84 CHARING CROSS ROAD
これは本好き特に古本が好きな人間にはたまらなく羨ましいお話ではなかろうか。しかも実話だということだ。
英国文学にのめりこんでいるアメリカ女性が住んでいるニューヨークでは欲しいものが全く手に入らず「アメリカ人は英国文学を読まないの?」などと喚いて憤然と書店を後にする。彼女が欲しいのはコレクターが集めるような高価な初版本などではなく廉価版の古本なのだ。彼女が好きなのはそういう好みの古本を安く手に入れて煙草やコーヒーを飲みながら読みふけることなのである。
彼女の願いを聞き入れたのがロンドン、チャーリングクロス街にある古書店の主人フランク・ドエルであった。彼は遠いアメリカニューヨークに住む女性ヘレーナの注文を細やかにかなえていく。
装丁は味気ないアメリカ風ではなく(と彼女は言う)何とも繊細なイギリスの装丁で金縁、革製などという本好きにはこたえられない味わいがある。また彼女は「書き込みのある本がいい」と言う。先人が残した思いがそこにある本を読みたいのだと。且つ汚れておらず安価であることを望むのである。
時折彼女の求めるものでなかった時はヘレーナはかなりの毒舌で返事を書くのだが古書店のフランクは丁寧に謝罪し再び彼女の求めるものを探すのだった。
後でこの物語が(実話だが)一種のラブストーリーとして紹介されていたと知って驚いた。「ラブ」とは言ってもこの場合はヘレーナにとっては本とそれを提供してくれる優しい店主であってフランクにとっては張り合いのある自分好みの水準を持つ客ということで男性同士ならまあ、そうは言われなかっただろうがたまたま男女だったので「ラブ」ということに結び付けられてしまうのだろうか。
とはいえ、だからと言って二人の関係が「ラブ」でないということではない。フランクの奥さんが「自分にはない文才を持ち主人と共通する話題と趣味を持つあなたに嫉妬もしました」というセリフがちょっとしんみりしてしまう。無論二人は一度も会うことがなかったのだから一般に思う男女の関係として肉体を合わせたのではないのだが、それ以上に強い精神的な繋がりが却って奥さんには自分ではできないだけに悲しく苦しかったのだろう。フランクは実にいい夫・父親のようで妻にもとても優しいが妻に対して贈られる賛辞は「(料理が)美味しいね」という言葉の繰り返しである。奥さんとしては彼がヘレーナに思うような同じ趣味としての賛辞に嫉妬したとしても仕方ないだろう。
そしてまた戦中戦後の時期、肉をろくに食べられないロンドンの彼らにヘレーナはデンマークから肉などの缶詰を小包で送り、また女性たちにはストッキングをプレゼントして驚かせる。またロンドンの彼らはヘレーナに手作りの刺繍をしたテーブルクロスを送る、というやりとり、注文以外の手紙を送りあう。
ヘレーナがイギリスへ旅行するチャンスを失って彼女と会うことができないまま、フランクは亡くなってしまう。
やっとのことでイギリスへ渡ったヘレーナ。自分が20年もの間手紙のやりとりで本を送りプレゼントをしあった今は亡きフランクの古書店を彼女は訪れる。
自分が欲しい本を考え注文する喜び、ちょっとした行き違いがあって(まあ今はメールだが)気を使いながら応答をし、そしてやっと本が届く時の喜び。なんだかもうわくわくしてしまう話である。こんな風に自分が求める本を探し出してくれる古書店があるなら夢中になってしまうだろう。それは本に対する恋なのか。本を探し出してくれるおやじさんへの恋なのか?
それを恋というのか、どうか、とにかく届いた時のこみ上げる感激は恋に近いかもしれないが。
主人のほうも難しい注文をかなえ、相手が喜びの声を上げることに満足するわけである。
「本」という好きでない人にとっては何の面白味もない紙と印刷の塊に魂を感じる「本好き」という人種たち。一度も会うことなく遠い海を越えて互いの魂だけをやりとりしていた、という物語にフランクの奥さんと同じように羨望を感じてしまう。
フランク役のアンソニー・ホプキンス。彼を初めて観たのは『マジック』だったと思うけど忘れられない衝撃だった。
ここではとても実直で地味で控え目な、でもきっと心に情熱を持っている男性を演じていてやはり素晴らしい。
ジュディ・デンチはそれよりさらにいつものコワモテぶりを控え目にしてでもやっぱり心に熱い思いを持っている。出番はとても少ないのにフランクが亡くなってヘレーナに思いを伝える場面ではじんわりさせてしまうのだ。
ヘレーナ役のアン・バンクロフトが懐かしい。女一人で生活していく脚本家であり、無類の本好きの女性ヘレーナはニューヨーク在住だがちっとも飾らず、あまり金持ちでもなくてでも自由に生きている羨ましいような女性だった。
最初はこの映画、ロンドンの街がタイトルだからイギリスの映画だと思ってて確かにニューヨークのシーンよりイギリスの映像のほうが多いのだけどやはりこれはアメリカ人の映画なのだ。
というか外国人が(私も含め)イギリスという国と人に求めるものが描かれていると思う。ホプキンスが演じるフランクと周りの店員たちの人格と佇まいに憧れがこめられている。なので思い切りヘレーナに共鳴して観てしまうのだ。
関係ないが、本作中にヘレ−ナが「甘ったるいキーツは駄目」という場面がある。ベン・ウィショーがキーツを演じるのでちょっと気になった、というだけです(笑)
監督:デヴィッド・ジョーンズ 出演:アン・バンクロフト アンソニー・ホプキンス ジュディ・デンチ ジャン・デ・ベア モーリス・デナム ジーン・デ・ベア
1986年アメリカ





こういうなんともつつましいときめきが
人生にスパイスを与え、
自分を生かしていくのでしょうね。
84 Charing Cross Rd.,,
ロンドンに住んでいるのに
全然知らない映画でした。
近くで働いているので、ちょっと行ってみますね。
もちろん、映画も観てみたいと思っています。
フェイユイさまありがとうー!
書き忘れがあったので記事の最後に書き足しました。憧れます。
あ、それとどちらでもいいと思って書かないでいたのですが、私は誰でも「さん」とつけてますので「さま」はやっぱり恥ずかしいのでよければ「さん」にしてください(^^ゞ