映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2009年06月27日

『カッコーの巣の上で』ミロス・フォアマン

r7sx00.pngOneFlewBibbit3.jpg
ONE FLEW OVER THE CUCKOO'S NEST

遠い昔まだ自分が若かりし頃、初めてレンタルビデオ店(やっとそういう店が福岡に出てきた頃だろう。あくまでビデオ店である)でレンタルする、などということを試みようと選んだのがこれだった。
あまり深くは考えずとはいえ気になっていた作品を選んだのだと思うがあまりの衝撃に(まだ多感な頃でもあったし)頭をぶん殴られたようだった。
こんな映画を自宅に持ち帰って観れるものかと次々と借りたがさすがにこれほどの衝撃を受けるものはそうそうなかった。まさに覚醒したという感じ。まあすぐまた寝てしまったようなもんだけど。

とにかくこのむずむずするような感動はなんなのか。とんでもないお調子者の男が精神病院で好き勝手に暴れまわり婦長さんを困らせる、という話だけなのか。
物語というのが目の前で映し出されるものだけではなくその奥に秘められた物語があるのだということをこれで初めて知ったのではないだろうか。

この作品を今回観たのは先日から「ビート・ジェネレーション」を探っていてケン・キージー作のこの物語もビートニクのアイコンともいえるニール・キャサディがモデルだったとキージーが語っていたことからだった。無論ジャック・ニコルソンが演じたマクマーフィである。
確かに破天荒な行動が自分はどう生きるべきかと迷っていた若者たちに大きな影響を与えたニールと本作の主人公マクマーフィが大きな権力下で押しつぶされそうになっている患者たちを勇気づける様は体制側から見ればとんでもない間違った行動なのだとしても彼らに勇気と希望を与えてくれたのである。
そして映画には監督ミロス・フォアマンの意識もまた加わってくる。特にこの作品の中に描かれるわけではないが両親をアウシュビッツで亡くし、自分もチェコ事件の為にアメリカに渡った、という経歴を持つ人ということを考えれば「そんなに町の連中と変るもんか」とマクマーフィに言われる彼らが狂人として扱われ婦長の冷酷な仕打ちに怒るマクマーフィが廃人にされてしまうこの物語が彼にとって歪んだ権力と暴力が弱い立場の普通に人間たちにどんな過酷な運命をもたらすのかを描きだしていることが見えてくる。
その為に登場する人物は戯画化されすぎているきらいもあるのだが(特に婦長の性格は極端に思えるのだが、なにしろ彼女という存在が政治・社会・親・学校などあらゆる圧力・圧政などを体現しているのだから大変なのである)そのことが訴えたいことを明確に表現している。
また作品中語られないが察しなければならない個所もある。一見まともにも見えるビリーを狂わせてしまっているのはどうやら母親の異常な潔癖性にある、ということが見え隠れする。しかも母親と婦長は友人という繋がりを持っているらしい。女性と性的体験をしたことで言語障害もなくなり一瞬正常に戻ったかのようの見えたビリーが婦長の「母親に言いますよ」の一言で引き戻されてついには自殺してしまう。これも圧力の一つである。
そしてなんといってもこの作品の核となるのがマクマーフィと深い関わりを持つことになるチーフと呼ばれるネイティブアメリカンの男である。
彼の生い立ち・両親については彼の数少ない言葉から考えるしかない。正常としか思えない彼が何故この病院に入れられたのか。何故彼は聾唖だと偽ってそこに居るのか。
彼の父親は大きかったが多分恐ろしいほどの差別と過酷な待遇で酒に溺れ死んでっしまったのだろう。それを見ていたチーフは自分が父親以上の存在になる勇気も希望もない。そこに現れたのがマクマーフィであり、彼がチーフに友人として接してくれたこと、彼がどんな困難にも立ち向かったことを見るうちに「大きな人間」になれるという勇気を抱く。マクマーフィも動かせなかった重い石の置物(水道台なのだが)を一人で抱え上げ彼らを閉じ込める窓柵を打ち壊して外へと飛び出す場面は長い時間を経て再び私に心を揺さぶられるような衝撃を与えてくれた。
自由を求めたマクマーフィが思考することもできなくなった姿を見て「そのままでは置いていかない。一緒に行こう」と彼を殺しその魂を連れ去ったのだ。
遠く広がる空と自然の中に走っていくチーフの心にある熱い思いを感じる素晴らしいラストシーンなのだ。

マクマーフィを演じたジャック・ニコルソンがとにかく好きだった。あの顔と目がそれだけでどきどきさせる魅力だった。
アクが強すぎる個性だ。今だったらもう少しおとなしめの顔のほうが受けるのかもしれないがぎんぎんにセクシーで危険な匂いのする男である。今観ると後を知っているだけに若さにも驚く。まだ細くて、でも髪の具合はすっかりニコルソンらしいそり込みとはねっ毛である。あの悪どい目はこたえられない。

監督:ミロス・フォアマン 出演: ジャック・ニコルソン ルイーズ・フレッチャー ウィル・サンプソン ブラッド・ドゥーリフ クリストファー・ロイド ダニー・デヴィート
1975年アメリカ


ラベル:自由
posted by フェイユイ at 23:25| Comment(2) | TrackBack(0) | 北米 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ニコルソン私も好き。
あの目やニヤリとした笑い方がたまらない。
途中からかなりの出っ腹になったのもこの人の良さを損なってなくて好きでした。
「イーストウィックの魔女たち」が特に好きでDVDも買って何度か観てます。
Posted by ふぇでり子 at 2009年06月29日 21:16
おお!『イーストウィック』いいですねー。
ニコルソンみたいな役者を好きになってしまうとあの悪どさが麻薬みたいになって欲してしまうのです(笑)
Posted by フェイユイ at 2009年06月30日 01:09
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。