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2009年02月19日

『さらば箱舟』寺山修司

さらば箱舟.jpg

寺山修司の世界と言えば青森弁と切り離せない、と思っていたら突然自分には聞きなれた九州弁で物語が始まったのに驚いた。
言葉は九州本土のものだが舞台はいかにも沖縄である。凍てつく冬のイメージ東北の詩人が最後に作った映画が南の島のものであるということに意味はあるのだろうか。
原作はガルシア・マルケス『百年の孤独』だという。ラテンアメリカの物語を原作とするなら青森よりは沖縄の方がイメージしやすいかもしれないがそのことだけではなく沖縄という場所は死後の世界へつながっているというイメージが湧いてくるのだろうか。他の映画にも「死」をテーマにして沖縄を舞台にしたものが幾つもある。沖縄の概念「ニライカナイ」死後7代して死者の魂は親族の守護神になるという信仰がこの映画に活かされているようだ。

『百年の孤独』がどんな物語なのか知らないが、粗筋だけを読むとある一族の百年の歴史が描かれているのだという。
本作では沖縄のある村と思しき小さな村で時任という一族が権力を持っていることが語られる。時任家の本家は村中の時計を取り上げ捨ててしまい、その名前「時任」が示すとおり本家だけに時計があって村中の時を任されているのだ。
本家の大作は権力を欲しいままにしておりそのことは闘鶏で常に勝っている事からもわかる。だがある日分家の捨吉が闘鶏で大作に勝ってしまう。
捨吉は本家のスエという娘と禁じられた結婚をしている。二人はいとこ同士になる為、もし子供が生まれたら犬のような子が生まれるだろうと危惧されスエは父親に貞操帯をつけられてしまっているのだ。夫婦でありながら性交することを許されない二人は村中の笑いものだった。特に捨吉は不能なのだという嘲笑を受けていて闘鶏に負けた大作は腹いせに捨吉を馬鹿にする。怒った捨吉は本家の大作を刺し殺してしまうのだ。
時を任された家でありながら時任家には子孫ができない。
大作は子供をなさないまま死んでしまい、捨吉・スエは子供を作ることが許されない。
捨吉はスエと共に村を出る事を決意するが何日も彷徨った末、もとの家に戻ってしまう。(家の中の火が消えない、というのが二人の生活が続くことを暗示している)
また殺された大作も霊になって捨吉の前に現れる。二人ともこの場所から逃れることができないのだ。
霊になった大作はしょっちゅう捨吉の前に現れて会話する。それまで交流のなかった二人が殺害によって触れ合うことになる。
年をとって物忘れの激しくなった捨吉はあらゆるものに名前を書いた札をつけていく。一方スエはまったく年をとらずいつまでも若く美しい。
捨吉は家に時計を飾るが村に時計が二つあると混乱するという村人たちに殺害されてしまう。捨吉が死んだ後、スエの貞操帯が外れる。
村のある場所に大きな穴が出現する。その穴は時間や空間を越えてどこかへつながっているらしい。
時任家に夫が本家を継ぐはずだったという母子が訪ねてくる。子供が穴に落ちてしまうが上がってきたときには大人に成長している。
時任家に大量の時計が持ち込まれどれが本当の時間か判らなくなってしまう。そして時間が止まってしまうのだが訪ねて来た母子の子供が大人になって大作と関係のあった娘、そしてスエと性交することで再び時計が動き出す。
時任家の歴史が再び動き出したのだ。

時間が止まったままの村の隣町はどんどん繁栄していた為、村人はそちらへと移り住んでしまい村は空っぽになってしまう。
そして百年経った頃、村人の子孫達が集まって記念写真を撮るのだっった。

溢れるようなイマジネーションに見惚れてしまう。主役級が山崎努、小川真由美、原田芳雄といういわば普通の役者陣だがさすが寺山修司の世界になってしまうのである。
とはいえいずれも名優ぞろい、非常に見やすくしかも色気のある演技であった。
出演者としては他に石橋蓮司、高橋洋子、そして高橋ひとみと三上博史の美しさは二人とも目を見張る美しさである。

映像も独特の色彩と光と影が素晴らしい。そしていつもの寺山修司の異様な世界は健在である。
この作品は寺山修司の遺作であり、撮影当時すでに体を壊していたという。死を意識した作品だったのだろう。
『さらば箱舟』の箱舟とはノアの箱舟のことだろうか。
世界の終末から逃れるために家族が作った箱舟。
百年後に箱舟から家族は地に降り立ったのか。
その中には捨吉とスエが念願の夫婦となって子供を産んでいる。
寺山修司自身もまた百年後に再生するのかもしれない。

監督:寺山修司 出演:小川真由美 山崎努 原田芳雄 高橋洋子 高橋ひとみ 石橋蓮司 天本英世 三上博史 新高けい子
1982年 / 日本


ラベル:生と死 寺山修司
posted by フェイユイ at 01:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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