映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2010年02月09日

『顔』阪本順治

516JWKXS07L.jpg

面白い奴を観てしまった。ほんとにこれってなんでこんなにおかしいんだろう。
っていうのはもう主演の藤山直美さんの凄さがほぼ理由の大半を占めている。物事を知らない私もさすがに彼女の芝居をしてるのもTVでちらりと観てずば抜けて上手いのは認識してるつもりだったけどいやもうずば抜けた凄さだった。

なんかほら、日本映画でコメディアンっていないって話があって確かにTVでは今お笑いの人がたくさんいて私も大好きなんだけどこと映画になってしまうと映画の作り手との呼吸もあるし映画で大笑いってあんまりないような気がする。三谷幸喜の映画とか観ずに言うなと言われそうだが。でもあの人の場合も普通の俳優さんたちでコメディアンっていうのじゃないみたいだし、さらに女優で笑いっていうのは皆無かな、なんて思ってたのがいっぺんに吹き飛んだ。なんという思い違いか。
もういるだけで悲しくておかしい、おかしくて悲しい。
牧瀬里穂演じる美人の妹と違い30歳過ぎてもまったく恋人も友人もなく実家のクリーニング屋の一室でひたすらミシンを踏み繕いものをして手伝っている娘。バージンである。少女マンガとTVドラマで恋愛を夢見ているのだからその気がないわけではなさそうだ。
優しい母親と違い美人の妹はそんな姉を疎ましく思って帰宅ごとに虐めていた。
そんなある日唯一の理解者である母親が急死する。妹は姉に対し「ずっとお姉ちゃんが恥ずかしかった。実家を店に変えて私と恋人が住んでいいのなら今迄の恥ずかしさを許してあげる」と言いだす。
姉・正子は「許さんでええ」と言って妹を殺し、家を出る。

今迄引きこもりで誰との接触もなかった正子が誰にも頼れない自分だけの力で逃亡生活を生き抜いていく。
今迄何もうまくやれなかった、自転車乗りも水泳も。セックスも女友達もいなかった。
そんな正子が親を失い、妹を殺したことで家を出てから何もかもを体験していくのだ。強姦されそうになったのがきっかけとはいえ男とのセックス(恋愛ではない)を体験し、ハンサムな男性にときめきを覚え、女性と友達になり、男性から好意も持たれるのだ。自転車に乗れるようになり水泳は浮輪つきでできた。
恐ろしいほど悲しくおかしい正子の逃亡生活はそのまま彼女が40歳を過ぎてからの青春であり成長である。
何もできないはずの正子は何もできない正子ではなかった。
家を出た途端あれもこれもやっちゃうんだもん。こんな短い間に(7ヶ月くらいと言ってたっけ)外で働くこともお化粧して人を楽しませることもできた。
一体正子は今迄なんだったんだろうなあ長い間何もできないと思い込んでいただけなんだ。
でもそれをやる為に美人の妹を殺さねばならなかった。
その代償がなければ正子は家を飛び出していけなかったのだ。
人生の中でこれを消すことができたら、と思うことがある。
正子が妹殺しをして家を飛び出したのでなければ律子さんの店でずっと働いていれたのに。
仕方ない。
正子はそこも飛び出しとある島の見ず知らずのお婆ちゃんの家で住み込んで働いてる。でもまたそこでも正体を知られ慌てふためく。
彼女が殺人犯だったことを知った島のお巡りさん達は大慌てで探し始めるが正子を見つけることができない。やっと発見した正子は海を横断している途中であった。泳げない彼女は浮輪に挟まって海原を前進していたのだ。

まるでパピヨンだ。

いやパピヨンを観た時は笑わなかった。感動の涙を覚えたものだ。彼の目の美しさに見惚れた。
なのに正子はおかしい。
おかしくて泣けてくる。その姿はまるで美しくなく見惚れない。
逃げる姿もかっこ悪い。男に犯されてもかっこ悪い。「あぁーっ」と悲鳴をあげても色っぽくないし、切なくない。犯された後の姿も色っぽくない。うう。
そんな無様なまったく綺麗じゃない正子がどの一瞬か綺麗に見えたりする。気の迷いかもしれない。
そんな正子を藤山直美はなんだかもうぼけえとしてるようで凄い感じで演じてみせてくれた。
周りの男達も女達も凄くよかったな。佐藤浩市、豊川悦司、二人ともかっこよくてさ。大楠道代さんがすてきだった。
そんなしょうもないような人間ばかり出てくる映画を阪本順治監督はとんでもなく面白い映画にしてしまった。

よかった。

正子が3回くらい「ぁあーっっ」って叫ぶんだけど途中の2回は笑えるんだけど3度目の「あーっ」は慟哭であった。
妹に「生まれ変わってくると思ってたのに」と泣く正子なのだ。

監督:阪本順治 出演:藤山直美 豊川悦司 牧瀬里穂 大楠道代 中村勘三郎(勘九郎) 國村隼 岸部一徳 佐藤浩市 内田春菊
2000年日本


ラベル:犯罪 家族 女性 人生
posted by フェイユイ at 20:05| Comment(2) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
・・おぉ!これご覧になったんですか。いいですよねぇ藤山直美!この人はとことん凄い!!!〜昔からテレビに彼女が出てくるともう吸い付けられて、なんというのかもう言葉もないほどいい女優です。その演技に“熱いこころ”を感じます。だから説得力がある。
『顔』は5年位前にみました。私は可笑しい感じはしなくて、ひたすら重かったです。そしてリアル。当時の勘九郎が意外な汚れ役をやっていたのが印象的です。
Posted by フラン at 2010年02月09日 20:47
そうですか。重い、は感じなくてやっぱりおかしかったですねえ。『テルマ&ルイーズ』の一人版そしてあんなに美人じゃない(笑)
強姦されそうな場面で大笑いって感覚を初めてしました。しかもこれやるわってお金を払うなんて^^;確かに男は一旦止めたのを誘ったんですからお金をあげないと、なんてあほな!3回くらい慟哭するんですが最後の「あーっ」が切なかったんですね。あ、これまた書き損ねた。書き足します(笑)
Posted by フェイユイ at 2010年02月10日 01:05
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。