映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2009年06月17日

『バロウズの妻』ゲイリー・ウォルコウ

バロウズの妻.jpg
Beat

苦情を言っても色んな言い訳を返されそうな作品なのだが、とにかく物足りない作品だった。

トラブルも多かったようだがそんな内情まで汲んで納得するわけにもいかないだろう。
まず冒頭のデイブ・カマラーがルシアン・カーをどんなに素晴らしいか説明する場面でがっくりきてしまった。魅力というのは当人の姿を映すこと、言動や顔かたち、体つきや物腰で観る者が感じることであって「彼は素敵なんだ」と説明されるとはなんなのだろう。
登場人物の説明が極端に少ない映画で彼らのことを知らなければ物語の筋も彼らの存在も理解しにくい映画なのだがあえてそうすることで不思議な面白さを出したいわけではないのか。
ルシアン・カーが彼らのアイドル的存在だということだけは言葉で説明してしまう必要はない。
次にバロウズに何故キーファー・サザーランドなのか。あの丸い顔でバロウズなんて。あの性的な隠微さも精神の際どさも彼から感じることはできない。特に自分はつい先日『裸のランチ』で陶酔し、ピーター・ウェラーのバロウズに見惚れたばかりである。こんなぷりぷりしたバロウズなんて御免である。しかも男の愛人との旅行中、倦怠している、という演出のつもりなのかもしれないが二人に危険な愛の香りも感じることはできないしキーファー=バロウズが若い男に情念を抱いているというのがまったく見えてこないのだ。まるで何十年も前の嫌悪すべきとされていた同性愛を恐る恐る描いていた頃の映像のようで、こんな中途半端な映像ならむしろ撮らずにここも言葉だけでの説明にした方がよほどましだったのではないだろうか。
ルシアン・カーを演じたノーマン・リーダス。特に可もなく不可もなく、という印象である。彼自身は確かによくいう美形の男性と言えるのだろうが先に書いたように彼がどうしてそんなにビートニクと呼ばれた才能ある男たちを惹きつけたのか、ここで描かれるルシアンはちょっとだけ容姿のいい普通の若い男、としか見えない。多分この製作者は彼をそんなに特別な人間として描こうとはいていないのだろう。彼が殺人を犯したのも友人の妻を誘ったのも幾人もの才媛たちを夢中にさせたのも彼がちょっと可愛かっただけのようにしか見えない。彼が天使か悪魔で人を翻弄したようには思えないのだ。(US版のほうがルシアンの気持ちが判りやすいという。そんなこと言われたってしょうがない。だとしてもさほど観たくはない)ここでのルシアンはごく普通の青年がビートニクによって美化されてしまったのだ、と表現されているようだ。だとすれば冒頭映像ではなく言葉だけで彼を誉め讃えた意味が判る。
映画自体麻薬に溺れ自由奔放な生き方をしたビートニク、というイメージではない。ごく普通に愛や生活に悩んだ人々、という映し方である。彼らは上手くいかない愛に疲弊している、というだけだ。
あの『裸のランチ』のような狂気・異常さに満ちた世界ではないのだ。
バロウズが妻を撃ち殺した後の心情がまったく異なっているのが面白い。この作品でビートニクは普通の人々として表現されているのだ。
そういう描き方がいいと思う方には受け入れやすい作品なのかもしれないが、クローネンバーグが好きな自分には悲しい作品だった。

ここでよかったのはアレン・ギンズバーグでルシアンに対しての感情も切なく一番深く描かれていたのではないだろうか。
彼が中心の作品だったら、などと言っても仕方ないか。

また、日本語タイトルに不満がある。『バロウズの妻』となっているので彼女を中心とした作品なのかと思っていたが(まあ映画冒頭で『BEAT』と出るのでああそうか、とは思ったがわざわざ日本語タイトルにしているのだからそういう内容かと思ってしまうではないか)彼女は置き人形みたいなもので彼女の心理というものは殆ど掴めないのである。日本語タイトルが頭に入ってしまっていたので疑問が生じてしまったのだが本当のタイトルは『BEAT』なのだから責任はない。
というのは「妻」が主人公ならもっと彼女に焦点を当てた物語であって欲しいが視点はあちこち彷徨っていて妻であるジョーンは赤い唇と赤いパンツが印象的なだけで彼女の内面が伝わってはこない。何故彼女が殺されたのか、とはまったく考えないが(この内容じゃ殺されて当然のような)何故彼女がバロウズに固執したのか判らないのだ。あの色気を持って貞淑だというのも理解しがたい。(これもクローネンバーグのほうがはるかに判りやすい)これも普通の女性だったと言いたかったからなのか。私としてはもっと彼女に入り込んでビートの作家たちを見つめて欲しかった。
映画の中身より最後に流れる文章が最も興味深かった。

と、散々な批評になってしまったが、これもすべてベン・ウィショーのルシアン・カーを観るためだったのでそれなりに楽しんで観ることができたのだった。
本当にベンがルシアンを演じると知ってから観てよかった。でなけりゃもっと悲惨な鑑賞になっていただろう。
ベンが出演する『Kill Your Darlings』(あれ、これ複数形なのね)がこんな説明だけの映画には絶対ならないと信じたい。というか信じ切っているけど。

監督:ゲイリー・ウォルコウ 出演:コートニー・ラヴ ノーマン・リーダス ロン・リビングストン キーファー・サザーランド
2000年 / アメリカ

バロウズが見たいなら大好きなガス・ヴァン・サント『ドラッグストア・カウボーイ』
William S Burroughs scene in Drugstore Cowboy


posted by フェイユイ at 23:37| Comment(2) | TrackBack(0) | 北米 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
おっしゃるとおりこの映画は表現不足で期待ハズレです。
ここではルシアン・カーという興味深い人物が監督次第で単なる美男としか描かれていないので「Kill Your Darlings」ではどうなるのだろう、という事ばかり気になってしまいました。

キーファー・サザーランドはバロウズのイメージではないと思います。本当かどうか分りませんが声がそっくりなんだそうですがそんなことを言われましても・・・。

「Kill Your 〜」はまだバロウズ役が発表になってないですねー。気になります。
Posted by ふぇでり子 at 2009年06月18日 23:01
この映画を観てますますベンが演じる『Kill Your Darlings』に期待してしまいます(笑)
バロウズは特に個性的な方だと思いますので人選も難しいのでしょうか。
 
なんだか自分的にも物凄く気になっていろいろ探索中です!
Posted by フェイユイ at 2009年06月20日 00:38
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