映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2009年02月26日

『赤い風船/白い馬』アルベール・ラモリス

赤い風船.jpg赤い風船白い馬2.jpg
Le Ballon Rouge

白い馬.jpg赤い風船白い馬.jpg
Crin Blanc

2作品ともほんとに感心してしまう美しく素晴らしい映画だった。

描かれている状況は違うけど語っているのはどちらも自由を願うことと暴力や圧政への反抗、ということだ。
力ない少年が風船や白い馬を手に入れたいと願うのはやはり弱い立場の大衆が夢や希望や平和を求めていることだろうし、悪ガキどもや無遠慮な牧童たちが荒々しく少年や風船や馬を追いかける光景は戦争や悪政によって人々を迫害していく様に思える。
そういう世の中の怖ろしく悲しい事実を身近な例えになぞらえ美しい映像で見せていくという手法はなぜかそのままを映し出す以上に心に訴えるものであるが、この2作品はそういう映画の優れた手本といって間違いないだろう。

ブルーグレーの色彩の街の中を真っ赤な風船を持って闊歩する小さな少年。風船がまるで意思を持っているみたいに自由に動いて少年を追いかけていく。
そんな少年と風船に目をつけた大勢の悪ガキどもが二人を追回し、意味もなく美しい風船を捕まえ、石を投げつけ、踏みつけて割ってしまう。
守ろうとする少年はあまりに小さくか弱い存在で彼らの力に抗うことはできない。少年の目の前で赤い風船はしぼみ、割られてしまうのだ。
こういうわけの判らない暴力は世界中のあちこちで様々な形で弱者に襲いかかっている。彼らは大事な赤い風船を守る術もなく目の前でそれを破壊されてしまう。それは戦争であり、圧政であり、いじめでもある。
弱いものは命を自由を尊厳を失ってしまうのだ。
この先の物語は作者の願いであるのだろう。
大事な赤い風船を割られた時、街中のありとあらゆる風船が少年のもとへと集まってくる。なんという美しく楽しい情景だろう。
たくさんの風船が集まって少年を抱え空へと舞い上がる。

『白い馬』の方はもっと判り易いかもしれない。
自由な野性馬である白い馬はその美しさと尊厳の為に馬飼いたちに追い回され捕獲されそうになる。
だが野性の白い馬は決して彼らの暴力に屈しようとはしない。
白い馬は彼と友達になろうとする少年にだけ心を許す。少年もまた白い馬を愛する。
少年との約束を破り再び白い馬を追いかける馬飼い達から逃れようと少年と馬はどこまでも走り続け、とうとう海に飛び込む。そして人間と馬が仲良く暮らせる国へと行ったのである。

とても美しく夢と希望と自由を求めた作品なのだが、どちらも何故かとても切なくなってしまう物語である。
『赤い風船』はとても明るいイメージはあるが小さな少年はなんだか酷く孤独だ。彼と仲良しなのは風船だけなのだ。たくさんの風船に乗って舞い上がるラストはなんとなく少年がそのまま遠い国または天国に行ってしまうようなニュアンスも感じられる。
同じく『白い馬』も少年と馬が行った国とはこの世にありえない国のようにも思える。二つともはっきりと少年の最後を描いたわけではないがこの物語が戦争や圧政への反抗を描いているのなら少年が或いは命を失ったことを暗示しているのかもしれない。
自由や平和を願いながら簡単にそれらが手に入らないことが二つの作品に溢れる痛切な悲しさなのか。
とはいえ作者が少年の死を描いていないのは観ている者がきっと彼らは生きていて幸せに暮らしているのだ、と信じたいし、希望を持てる余地を与えてくれているのだと思う。

