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2009年12月11日

『花の生涯〜梅蘭芳〜』陳凱歌

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梅蘭芳

この映画がこういう映画き方になってしまったのは「実話である」という枷の為なんだろうか。
かつて『覇王別姫』でレスリー・チャンが狂おしいほどの情熱を持って兄と呼ぶ京劇の相手役に恋したことを鮮やかに描いたものがここでは隠されてしまっている。
それは映画の冒頭で邱如白が奇しくも「京劇は厚塗りで表情を隠してしまっている」と言ったことそのものなのだろうか。
タイトルロールである梅蘭芳の表情から彼が何を思うのかをつかみ取るのは難しい。

本作はどうしても『覇王別姫』と比較して観てしまうが大きく違うのは女形である主人公が恋する相手が『覇王別姫』では男役の男性だったのに本作では男役の女性であることと、『覇王別姫』では蝶衣の恋心が作品の核になっていたのに本作は梅蘭芳に恋するマネージャーの邱如白の思いが中心となっていることだろう。
彼は代々官吏であった名家の子息で海外留学をし、すでに役所勤めをしていながらすべてを投げ捨て梅蘭芳と京劇に人生を賭けた男である。本作で観る分には結婚も恋人もなく彼の為だけに生きている。果たしてそれだけの為に人生を賭けてしまう男性がいるものなのか。彼が梅蘭芳に常に寄り添いながらその恋心はまったく性的なものではなかったのか。『覇王別姫』では描けたものが年を経た本作では隠されてしまっているのは「実話」という枷なのか。

この物語で切ないのは梅蘭芳と孟小冬の恋ではなく邱如白の思いだった。
彼は京劇に対し酷い偏見があったのだが梅蘭芳を観てまさに魂を奪われてしまう。
この映画を観た多くの人が『覇王別姫』と比較して何らかの落胆を感じてしまうのではないかと思うのだが、それは物語のダイナミックさが平板になり激しく感じられたエネルギーが静かに落ち着いてしまったこともあるだろうが、あれにはくっきりと描かれていた同性愛の感情がここではまるでないことのように濁されてしまっているからではないだろうか。

レオン・ライの表情は激しく変わることがなく、最も愛した孟小冬との別れもかつて蝶衣が落ち込んだほどの惨めさがない。それはレオンがいけないのではなくそういう風にしか演じられなかったのである。彼が最小限の演技で心の動きを感じさせているのは伝わってくる。
それよりも邱如白を演じた孫紅雷はもう少し梅蘭芳への気持ちを深く語っているように思える。
だがそれでも二人の互いへの感情が明確に表現されることはなく観る者が察するしかないのである。彼ら二人の心情をもっと描き出していたらもう少しこの作品のテーマがはっきり判ったのではないかと思うのだが。

残念ながらレオン・ライの演じた梅蘭芳には感情移入できるほどのイメージが持てなかったのだが、孫紅雷は今までの悪役とは一味違う人間像で常に梅蘭芳だけを思い続ける姿には惹きつけられるものがあった。彼の容貌もまた魅力的であったのに、もう少し彼らが触れ合う瞬間のような場面があれば、と悔やまれてしまう。

見どころの一つであった安藤政信の将校役。彼の美貌にはまったく見惚れてしまうのだが、惜しいのは今の俳優に多い活舌の悪さ。現代劇だとさほど気にならないのだが時代ものだと露見してしまうのだ。
それにしてもチェン監督は日本軍の描き方が甘すぎるのではないだろうか。

監督:陳凱歌 出演:レオン・ライ チャン・ツィイー 孫紅蕾 安藤政信
2008年中国


ラベル:歴史
posted by フェイユイ at 01:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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