映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2009年07月10日

『イースタン・プロミス』デヴィッド・クローネンバーグ

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EASTERN PROMISES

これはクローネンバーグ監督らしい黒い雰囲気が立ちこめる滅茶苦茶に面白い映画だった。これはイギリスにおけるロシアマフィアの人身売買という暗部を暴きだした物語、ということらしいがそれもこれもマフィアの「若(手下が「わか」って呼ぶあれ)」に献身的につくす謎の男、若の方も男にぞっこん頼りきりなのだ、という男同士の関係を危なくも妖しく描きたかっただけでこの設定にしたんじゃないかと思うのだ。そのくらい我儘キリルに影のように寄り添うニコライという構図が素敵なのである。

今までヴィゴ・モーテンセンがそれほど好きではなかったんだけど、これを最初に観てたらぞっこん惚れてたのに惜しい。ヴァンサン・カッセルは『ジェヴォーダンの獣』で初めて観た時から陰湿で変態な悪役ぶりが魅力的で忘れられない人となったが、本作ではさらに屈折しまくった男ぶりを見せてくれますます点数が上がってしまったのである。

ロンドンを舞台にしたロシア・マフィアの人身売買契約それが『イースタン・プロミス』の意味であるという。
ごく普通の看護師であるアンナは病院に担ぎ込まれた少女が妊娠した身で麻薬注射を打っておりそのまま死んでしまったことに衝撃を覚える。
とり上げた赤ん坊は生きており、少女はロシア語で書かれた日記を残していた。アンナ自身ロシア人の血を引いていてロシア語の判る伯父がいる。だが口の悪い伯父と仲たがいしている間にアンナはロシア・マフィアのボスと知らず知り合った男に日記のコピーを渡してしまった。
少女は人身売買で売られた「奴隷」でありマフィアのボスにレイプされ妊娠。絶望のうちに死んでいったのだった。

ロシア及び近辺の女性が貧しい環境の為に身売りしているのは日本でも聞く話であり、白人種でしかも北方の美貌は買い手がつくわけである。
ヴィゴが演じるニコライは謎の男で彼の語った言葉がそのまま真実なのか、どうかはよく判らない。ただその謎めいた描き方が彼のこれまでの人生を想像させてくれるようだ。
彼が悪の仮面を被った天使の優しさを持ち合わせているのは見えるがその実、今のボスの代わりに立とうという意志もあるのだ。
その為に馬鹿息子キリルに献身的に仕えているのだが、何故かニコライにはそれ以上の気持ちがあるように思えてしまうのはどういうわけか。
ボスが失脚した後、彼は言葉通りキリルをボスにするわけではないのだろうが、この物語の中でニコライが横暴なキリルに好意を持っているように見せているのは彼を騙すための演技なのか。少なくともクローネンバーグの映像は抱きしめ合うキリルとニコライの関係を非常に美しく映している。
駄々っ子のように泣くキリルを優しく抱くニコライには彼を慈しんでいる感情があるように思えてしまうのだが。

無論一般の観客なら看護師アンナを助けるニコライ、という関係そして最後のキスに二人の愛情を感じてしまうのだろうが、私としてはニコライはあくまで苦しんでいるロシア女性に同情し、赤ん坊を引き取ろうとするアンナに感謝している、としか見えない。
ニコライとキリルはどうなっていくんだろう。ニコライはキリルに「俺と父親とどちらを取る?」と問い、「二人でボスにとって代わろう。お前がボスで俺たちは相棒だ」と甘い言葉をささやく。
ゲイであるキリルは屈折していてニコライに女を抱けと命令するが、女を背後から抱くニコライに欲情しているのは明らかである。ニコライも充分それを判っているし、キリルが彼に恋情を抱いていることを利用してマフィア内部に入り込んでいるのだが、こうした我儘な坊ちゃんをあやす頭の切れる部下、っていう組み合わせはヨダレものだし、クローネンバーグは明らかにそこを描きたくて映像化していると思うのである。
なのでこの映画の終わりが唐突のように思える人もいるようだが、監督はキリルに献身的に仕えるニコライを描きたかったので物語がここで終わるのは当然だ。彼の献身の謎が明かされてしまったのだから。

