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2009年07月19日

『シシリアン』マイケル・チミノ

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THE SICILIAN

この映画、ただストーリーだけを追うのだったり『ゴッドファーザー』の物語の起伏と比較したらば、もしかしたら面白くない、と感じてしまうのかもしれない。だがこの作品の見どころは別のところにあってそこを観るのであれば非常に楽しめる秀作なのではないだろうか。

マイケル・チミノと言えば『ディアハンター』であり悲劇の美学ともいえるような恐ろしいほどの退廃に満ちた映像に陶酔したものである。
本作もやはりそういった悲劇性に酔いしれる男たちの美学に溢れているわけでその気分に浸れるか単なる成功物語を求めるのか、という嗜好性に左右されてしまう。
大まかなストーリーとしてはシチリア生まれのジュリアーノが貧しさにあえぐ農民たちのために義賊となって殺人強盗を犯していくのだが、農民たちは彼が与えようとして命まで犠牲にした土地を望んではいなかった。
ジュリアーノは人々からは尊敬どころか軽蔑の罵声を浴びせられ、愛する女性とは離れることになり、強い友情で結ばれていたはずの親友から撃ち殺される最後を迎えるのだ。
ディレクターズカットのせいでもあるだろうが、物語としてはやや散漫に思われるし、ジュリアーノの行動は最初からあまりに間違った方向を向いているし、とてもうまくいくとは思えない無謀なものである。
それでもあちこちにチミノの美学が煌めいていて思わず見入ってしまうのである。

まずはイタリアンマフィア独特の礼儀作法でもあるキスの儀式にも感じるのだが男たちだけの絆に心惹かれる。
ジュリアーノが説明する「シチリアには3つの輪があり、一つは公爵のような金持ちの輪、もう一つはその金持ちを守って金をもらうマフィア、そして聖職者。だが自分は4つ目の輪になる」と。
義賊となって犯罪を犯してもジュリアーノは敬虔なクリスチャンである。またシチリアを牛耳るドン・マジーノはそんなジュリアーノを息子にしたいと思うほど彼の力に惚れこんでいる。敵対する立場でありながらジュリアーノとドン・マジーノは互いを評価し、ジュリアーノが死んでしまった時(殺してしまったわけだが)のドン・マジーノの落胆は激しい。殺さねばならないがその存在を愛するという男たちにぞくぞくとするのである。
ドン・マジーノはできることなら彼をアメリカに逃がし、自分の配下に置いて可愛がりたかったのだろう。
貴重な男を失った老体たちの嘆く姿が悲しい。

そしてまた退廃的な貴族であり広大な土地を所有する公爵を演じるのがこの映画鑑賞の目的だったテレンス・スタンプである。
昨日観た『プリシラ』よりずっと以前の作品なので彼もまだ随分若い美貌を保っている。
彼を見たいのだったらこのディレクターズカットでないと観れなかったということらしい。
喘息なので小さい時から走ったことがない、という貴族様。妻がジュリアーノと肉体関係を持っても全く意に介さない器の大きさというのか。常にゆったりと余裕を保ち、ジュリアーノたち義賊に誘拐される際も日焼けよけなのか傘を持参する。優雅さと気品を常に崩さない。
テレンス目的の鑑賞としては(公開当時は殆どカットされていたらしいので)満足いく素晴らしい美貌の貴族ぶりであった。

ジュリアーノは彼らと戦い彼らに支配されるシチリアの貧民を救おうと高い理想を持ち、叶わず殺されてしまう。
ラストシーンで死んでしまったジュリアーノのまたがった馬が高く前脚を上げるのはナポレオンをイメージしているのだろうか。それとも作品中彼が語ったアレキサンダー大王に重ねたイメージなのだろうか。
同じ年で広大な土地を占領したアレキサンダーに対し、ジュリアーノは小さなシチリアのさらに僅かな土地すらも手中にできなかったのだが。

マフィアのおじさんたちが一つテーブルについてスパゲッティを啜るシーンはなんとも可愛らしい。

イタリアの物語なのだがジュリアーノのクリストファー・ランバートはフランス系アメリカ人、公爵とマフィアのドン・マジーノはイギリス人が演じているというのも不思議。主要人物が皆外国人だ。

監督:マイケル・チミノ 出演:クリストファー・ランバート テレンス・スタンプ ジョス・アックランド ジョン・タトゥーロ リチャード・バウアー
1987年アメリカ


ラベル:マフィア
posted by フェイユイ at 01:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 北米 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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