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2009年05月13日

『ファーストフード・ネイション』リチャード・リンクレイター

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FAST FOOD NATION

先日観たヨーロッパが舞台となる『いのちの食べかた』があまりにもあっけらかんと動物が食べ物になっていく過程をむしろ明るくシステマテッィクでありながらどこかアットホームな雰囲気すら漂う(と映画からは感じられたが)のに比べ、本作はアメリカ版『いのちの食べかた』と言えるものなのにこの重苦しさは一体何だろう。

よく判んないが一つにはこちらの食べ物がタイトルどおり『ファーストフード』であるからだろうか。
ファーストフード店で食べるハンバーガーの肉、ポテトフライはもう原型が感じられない。一体何を食べているのかよく判らないわけである。
単なる屠殺だけでなくそこから切り落とされミンチになり型にはめられ単なる薄べったい円形の物体となる。確かにこの中に何が入っているのか判りようもない。
そして他よりもできるだけ早く、安くそして儲かるようにと競争されていく。その為には賃金が安く労働条件が悪くても文句の出ない(ストだとかマスコミに訴えられるとか)不法入国者のメキシコ人がいい。
言葉も通じず、僅かな賃金で喜び、過酷な労働条件でも耐えるだろう。
映画だけでもアメリカ人のメキシコ人に対する態度というのはむかむかしてしまうが、彼らを利用してでかくて安価だが中に汚染物質(ここでは牛の糞)が入っている可能性大のハンバーガーをぱくついているのは当のアメリカ国民なんだから何をか況やであるが結局どこの国でもごく一部の富裕層だけがいい思いをして一般大衆は汚染物質を食べることになるのだろう。

衣服でも住居でも食べ物でも異常に安価な販売がされるものはどこかにしわ寄せがくるものだ。
安価な服もこうした貧しい国の人々が破格に安い賃金で働くからこそできるわけで、食べ物もまたしかり、住居もしかりである。しかし衣食住はなくてはならないものだからしがない平民は少しでも安いものを求めるし、頭のいい企業家はそこを狙い、そしていかに利益を生むかを考える。

この映画は作者の伝えたいことが物凄い勢いで溢れていて受け止めるのも大変である。
普通なら不法入国のメキシコ人たちの苦労話、または田舎町でファーストフード店で働く少女が様々な感化を受けて世の中の出来事を知っていく物語のどちらかであるだろうが二つのことを同時に絡ませながら訴えていくこの方法はややもするとどっちつかずになりそうだが難しい表現でしかも地味で暗い展開なのにうまく見せていると思う。
それはこれがドキュメンタリーでなくドラマであることで顔見知りのグレッグ・ギニア、ポール・ダノ、メキシコ人にはカタリーナ・サンディノ・モレノはてはアブリル・ラヴィーンまで登場して(若い観客を呼ぶためか)なんとか見通す意欲を持たせているようだ。
有名役者ではないがファーストフード店で働く少女アンバーが「リアルを知りたいの」とか言って店を辞める。一方の同じような若いシルヴィアたちは物凄いリアルを見ている、この対比が面白くも怖ろしい。
アンバーはお金が欲しいの、と言ってもそれは将来自分の望む道を歩む為の資金であり食べること、住むことに困っているわけではなく、いい家庭があり良いママがいていい叔父さんがいて共に環境保護について考える友達がいる。叔父さんからは「自分の進みたい道に進むのが後悔しない方法だ」とアドヴァイスされる。
シルヴィアは工場に行きたくないが夫が怪我をしたため再び精肉工場へ行くしかない。しかもそのために嫌いな男にセックスを与えなければならないのだ。彼女が働くのは自分と家族がただ生活する為でそれもギリギリのところだろう。

映画では問題が山のように積み上げられていき、そして何も答えられることはない。
すぐに答えが出るような簡単なものは何一つないのだ。
そしてこれは遠い国のお話だということではなくどこの国でもあるし、日本でもあることだ。
メキシコ人を日本以外のアジアに置き換えれば同じというわけだ。
誰でも嫌な事には目をつぶりたいし、自分の境遇がいいなら他のことには触れたくない。でも知っていたいと思う。
精肉工場の事故を観て自分はホントに幸せな境遇にいるものだと思ってしまった。
自分はちょうどアンバーみたいなもんで自分がやるべきこともよくわからずやっても牛は逃げようともしないので立ちすくんでしまう。
グレッグ・ギニアみたいに「間違っている。何とかしたい」と思ってもどうにもならない。
この映画を観た人は殆どみんなイライラしてしまうと思うがでもそれでもやっぱり知ることは必要だ。

驚いたのはこの映画の評価(日本人のである。アメリカ人のは判らない)が怖ろしく悪いことで、中途半端だとか言いたいことがわからないとか。非常にはっきりしてると思うんだが。
殺される牛が可哀想だと言いたいのか、っていうのもあったが、なんとも。まああんな元の形を留めないパテになってしまうしね。その部分は自分は何も思わなかったのになあ。内臓がどろっと流れて面白い、とは思ったが。別のとこでしょ、言いたいのは。
牛に同情してどうする。シルヴィアに同情してくれ。
アンバーが見たいといってるリアルをシルヴィアはまさに見せ付けられている。食べ物である牛に同情しなくともよいが(感謝はしよう)屠殺という行為は誰でもしたくないだろう。
そういったことをしなくてはいけないリアル、パテに糞が混じるリアル、それを皆が食べるリアル、知ることは怖ろしいことだ。
それを描写したこの作品、とても面白かったのだがねえ。

監督:リチャード・リンクレイター 出演:グレッグ・キニア イーサン・ホーク パトリシア・アークエット アヴリル・ラヴィーン カタリーナ・サンディノ・モレノ ポール・ダノ
2006年 / アメリカ/イギリス


posted by フェイユイ at 23:05| Comment(2) | TrackBack(1) | 北米 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
あらすじありがとうございました。ネタバレで検索してもなかなかヒットしなかったので助かりました。是非、見てみたいと思います。
Posted by 空飛ぶブタ at 2009年09月21日 18:39
お役に立ててよかったです!

これは観ていたほうがいい映画ではないでしょうか。覚悟はいりますが。
Posted by フェイユイ at 2009年09月21日 23:53
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