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2009年02月19日

『お遊さま』溝口健二

お遊さま.jpg

今まで観た溝口健二の作品で一番好きかもしれない。そしてさすがに美しい映画だった。
『お静』というタイトルにしたくらい音羽信子が演じたお静さんが愛おしくなってしまう作品なのだが、無論彼女が愛した女性が『お遊さま』なのでこのタイトルでいいのである。
これはもうこれ以上なく美しいビアンの物語だろう。お静が愛していたのは最初から最後までお姉さまであるお遊さまなのだ。

あまりに美しくて時代がいつかよく判らないほどだが、大正期だろうか、裕福な人々の贅沢で上品な世界の物語で柔らかな京都言葉もあいまってこの上ない優美な映像に暫し耽溺する。
谷崎潤一郎が原作と後で知ってさもありなんと思ったわけだが、フランス映画のような不思議な味わいを持った作品なのである。
お遊さまはすでに一児を持つ身なのであるが夫はすでに他界し、富裕な家で一人っ子を見守っていくだけで贅沢な暮らしを許されている。
彼女には妹と呼ぶ仲のよい静というこれもいい家のお嬢様がいてお遊さまは静の仲人としてお見合いの席へと向かう。
ところが見合い相手の慎之介が見初めてしまったのはお遊さまのほうだったのだ。
その理由は慎之介が幼い時に死に別れた母親がきっとこのような女性だったに違いない、という思い込みからなのだが、慎之介は立場上どうしようもなく苦しむ。
とうとう慎之介と静は結婚することになってしまうが、初夜の場で静は「形だけの夫婦となってお姉さまを幸せにしてあげて欲しい」と頼むのだった。
なんという思いやりか!と思ってしまいそうだが、これはどう考えたって静はレズビアンなのであってずっとお遊さまをお姉さまと呼んで愛していた、と考えたほうがわかりやすい。
お遊さまも静の結婚話が持ち上がるたびに邪魔をした、ということからもビアンぽいところはあったのだろうが話からして静は本当のビアンでお遊さまは自覚していないビアンかもしれない。
まあお遊さまはすでに別の男と結婚して子供もいるのだから絶対的ビアンではないのだろう。
お姉さまも慎之介が気に入っているようで、ここで最初からお遊さまと慎之介が結婚できるようにしてもいいのだがそれでは静の入る隙間がなくなってしまうので静としては自分が慎之介と結婚し、お遊さまに片思いの慎之助を懐柔しながら3人でいつも会うようにすればお姉さまといつもいられる、と考えたのだろう。無論男性との性関係は持ちたくないので最初からきっぱりと兄妹の関係でいたい、と打ち明けたわけである。
まあ谷崎が原作なのでそれほど驚くこともなかったのだが、観ていた時は知らなかったのでとんでもない展開にどうなることかとどきどきしてしまった。
それにしてもはっきりとお姉さまに告白するわけにもいかない静が切ないではないか。
慎之助も悪い男ではないのでけなげな静に同情しながらもお遊さまへの思いを断ち切れない、苦しい心情なのである。

世間、という煩い圧力に苦しみ、3人の危うい関係は崩れてしまう。
裕福な夫の家との絆である一人息子を亡くしてしまったお遊さまは里帰りした後、別の富裕家に嫁ぐことになる。
慎之助・静夫婦は経済力を失ったのだろうか。小さな家に移り住み、そこで子に恵まれる。だが産後の肥立ちが悪かった静はお遊さまの小袖を身にまとって死んでしまう。
悲しみにくれる慎之介は生まれた子供をお遊さまに預ける。二人の思いを知ったお遊さまは泣き崩れる。

お遊さまを互いとも愛し続けた慎之助と静の子供が彼女の懐で抱かれることになる。なんと不思議で切ない愛の物語なのか。
お遊さまもまた慎之助と静のどちらも愛し、どちらとも契るわけにはいかない時代の悲しい恋なのである。

静の音羽信子は可愛らしく、はっきりと同性愛なのだとは言えない愛情に苦しむ女性を演じていた。
お遊さまの田中絹代の美しさ。芸に秀でた上品な奥方なのだが、取り澄ましているのではなく温かく優しげな雰囲気で二人から狂おしいほど愛されるにふさわしい魅力であった。どこか『天上桟敷の人々』のギャランスを思い出させる。

映像の美はどの場面を観ても一幅の絵のようなというべきで、日本の富裕層の上品な美意識を感じたいならば是非一見の価値あり。堪能できる。

監督:溝口健二 出演:田中絹代 乙羽信子 堀雄二 柳永二郎 進藤英太郎
1951年 / 日本


posted by フェイユイ at 23:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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