映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2009年10月28日

『めまい』アルフレッド・ヒッチコック

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Vertigo

ベン・ウィショーがヒッチコック『めまい』のジェームズ・スチュアートが好きだと言ってたので観賞。このブログでもヒッチコック映画は時々に観て来たのだが『めまい』はまだだった。

というわけでスチュアートに神経を向けて観ようと思って観始めたのだが、さすがにヒッチ映画は面白くてついストーリーにのめりこんでしまい最初の目的はすっかり忘れてしまったのだった。
高所恐怖症の話か、と思っていたらミステリーになりついでゴシック調になり幽霊に取りつかれたかと思いきやどんどんと物語は変な方向へ向かっていく。かなり変わった展開なのでうっかりすると単なる変てこな話と思ってしまいそうでもある。サスペンスの神様的な存在のヒッチコックだが彼の第一の代表作が(多分)『サイコ』であることが(物凄く反論されそうな気もするが)示しているようにヒッチの特徴は精神の闇を描いているということが本作にも表れている。なにしろ主人公を演じるのが「アメリカの良心」と言われるようなジミー・スチュアートでグレン・ミラーのような善良なイメージの人が最初はそのままに善良でややひ弱な精神を持っている刑事として登場し旧友の無理な願いも断りきれない男が次第に奥に隠れた本能というか善良な人間としては有り得べからざる歪んだ趣味嗜好を他人に強制していくのである。(これが好きだなんてやっぱりベンってダークなのだなあ)
友人の妻に恋をしてしまい、その女性が亡くなった後、瓜二つの女性を見つけてしまうのだがストーカー丸出しで彼女を追いかけ部屋に入り込み(この部分だけでも相当おかしい)執拗に迫ったあげく彼女に今は亡き(と思っている)愛した女性そっくりになるようしつこく要求していく様は彼自身が「どうしてこんなことをしてしまうのか判らない」と言うほど異常になってしまっているのだ。
事の顛末は旧友が「妻は曾祖母の霊に取りつかれている。彼女を守ってくれ」ということでジミー演じるジョンが友人の妻を見守っている間に互いに恋に落ちてしまうのだが、その妻は高所恐怖症のジョンが登りきれない教会の塔に登って投身自殺したのだ。
実はこの一件はすべて友人の計略で彼は関係ない女性を妻に仕立て上げて旧友ジョンに見はらせ投身自殺と見せかけて実の妻を殺害し、妻になりきってジョンを騙した女性は元の自分に戻っていた、という筋書きなのである。
それを知らぬジョンは街で見かけたその女性を追いかけ「偽物だった恋した女性マデリン」に(再び)なるよう彼女をけしかけるのである。
想定外だったのは偽のマデリンだったその女性ジュディが本当にジョンを愛してしまったことで二人は本気で互いを愛しながら実はそうではない、という歪んだ関係にある。虚構の女性マデリンを追い求めてジュディをマデリンに仕立てようとするジョンの欲望はジュディの心を苦しめる。彼は彼女を真剣に愛していることが即ち別の女性を愛しているという矛盾。彼は彼女を見つめていながらその目は彼女を通り越した別の女性を求めている。
原題の『Vertigo』と言う言葉の微妙なニュアンスは私には判らないが高所恐怖症というものは自分の作り上げた「落ちてしまうぞ」という思い込みからめまいや震えを感じてしまうものなのだが(私自身強度の高所恐怖症なのでその恐ろしさはわかる。映画を観てるだけで高所の場面は足ががくがく震えてしまうのだ)友人が作り上げた虚構の女性に恋をしてしまうのも高所恐怖症からくるめまいに似ているのではないだろうか。
彼女の正体を知って彼はやっとめまいにも似た恋から目覚める。だがジュディのジョンへの思いは変わらない。
同じ場所に行くことで恐怖症が治るという気持ちでジョンはジュディと教会の塔へ登る。「私を愛して」という悲痛なジュディの願いはジョンとのキスでかなえられたかにも思えたが、次の瞬間、人影が登って来たのを見てジュディは驚き落ちてしまう。
それは塔の鐘を鳴らしに来た尼僧だった。ジュディは彼女を何と思ったのか。ジュディが不本意ながら加担してしまった男の妻殺しで哀れに殺されたその妻の幽霊が復讐しに来たと思えたのだろうか。
その理由が何であれ彼女は殺人を手伝ってしまったのだから。

映画に関する様々な手法を高く評価される本作なのだが、その辺は私には語れないとしても次第に醜悪になっていく主人公の描き方に見入ってしまう。ジェームズ・スチュアートにこうした人間の負の部分を演じさせるというのもヒッチコックならでは、ということなのか。
元婚約者だったという女性はリアルに可愛らしい存在なのに虚構の女性の美しさに惹かれていってしまう男の心。その美しさが虚構だったと知った時、その女性が目の前にいるにも関わらず男の欲望は冷めてしまう。でき得ることなら彼は騙し続けて欲しかったのだろうな。

監督:アルフレッド・ヒッチコック 出演:ジェームズ・スチュアート キム・ノヴァク
1958年アメリカ


posted by フェイユイ at 00:41| Comment(2) | TrackBack(1) | ベン・ウィショー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
私はヒッチコックあまり趣味に合わなくて『裏窓』『サイコ』位しか真面目に観たことはなく『北北西に進路をとれ』『ハリーの災難』も途中まで。多分『めまい』もみないだろうと思い読ませて貰いましたが、フェイユイさんの評を読んでいると凄くこの作品,深いのですね。それこそ“高度な”作品かと。
フェイユイさん、高所恐怖症なのですか。私はバカだから高い所結構好きです^^;〜教会の塔のシーンの辺りを読んでいて『黒水仙』思い出しました。この作品、高い所駄目な人は結構辛いかも?断崖絶壁の上にある修道院での物語り(確か)昔見てデボラ・カーやジーン・シモンズが綺麗で、再見したいなしかし思い出を壊したくないな〜とか揺れ動いていて結局未だにみてないのですが・・当時うちの母が言ってた感想☆「・・いつも風が吹いているのよね・・嫌だわ」というのが印象的。フェイユイさんはご覧になったことは?
Posted by フラン at 2009年10月30日 08:16
フフ。高度な作品でした。高めの椅子に乗っただけでふらっとなるジェームズさんが可愛いのですが(笑)

物凄い高所恐怖症で特に手すりのない高い場所とか死にそうです。書いてるだけで汗が^^;最近はそういう怖い場所に行くこともなくなってしまい、映画でぶるぶるしてるだけです。映画は怖くても落ちないからいいですけどね。

ヒッチは大体好きです。でも高貴な女性に憧れながら女性を嫌悪しているような歪んだとこがあるのですよね。本作は思い切りそういうヒッチ監督の精神が現れていて面白かったです。

『黒水仙』!これもずっと観ようとして迷ってたんですがそんなに怖いなら観ようかな(笑)怖いもの見たさで(笑)
Posted by フェイユイ at 2009年10月30日 18:51
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Tracked: 2010-06-01 00:05
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