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2009年02月28日

『ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン』侯孝賢

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Le Voyage du Ballon Rouge

昨日観てその素晴らしさにため息をついたアルベール・ラモリス『赤い風船』へオマージュを捧げた台湾のホウ・シャオシェン監督作品。
一体どんな映画になるのかと少々おっかなびっくりではあったがさすがにホウ・シャオシェンの作った映画は無論単なるリメイクのようなものではなく現在のパリの風景と人々の姿をまさにホウ・シャオシェンらしい映像にしたものだった。

とはいえ『珈琲時光』の時もそうだったが、淡々とした独特の雰囲気をそれこそ美味しい珈琲を味わうように堪能するのだが、彼の作品はなかなかどうこうと説明するのが難しい。メッセージ性がはっきりしたラモリス『赤い風船』とは違う掴みどころのない混沌とした世界であるように感じる。

ラモリス『赤い風船』の少年は孤独で先生からも子供達からも疎外されて風船だけが彼の友達になってくれる。
ここでの主人公の少年には離婚している母親、優しいピアノの先生などがいて少年を愛してくれている。そしてここでも同じように赤い風船が少年の頭の上に現れるのだが、赤い風船は友達になってはくれない。ただいつも少年の側でじっと少年を見守っているのである。

離婚した夫はバンクーバーにいて頼りにならず、家の一階を借りている友人は家賃を払わず仕事はハードで母子家庭のママは少々ヒステリックになってしまう。そんな姿にまだ幼い少年シモンはどこか寂しさを感じているようだ。
母親は人形劇の声優をやっていてとても忙しくまだ幼い少年の面倒を見させるために中国から留学してきた若い女性ソンを雇うのだ。
ベビーシッターとなったソン・ファンはラモリス監督『赤い風船』に憧れてフランスに映画を学びに来ている女性だ。フランス語は話せるが饒舌ではない。物静かででも大らかな感じのする責任感のある女性という印象だ。ママもシモンも彼女のことを気に入っている様子である。

監督の映画もまた饒舌ではない。とても気持ちのいい映画なのだが、それはどうしてなんだろうか。
ソンがもしいなかったらどうだろう。パリの街で忙しいママと寂しさを抱えている少年という物語はよくあるような気がする。
ここではそんな二人の間にソンという女性が入ってくる。ママもソンには気を使って優しく話しかけるし、シモンはソンになついている。
ソンは押し付けがましくはないのだがいつも二人を見守っているような存在である。
ソンは『赤い風船』に憧れてパリに来たのだが、パリに住むシモンとママにとってはソンこそが赤い風船なのではないだろうか。

ソンはフランスの映画に憧れてやって来たのだが、シモンのママは中国の人形劇をやっている、という仕掛けになっている。
ソンはパソコンを使って映画を撮っていき、ママは中国の老人に人形劇を学んでいる。互いの文化を交換した仕組みになっているのが面白い。

最後辺りに、シモンが練習するピアノの調律を盲目の男性が行うのだが乱れていた音が調律師によって正確な美しい音になっていく、というのが今はごたごたして荒れてしまっているシモン母子の生活が美しい音楽になる予感をさせているようだ。
(このピアノの調律、という仕事、映画やTVでしか見たことはないが、酷く惹かれてしまう。とても美しい作業だ。この仕事の映画なんて素敵じゃないか、と思うのだが)

子供達が絵について勉強している。空から見下ろしているような絵の中に赤い風船とそれを追いかける少年が描かれている。向こうに少年を見ている両親らしい姿もある。悲しい絵なのか楽しい絵なのか、の質問に両方と子供が答える「日向と影があるから」
シモンが勉強しているのを見た赤い風船はなんだか安心したように空高く飛んでいく。
ラモリス『赤い風船』では空高く風船と飛んでいく少年がどこか寂しく思えたのだが、この作品では少年は仲間たちの間にしっかり収まって飛んでいく風船を見送っている。
悲しいがゆえに心に残るラモリス『赤い風船』の少年を地上に残したいと思ったホウ・シャオシェン監督の思いが込められているようだ。

『赤い風船』へのオマージュでこんな優しい作品を作ってしまったホウ・シャオシェン監督の力量に感心していしまう。中国人女性ソンがさりげない形でいい役なのもうまい。
そしてなんといってもシモン役の少年が可愛い。とても綺麗な顔立ちでもあるのだが、会話が大人ぶっていて愛らしくてたまらない。
ママが「私には頼りになる男も側にいない」と言うとすぐに「僕だって男だよ」というのがなんとも可愛いのだ。

監督:侯孝賢ホウ・シャオシェン 出演:ジュリエット・ビノシュ  イポリット・ジラルド  シモン・イテアニュ ソン・ファン  ルイーズ・マルゴラン
2007年フランス


ラベル:愛情
posted by フェイユイ at 00:19| Comment(0) | TrackBack(2) | 欧州 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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mini review 09359「ホウ・シャオシェンの レッド・バルーン」★★★★★★★☆☆☆
Excerpt: 1956年に公開されたアルベール・ラモリス監督の名作『赤い風船』にオマージュをささげた、ホウ・シャオシェン監督による詩情あふれる人間ドラマ。仕事に家族のこと、日常の悩みに心がささくれ立つ人形劇師が、息..
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「ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン」 DVD
Excerpt: この映画はフランス映画でありホウ・シャオシェンの映画でもあり、両方のイメージを裏切る事のない余韻のある映画です。台湾の侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督は珈琲時光で東京を撮った事がありますが、こちらは芸..
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