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2009年12月26日

『刑事コロンボ 完全版 Vol.10』「別れのワイン」

Any Old Port in a Storm

コロンボシリーズでも名作として名高いこの一品だがトリックや謎解きが他より増して鮮やかというほどでもないのに評価が高いのはやはり誰でも私同様ミステリーそのものより物語の雰囲気が好ましいかどうかで評価が左右されてしまうからなのだろう。
コロンボシリーズは昨日のドラマのような業界内部、という話もあるし小説、絵画、音楽などの芸術関係のミステリーが多く、その度ごとにコロンボが興味を示し即席ながらその分野の勉強をしてみせたりするのが楽しみの一つでもある。
特に今回はワインに全く知識のなかったコロンボが「私と同じイタリア系なんだから素質はあるでしょう」というようなことを犯人から言われたせいなのかたった1時間半ほどの勉強をしたらしい場面の後、ワイン界屈指の専門家である犯人カッシーニが驚くほどの上達を見せるのである。
しかもそれが利き酒の才能ではなく彼のワイナリーで作られているワインを調べ2番目に出されたワインは最初の物とは違うので「これかこれのどちらかでしょう」というコロンボならではの推理で当てるというのが実に上手い演出ではないだろうか。
またしょっちゅう言っているが犯人がヒステリックにコロンボを嫌がるのではなく実に冷静で常に落ち着いており最後には自供しますよ、という潔さも人気の理由なのかもしれない。

格調高い雰囲気だとかワインに関する知識に感心してしまう本作でコロンボと犯人であるカッシーニ氏は友情にも似た親交を深めていくのだが、彼ほど心が冷たい犯人もいない気がする。いや実際は今までの他の犯人も自分のことしか考えていない輩であったに違いないがカッシーニ氏が冷静沈着であるせいかその印象がさらに強まって感じてしまう。まさに彼はワインのことだけしか考えていないのだ。他によくある金儲けには全く興味がなく名誉欲も二の次で自分がワインにどれほど精通しているのか、という自意識だけが問題のようである。自分が自分をどう評価できるか、ということが全てなのだろう。
金をせびる弟はまだ許せても工場を安っぽいワイン会社に譲ろうとすることは許せず、自分に思いを寄せてくれ庇ってくれた秘書には迷惑しか感じていない。彼女はとうとう結婚を強要してしまうのだが、もしかしたら彼女にはまさか脅迫するつもりはなく彼がまるで彼女の存在にも愛情にも何の興味も示さないことからつい口に出してしまった気さえする。他に女性がいるようでもなく彼はワインだけが全て、という人間なのだ。それに気づいていすはずなのにそういう脅しをしてしまった秘書の女性が気の毒に思える。
そんな風にいわゆる「おたく」でいることがいけない、というわけでもないが、やはりそういう女性からの申し出を冷たく拒絶したり、レストランで他の客もいるのに大声でワイン係の失敗をなじったり(これはコロンボの企みだったのでさらに気の毒だった)する心の冷たさを見ていると「ワインのことだけしか考えてない人間」というのはやはり人間として悲しいものなのだと思う。
こんな男と結婚できなくてよかったよ秘書さんは。

コロンボは勿論そういう人間性の欠落した部分を感じとりながら彼と接しているのだと思うが、この短いドラマの中でそんな風に感じさせてくれるのはやはり名作たる所以なのであろうな。

驚いたのはイタリア系という設定のこの二人。ピーター・フォークはユダヤ系だし犯人役のプレザンスはイギリス出身であること。
イタリア系の役はイタリア系だろうと思い込んでいたのだが、まさかコロンボがユダヤ系だなんて思いもしなかった。
らしく見えてしまえば思いこんでしまうし、思いこんでしまえば疑いも持たないのだなあ。ピーター・フォークはフォークというよりコロンボだと信じてしまってるから。

監督:レオ・ペン 脚本:スタンリー・ラルフ・ロス 原案:ラリー・コーエン 出演:ピーター・フォーク ドナルド・プレザンス
1973〜1974年アメリカ


posted by フェイユイ at 22:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 刑事コロンボ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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