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2009年05月03日

『スパイ・ゾルゲ』篠田正浩

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SPY SORGE

世間では「歴女」と称された女性たちが歴史上の人物に思いを寄せることが流行っているようだが、その標的はどうやら日本の戦国時代が主になっているようだ。私も若い時はその辺りに興味がなくもなかったが年を取った今ではさほど気持ちが動かない。今興味があるのは若い頃には見ようとしなかった昭和初期とその前後である。明治大正昭和初期と日本が突如として世界の中に入って行こうとした時代。今見ればあまりにも急激な状況の変化の中であわよくば国土を広げ列強国に躍り出んとした過激な時代である。引きこもりだったおとなしい子供が突然おかしくなってしまったような時期でもある。母国である国が隣接する国々及び他の国までにも人間性を失った行動を取った時代であるが為、自分が少女期には見聞することが怖ろしく耐え切れなかったのだ。この年齢になってやっと少しずつ学ばなければいけないのではないかと思えるようになってきた。あまりにも遅い出発ではあったがやはり(非常に複雑で難しい時期ではあるが)知っておかねばならない時代だと思うようになった。映画は非常に面白く知識を与えてくれる媒体であるがこの時期を描いたものというのはなかなか簡単に見つからない。いわゆる戦争もの、はあるのだが私が観たいのはその以前の時期なのである。どうしても日本が難しい立場にあり、人に知られたくない、触れて欲しくない行動をしていたからなのだろう、そうした映画はあまり見当たらないのだ。
そんな中で幾つかの映画を観ることができ、今頃になってやっと本作の存在に気づいた。それは私がゾルゲと尾崎秀実という人物たちのことをまったく知らないでいたためだろう。
どうもこんな体たらくの者の鑑賞では本作も気の毒というものだが、自分としては「こんなに面白い映画があったのか」というほど感動して観てしまったのだった。

いつもながら物凄く長い前置きになったがまだ続く。幾つか他の感想などを見ると思いのほか酷評であることが多いようだ。「こういうのが観たかった」とのめり込むようにして見た自分にとっては不思議なのだがこの作品があまりに真面目にその時代と取り組んでいるのが教科書的でつまらなく見えてしまうのだろうか。だが自分としてはゾルゲも尾崎もまったく知らなかった為、ここまで丁寧に判りやすく作られているのはとても有難いことだったし、台詞の端々に伺える作者の思いも素直に頷けるものであった。この長さも必要だったし、むしろぎりぎりの短さかもしれない。
主人公であるゾルゲ、尾崎は名前くらいしか知らなかったのだが、篠田監督の描く彼らには強く惹かれる。彼らの言葉行動に作者の思いが込められているのが伝わってくる。
戦争というのは何故起こるんだろう。民は毎日の糧を得、人間らしく生きていければそれでいいのに「国」が富や権力を得るために犠牲になれと言われる。誰に?それぞれの国の一握りの権力者らに。
ゾルゲは「ナチスのような」圧政と暴虐を憎み純粋に思想としての「共産主義」を望んでいた。それは現実にできた政治としての「共産主義」ではなく「人々が力を合わせて平和に生活できる理想」としての夢だったろう。(ただここで描かれるゾルゲが理想のために妻も恋人も友人も犠牲にしていったことは怖ろしいことだと思う。理想に夢中になったがために大切なものを傷つけてしまう、人間がはまってしまいやすい落とし穴である)
尾崎秀実もまた他国に侵略していく母国に疑問を持ち、ゾルゲと彼らを引き合わせた女性ジャーナリスト・アグネス・スメドレーと共に人種も宗教も越えた世界の平和を真実求めていたのだ。だが国という巨大なものの前には彼ら数人の思いが太刀打ちできるわけもない。彼らの行動は「スパイ」であり「国家の裏切り」であり、正義ではなくなってしまうのだ。彼らの行動が真に平和を求めたからであったとしても。
ならば本当に世界平和のための行動、というのはどういうものなのか。彼らの時代ではその考え方自体が間違いであったのだろう。国のために戦うのは正義だが、平和のために行動するのは非人間的行為だったのだ。
実際の彼らがどうだったとかは判らない。ただこの作品で篠田監督は彼らを通じて昭和という時代と本当に平和を求めるということはどういうことなのかを表現したかったのだ。
最後にジョン・レノンの『イマジン』の曲が流れる。奇しくも昨日、忌野清志郎さんが亡くなった。私としては彼の歌った日本語での『イマジン』が頭に流れてきてしまった。
「夢かもしれなぁぁい。でもその夢を見てるのはぁ一人だけじゃなぁぁい。世界中にいるのさ」清志郎の声が。
「天国は無い、ただ空があるだけ
国境も無い、ただ地球があるだけ
みんながそう思えば
簡単なことさ

社会主義も、資本主義も
偉い人も貧しい人も
みんなが同じならば
簡単なことさ」

彼らは本当にそう思っていたのではないだろうか。

「夢かもしれない
でもその夢を見ているのは
きみ一人じゃない
仲間がいるのさ
平和に生きている」

監督:篠田正浩 出演:イアン・グレン 本木雅弘 椎名桔平 上川隆也 永澤俊矢 葉月里緒奈 小雪 夏川結衣 岩下志麻 葉月里緒菜
2003年日本

この映画にたどり着くのに随分時間がかかってしまったが、時期として今がちょうどよかったと思っている。
もっと前に観ていたらきっと全然意味がわからなかっただろう。そしてゾルゲ役のイアン・グレン。
いきなり見ても充分な2枚目ではあるが、つい先日だが『ペインテッドレディ』鑑賞後だったことはほんとに(自分的には)よかった。
何と言ってもあのセバスチャンなのだ。本作ではかなりの女たらしであられるゾルゲ氏=イアンがつい先日は美青年に夢中になっていたゲイだったので私としてはぐふふ的な思いでずっと観れることができた。
尾崎秀実の本木雅弘は申し分ない配役でその端正さは魅力がある。小雪さんの出演は僅かだが彼女の演じた淑子さんは写真で見てもはっとするほどの美貌の女性である。ウェディングドレスが実に似合っている当時としては並外れた雰囲気を持つ日本女性だったのではないだろうか。

この時代を映画化するのは思想的にも他の国への配慮からも困難だろうとは思うのだがそれだけに非常に惹かれる題材でもある。
時間が経ち、今から少しずつ作られてくるのではとは思うが、考慮も重ねながらいい作品が生まれてくることを願ってしまう。

ゾルゲを知る為にこういうのもあり。→NHKオンデマンド「歴史への招待」
参考までに。


ラベル:思想 世界 戦争
posted by フェイユイ at 21:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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