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2009年02月07日

『バス174』ジョゼ・パジーリャ

ONIBUS 174.jpg
ONIBUS 174/BUS 174

2000年6月12日、リオデジャネイロで起きたバスジャック事件のドキュメンタリー映画作品である。
実際のバスジャック事件を映しながら乗客や警官そして犯人の叔母、友人などの証言を交えて犯人であるまだ21歳のサンドロのこれまでの生い立ちを綴っていく。
一つのバスジャック事件を元にブラジルの抱える問題を生々しく表現していく力量に圧倒されてしまう。
サンドロという若者が一人で起こしたこの事件は彼が置かれた悲惨な生活からくるものであることは確かだ。そして彼を取り囲んだ警官達もまた働く場所がない為しかたなく警官になった者たちだという説明がなんとも空しい。
そうした警官達は満足な訓練も受けずこうした事件での対処など何もしらず射殺することだけを考えているという。そしてそうした警官達が地域市民からの要請で雇われサンドロたちストリートチルドレンに暴力行為をふるっているという事実。
カンデラリア教会虐殺事件はそうした警官達がストリートチルドレンを虐殺した事件でサンドロもその事件を目撃していたのだった。
親が不在か見捨てられた子供達は仕方なくストリートチルドレンとなって次第に犯罪に染まっていく。社会はそうした子供達を見て見ないふりをし彼らはそこにいるのに「見えない子ども」となってしまう。
人間にとって最も苦痛なのは無視されることだというが彼らは文字通り無視され人間ではなくゴミのように扱われていくうちにますます立ち直れなくなっていく。
サンドロの友人が「金持ちでなくバスなど襲っても意味がない」というのだがサンドロは金が目的というのではなく自分と言う存在を知って欲しいということでバスジャックをしてしまったのだろう。その為に彼はこれといった要求をするわけでもなく、そして自分がもう逃れられないことを予見し自由になれることだけを願ったのだろう。
証言者たちが言うように彼は人質を殺すつもりはなかったのだろうが結局追い詰められて殺人を犯してしまった。このこともそれまでの彼の人生と犯罪そのものように思える。
サンドロも警官も同じような存在なのだ。
それにしても驚きなのが人質の一人であり眼鏡をかけた当時19歳という少女である。
拳銃を突きつけられながらも冷静にサンドロを見つめていて彼に対して思いやりさえ持っている。優しい言葉をかけて落ち着かせ怯える他の女性をは励ますなど大変気丈なお嬢さんである。「この中で一番不幸なのはあなたよ」という言葉は犯人サンドロにも響いたのではないだろうか。
この事件を引き起こすことになった社会の問題は簡単に解決できることではないだろうがこういうドキュメンタリーが作られることはやはり必要なことなのだ。

サンドロが入れられたこともあるという刑務所の牢が凄まじく怖ろしい。10人しか入れない場所に30人以上も入れられ気温50度の中で半分が横たわり半分が立ったままかハンモックに吊られているというまったく人間性を無視した場所だった。

カメラが俯瞰で捉えると高層ビルが立ち並ぶ華やかな都市であるその下にストリートチルドレンが横たわり犯罪が横行しているのである。

幼い時に目の前で母親が殺されたというサンドロはどういうきっかけかある年配の女性を母親と呼んで慕っていたという。
その女性は一室をサンドロに与え彼はその人を本当の母親のようにして甘えていたらしい。一体何が彼を悪の道に走らせたのか。
その女性の願いどおりサンドロがいい家庭を持つ未来はあり得なかったのか。
酷く悲しいドキュメンタリーである。

監督:ジョゼ・パジーリャ
2002年ブラジル


posted by フェイユイ at 00:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 中南米 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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