どちらも少年が可愛らしくて見惚れてしまうのだが、特に『白い馬』は(上のようなかっこつけたことを書いてて言うのもなんだが)美少年のイメージそのものである。
主役の少年がとても綺麗なのだが白い馬を見つめる眼差しがはっとするほど素敵なのだ。ほっそりとした手足でなぜかズボンが破れているのが艶かしい。
鞍をつけない白い馬にまたがって疾走するシーンはどうしてこの少年がこんなに走れるのか。本当にこの馬と少年の心が深く結びついているように思えてどきどきしてしまう。
浅い水際の中で白い馬と少年が寄り添って立つ場面、裸馬にまたがって少年が駆けていく場面、まるで神話を観ているかのように美しい。
小船に乗って少年が漕いできて老人の横で居眠りをしたり小さな男の子に亀をあげたりしているところも何気ないものなのだがうっとりと見惚れてしまうのだ。
たてがみをなびかせて立つ白い馬の首筋に寄りかかる少年の美しさ。
馬に乗って走る美少年を追い詰める牧童たち、という構図は上に書いたような自由と平和の願いというよりどこかエロティックであり過ぎ、少年が波間に消えていってしまう、というラストも悲しい。
それで同じテーマでありながら、もう少し純粋無垢なイメージの作品を作ったのかもしれない。
とはいいながら私はどうしても『白い馬』のエロティシズムのほうに惹かれてしまうのであるが。

監督:アルベール・ラモリス  
赤い風船 出演:パスカル・ラモリス、サビーヌ・ラモリス、ジョルジュ・セリエ、ヴラディミール・ポポフ 1956年フランス
白い馬 出演:アラン・エムリー、ローラン・ロッシュ、フランソワ・プリエ、パスカル・ラモリス 1953年フランス



ラベル:自由
posted by フェイユイ at 22:48| Comment(2) | TrackBack(0) | 欧州 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
おはようございます〜^^素晴らしい二本ですよね。
真紅さん宅(真紅さんも二本を絶賛)で云った事ですが昔私は小さな自主上映館で働いていたことがありまして。そこでこの作品二つは所有されていたのでよくフィルム(16ミリ)上映されていました。実は当時私は一度もちゃんとは観なかった(笑)。上映していたのを覗いた事はありますが。でも名作なんだろうな〜と。そんな懐かしい思い入れのある作品です。ですから本当に観たのは昨夏、娘と映画館でした。感想の全てはフェイユイさんの仰る通り、と思います。
観ているだけで幸せな作品ですよね。絵本みたい。『赤い風船』〜主役のオトコノコ一人だけパジャマみたいな格好してるのが可笑しい。そしてパリ?の美しい街並。その中を移動する風船たち。・・赤い風船が死んでしまう場面が「一番悲しかった」と娘も言っていました(涙)。『白い馬』〜前者もですが一体どうやって撮影しているのでしょう!!!本当に不思議です。ラモリスという人は魔法使いだ。素晴らしいという言葉しか出てこない。。この男の子の妹(と、私は思ってしまった)が亀と一緒に“亀歩き”するシーン可愛かったな〜ナント!☆このコ☆が『赤い風船』の主人公なのですね〜びっくり!(真紅さん宅コメント欄で知りました^^;)二作品とも、いつまでもいつまでも観つづけられて欲しい、これぞ本当の珠玉の名作だと思います。^^
Posted by フラン at 2009年02月27日 09:37
ほんとにどうやってこの映画が出来上がったのか、不思議です。
2本とも魔法で作ったとしか思えませんね。
風船も不思議ですが馬の喧嘩シーンなんてどうやってやらせるの?ホントに馬が少年を好きになったような顔をしてるし。
いい映画なんですがどこか悲しい。それがまた心に残るんでしょうね。娘さんの言われるとおり、風船が死んでしまう場面は酷く辛いです。

フランさん、映画館で働いていたのですねー。なんだか素敵だなあ。羨ましい。でも観ていなかったんですね(笑)そんなものかもしれなせんねー、ふふふ。
Posted by フェイユイ at 2009年02月28日 00:37
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