒的に描いているのに対し、こちらは少年の歪んだ精神による世界の中で人々がどんな風に見えているのかを幻想のように映している。自分自身はどうしても教育的なものよりこれのような狂気の世界を垣間見せてくれる作品に惹かれてしまうのだ。

それにしても俳優の演技が見ものである。主人公スパイダー役の少年もその冷ややかな演技に見惚れてしまうが大人スパイダーのレイフ・ファインズの端正でありながらその狂気の姿に怖ろしくなってしまう。
とはいえ一度も態度を荒げる場面はないのだが絶えず何かをつぶやきノートに何かを書き込み、現実と幻想の世界を行き来しているのである。父親も悪の顔といい父親を見事に演じ分けているが何と言っても一番の驚きはミランダ・リチャードソンで優しい母親と娼婦のイヴォンヌを演じ分けているのにクレジットを見るまで気がつかなかったのは私の観察力が悪いのもあるがそれ以上に彼女の演技力によるものだと賛同してもらえるのではないだろうか。

この作品も説明は省かれているのだが様々な出来事や台詞から謎解きができるように巧妙に仕掛けてあるのだ。
例えば少年スパイダーが行ったわけでもないのに酒場で起きたことを記憶しているかのような場面が出てくるのは無論彼の妄想にしか過ぎないことが彼の記憶が嘘であることを証言している。
映像は単なる誤魔化しのための偽物なのではなくすべてが答えに導く為に公正に種明かしをしていきながらもどういうことなのだろうかというスリルを感じさせ最後には最も怖ろしい結末が見せ付けられることになる。

スパイダー=蜘蛛というのがこの作品の象徴になるのだが少年の精神が逃れようとしても逃れられない蜘蛛の糸でがんじがらめになってしまっているような恐ろしさを感じさせる。
自分はスパイダーとはまったく違う人間であるがそれでも彼に共感してしまうのは何故だろう。
自分もまた狂気の世界にはいりこんでしまい街を彷徨うのかもしれない、という奇妙な憧れとも予感ともつかないものを感じてしまうのである。

監督:デビッド・クローネンバーグ 出演:レイフ・ファインズ ミランダ・リチャードソン ガブリエル・バーン ブラッドリー・ホール リン・レッドグレーヴ
2002年 / フランス/カナダ/イギリス


ラベル:精神 少年
posted by フェイユイ at 22:50| Comment(2) | TrackBack(0) | 欧州 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
日本ではあまり話題にならなかったように思いますが、
私は好きな作品なので取り上げてくださって嬉しいです。
クローネンバーグの作品は、ともすれば際物的な見方をされますが
常に社会的な視点を持った監督ですよね。
この映画も、独特の静けさ、冷たさが強く印象に残っています。
Posted by じえるな at 2009年02月05日 23:56
こんばんは、じえるなさん。

そうですか。あまり話題にならなかったんですねー。この映画の鑑賞は2度目なのですが私も大好きです。
クローネンバーグ作品でちゃんと観たのはこれ以外に『エム・バタフライ』と『ヒストリー・オブ・バイオレンス』くらいでしょうか。どちらも面白かったです。
他の作品もちゃんと観ていくべきですね(笑)
Posted by フェイユイ at 2009年02月06日 00:37
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。