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2010年01月16日

『刑事コロンボ 完全版 Vol.19』「さらば提督」

Last Salute to the Commodore

パトリック・マクグーハン監督作品。『仮面の男』の時はまるで本格的ハードボイルドタッチだったが、今回はまたもや趣向を変えてアガサ・クリスティのポワロを思わせる探偵もの、みたいな雰囲気であった。
だが、本作が他の作品と違う味わいを見せているのはそういう形式だけのことではなくて何だろうコレ、なんだかもう映像自体がまったく他のと違うのである。まるで映画を作り始めたばかりの映像作家が試行錯誤しながら撮影しているかのような不安定な構成でこれを「味わい」と言ってよいのか『仮面の男』の時にはさほど気にならなかった違和感が本作の方に色濃く出てしまったのは一体どういうことなんだろう。

多分脚本自体はさほど問題はないのだと思う。今までと違う本格的ミステリー形式にした驚きがあるとはいえ内容は他のドラマとそう落差はない。問題は人物の話し方、動き方と他にないほどの無駄な場面展開である。
マクグーハンはこの不思議な感覚をあえて演出したかったのだろうか。とにかく奇妙な前衛映画みたいなのだ。
変なカットが幾つもあり、物語が今までにないほど間延びして感じられる。不思議な空間、不思議な時間があちこちに存在しているのだ。
コロンボの登場からして変わっていた。いつもぐたぐたで現れるコロンボが物凄い生真面目な表情で玄関先に立っている。映し方も髭の青みが強烈に見える。別人みたいに怖い顔つきでシリアスでどうしたのか、と思ってしまった。完全に違う作品のコロンボになってしまっているのだ。
奇妙なのはあちこちにあり、何故だかコロンボが必要以上に男女かまわずべたべたと体を接触する。ロバート・ボーンなんか肩を抱きしめんばかりでいつもこんな馴れ馴れしいいことをする人でないのに。若い女性リサに対しても他の人物に対しても物凄く接近して話すので困惑してしまう。他人が乗り移ったとしか思えない。
台詞の言い方も仕草も通常ではない大げさなやり方なのでまったく不思議不思議。突然変てこな舞台劇でも観てるみたい。
だからと言って話がつまらないわけではない。やはり脚本はそう悪いわけではないんだろう。
変なのは話し方動き方。数人を動かす演出がわざとらしすぎて戸惑ってしまう。ぽかんとした画面構成なんかが素人っぽいのだ。
コロンボの撮り方もかっこいいというより年がやや老けて見えるような露骨な撮り方なのである。

奇妙な一作だった。

つまらないわけではない。ただ物凄く珍奇な演出だったと思う。
もしかしたら特別な感性なのかもしれない。

とはいえ私はこういう本格的ミステリーが嫌いなわけではないから、コロンボがポワロを演じているような妙な面白さはあった。
確かにクリスティはこういうちょっと独特な言い回しで楽しませる。コロンボが突然クリスティ世界に入ってしまったみたい。
殺人の可能性がある人物達を一堂に集めて謎解きをするなんて。絶対警察じゃあり得ないだろう。殺された人物の娘の前で「お父さんを殺した人を知りたいでしょう」なんて。
時計の音を一人ずつ聞かせて「先程あなたは何と言いました?」コロンボじゃないよね。

ある意味面白かった。

最後もボートに乗り込んだコロンボが「せめてかみさんをこれに乗せてやりたい」と言いながら漕ぎ去っていく。異空間だったなあ。

犯人あて形式といい、演出といい、コロンボシリーズ屈指の珍作であった。
嫌いなわけではない。

監督:パトリック・マクグーハン 脚本:ジャクソン・ギリス 出演:ピーター・フォーク ロバート・ボーン
第5シーズン1975〜1976年アメリカ


posted by フェイユイ at 22:55| Comment(0) | TrackBack(1) | 刑事コロンボ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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さらば提督
Excerpt: いろいろな意味で「特殊」な作品です。コロンボシリーズをたくさん見ている人ほど、そう感じるんじゃないですかね。だって、「犯人」が……。
Weblog: 映鍵(ei_ken)
Tracked: 2010-05-30 19:13
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