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2009年04月26日

『モーリス』ジェームズ・アイヴォリー

E.M. Forster.bmp
MAURICE

1900年初頭のイギリス。上流階級の二人の青年の愛と友情と人生を描いた作品で最も優れたものの一つだろう。
多分映画を観たのが先だとは思うが、その後E・M・フォースター原作はもう何度も読み返したものだ。
先日観た『情愛と友情』の原作イーヴリン・ウォーの『ブライヅヘッドふたたび』の複雑さに比べると非常にシンプルすぎるほどの内容である。私はむしろ作者自身の後書きに感じ入ってしまったのだが、同性愛であるのか否か論じられるほどの『ブライヅヘッド』と違い『モーリス』は明確に同性愛を描いたものである。極めてシンプルな筆致も隠し立てのない意志が感じられる。だがこの小説が書き上げられたのが1914年、後書きが1960年、活字になったのがなんと私自身生まれて何年も経つ1971年ということで60年近い年月が経ってしまったわけだ(日本語訳は1988年になる)
さて感銘を受けたフォースターの後書きの中でも「ハッピーエンドにするのは必至だった。そうするのでなければわざわざ書きはしない。作品が許す限り永遠に彼らの愛を存続させようと私は決めていた」という部分には激しく揺さぶられるようであった。小説というものがこのような強い願いを持ちながら書かれるものなのかと初めて感じたのだった。そして作者のこの思いが小説の活字化を60年遅らせてしまったわけだ。
物語の結末が心中や絞首刑だったら受け入れてもらえたのだがフォースターはそれを望まなかったのである。
登場人物の造形も作者の思いを具象化する為に配置されたものである。健康優良な主人公は育ちも精神も真直ぐな人格者であり、彼を同性愛の方向に導いた友人は最初非常に魅力的であり彼を欺いてからは俗物に見えてくる。上流階級の人間である主人公の永遠の伴侶となる青年は労働者階級に属する為、話し方は粗野だが明晰な頭脳と美貌を持つ青年として描かれている。台詞も筋書きも構成も細部に渡って作者の願いがこもっている物語なのである。先にもかいたようにシンプルにわかりすぎ、また美しすぎる感もあるのだがすべては作者の思いがそうさせたのだろう。

前置きが長くなったが、映画『モーリス』は当時あの『アナザーカントリー』に引き続いて美形ゲイ映画として話題になったのだが、正直私は主要人物が3人とも外見的に好みでなかったので(『アナカン』はコリン・ファースがメチャ好きだったし『マイビューティフルランドレット』は二人ともマルな感じで)というしょうがない理由でそれほど夢中にはならなかった。むしろ小説の表現に惹かれるものがあった。
そう思ってはいたのだが、こうして観返してみるととてもデリケートないい映画だと思いなおしてしまった。
ジェームズ・ウィルビーは主人公ホールの実直さをヒュー・グラントはクライブの揺れる心をルパート・グレイブスは愛されるにふさわしい青年アレク・スカダーをそれぞれ非常に魅力的に演じている。
監督アイヴォリーはアメリカカリフォルニアの出ながらこの後もイギリスの格調高い『ハワーズエンド』や『日の名残り』も監督しているわけでなかなか興味深い。
本作で公表することなど身の破滅に等しい同性愛の感情を抱く3人(もしくは4人)の青年の葛藤の物語は今観てもなお見応えのある内容であった。惜しむらくはどうしても頭に入り込んでしまっている原作小説の細部と比べてしまうことで特に孤独に苦しむホールが闇にむかって「来いよ」と呼びスカダーが訪れて彼と初めての関係を持った後の朝の描写が物足りないこと(この映画より『藍宇』での雰囲気に近いものを感じた)同じくロンドンでの二人の逢瀬もまたしかりである。
ただラストシーンは原作のクライブが単純な俗物として揶揄されているようなのに比べ映画では彼が大学時代ホールを愛したことを思い出す場面で結ばれており彼もまた美しい思い出を持つ人物なのだと描いているのが監督の優しさのように思われた。
大好きではあるがやはり悲しげな最後になる『アナザーカントリー』と比較すれば『モーリス』は作者が望んだように明るい未来を感じさせるラストなのである。ホールとアレクは勇敢に他者と戦い続けるだろうし(これは『情愛と友情』での台詞だね)クライブにも未来があるのだ。

監督:ジェームズ・アイヴォリー 出演:ヒュー・グラント ジェームズ・ウィルビー ルパート・グレイブス ベン・キングズレー ヘレナ・ボナム・カーター マーク・タンディ ビリー・ホワイトロー
1987年イギリス


ラベル:同性愛
posted by フェイユイ at 23:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 欧州 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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