途中サウナでニコライがチェチェン人にキリルの身代わりとして暗殺されそうになる場面がありそこでのヴィゴのぼかしなしの全裸での格闘が話題だったらしい。確かに全裸の格闘は痛そうだ(そういう意味じゃないか)あそこもいつどこかにぶつけてしまうかわからないし(だからそういう意味じゃない)まあこれもクローネンバーグがヴィゴの肉体美を存分に見せたい為の(見たい為の?)お楽しみだったのであろう。
チェチェン人とナイフ、と言えばこの前観たロシア版『12人の怒れる男』を思い出す。
とにかくヴィゴの大事な部分が格闘で揺れまくっているのに女性&ゲイメンは目が釘付けであるのは間違いない。

ナオミ・ワッツは小柄で普通っぽいとこがこういう役にはぴったりだし、いまだに『マルホランドドライブ』でビアンな役だったのが印象的で好きなのだ。この前観た『ファニーゲームUSA』でも可愛らしかった。

いつものようにどんな映画かまったく知らずに観たのだが、こんなに惚れこんでしまうとは思いもしないほど楽しんで観てしまった。
ヴィゴの良さが判ったのも嬉しいし、今まで自分は男っぽい映画が好きな割にはどういうものか暗黒街ものが苦手で(『ゴッドファーザーTU』と『インファナルアフェア(あくまで香港版のほう!!!)』以外はどうも入り込めなくて)マフィアのドンパチには興味が持てなかったのだがこれは例外だった。と言っても確かにいつも嫌いなドンパチや目をむいて脅迫するようなアホなシーンがなかったのだ。虫唾が走る男の美学みたいなのも皆無だったし。ただもう私はヴィゴとヴァンサンのキスしようでしないみたい触りあいにどきどきしながら見入っていたばかりであった。
続編ができる、という話を見たが二人はどうなってるんだろ。まさか一緒にはいられない、と思うからヴィゴに新しい相棒ができてるっていうのもいいんだけど。

監督:デヴィッド・クローネンバーグ 出演:ヴィゴ・モーテンセン ナオミ・ワッツ ヴァンサン・カッセル アーミン・ミューラー=スタール イェジー・スコリモフスキー シニード・キューザック
2007年 / イギリス/カナダ


posted by フェイユイ at 23:06| Comment(2) | TrackBack(0) | 欧州 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
近年(自分がトシとった為)歳下好きの私としては珍しく歳上の俳優で好きになったヒト、ヴィゴ・モーテンセン。調度彼の格好良さげな作品が公開なったので観に行った本作。
全裸格闘シーンがファン垂涎,とか言われていましたが私は正視出来たかどうか^^;娼館で行為を見せ付けるシーンも何だか恥ずかしくって。私が恥ずかしがってもしょうがないのですが何やら勝手に身内感覚を覚えてしまう好きさ加減なのです。だから普通に着衣の(笑)シャツ姿でバイク脇に佇むところや例の舌で煙草の火をジュッとか、素敵〜と。
クローネンバーグ監督は仰る通りヴィゴに惚れてるからこそのこの内容でしょうね。私は残念ながらクローネンバーグの感覚は駄目ですー。
意外だったのがヴァンサン・カッセルが“さっぱりとした”味わいに感じられたこと。クローネンバーグの毒気の前にはさすがのカッセルも薄味だった、というところかしら。^^;
Posted by フラン at 2009年07月11日 16:27
フランさん、お久しぶりです〜。
この作品はクローネンバーグ監督のヴィゴへの思い入れが強すぎ!愛が溢れてますがその分ヴァンサンがあっさりになってしまったのでしょうねえ。
あまり好きになっていなかった私でもこれですっかりヴィゴファンになってしまいました。煙草をジュッはかっこよかったです。
パートUができるのでしょうか。
またもやかっこいいヴィゴ満載の映画に仕上がるのでしょうか(笑)
Posted by フェイユイ at 2009年07月11日 17:06
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