映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2010年02月19日

『コーカサスの虜』セルゲイ・ボドロフ

kavkazskij-plennik.jpg
KAVKAZSKIJ PLENNIK

様々な思いを引き出させてくる作品であった。
コーカサス(カフカース)という馴染みのない舞台である。トルストイが原作の為その名前だけは頭に残っていたが実際の場所は映画やTVで見ることもなく想像もできない。こんな激しく切り立った山脈を展望できるような場所だとは考えてもいなかった。
そこに住む人々の顔もまたエキゾチックとしか言いようがない。
長い間、チェチェン人はロシア人に征服されまた抵抗し、という歴史を繰り返してきているのだが、無論私などはそんな史実を遠い世界のこととぼんやり聞いたり読んだりしていただけである。
ロシア人監督の手による映画であるがそんな彼らの戦い(というのか上手く言い表せないのだが)の様子を映像として観れることはやはり今迄のぼんやりした感覚とはまったく違うものを思い知らされた。

タイトルが示す通りロシアの文豪トルストイの小説をもとに現代のチェチェン人対ロシア人の対立する姿として描きだされた映画作品である。
主人公ジーリン=ワーニャを演じているのは私が先に観た『ロシアンブラザー』で鮮烈な印象を残したセルゲイ・ボドロフjrである。またセルゲイ・ボドロフ監督の息子さんなのだが、この素晴らしい俳優が数年前に若くして亡くなられていたと知って愕然としてしまった。
本作の彼は朴訥として純真な兵卒がぴったりの風貌で相棒サーシャ役のオレグ・メーシコフが気障な感じすらする二枚目なのと対照的だ。
チェチェン人の老人の捕虜となってしまったことでサーシャは兵卒のワーニャに冷たく当たるのだが、黙って我慢しているワーニャと次第に仲良くなっていく。
二人を捕虜にしたチェチェンの老人はロシア軍に捕虜となっている息子と交換する為にロシア人の二人を捕まえたのだった。
二人の面倒を見るのはロシア人に舌を切り取られてしまったチェチェンの男と老人の娘(まだほんの少女である)である。
捕虜交換交渉は長引き町の者たちは老人があまりに長くロシア人を置いたままなのでそのこと自体に不満を持ち始めていた。

物語は淡々と進むのだが、その中には関係した人々の愛憎が複雑に描かれていく。
サーシャとワーニャは互いの足を鎖で繋がれ離れられない状態にされ特にサーシャはそのことで苛立つこともあるが次第に純朴なワーニャに好感を持ち始め「お前を必ず救ってやる」と言いだす。ワーニャは最初から仲良くなりたいという気持ちを持ち続けている様子なのがまた可愛らしい。
老人に脅されワーニャは母親に助けを求める手紙を書く。父親は亡くなってしまったのだ。一教師である母親は遥か遠いコーカサスの山奥に息子を救い出す為駆けつけるのである。そしてロシア軍の将校やチェチェンの老人と一人で直談判するのだがまるで恐れることもしない母親に驚いてしまった。(不覚にもどっと涙がこみ上げた)
この作品には押しつけがましい演出はないのだが、捕虜となったワーニャの周りに彼を愛する人々が幾人もいる。
彼を捕まえた老人もその娘もいつしかワーニャに愛情を持ってしまった。
老人の息子はロシア軍に殺され老人はワーニャを銃殺しようとして果たせない。
自由の身となったワーニャの頭上を行く戦闘ヘリはこの後チェチェン人の街を襲ったのだろうか。

静かに怒りを描いた作品である。
彼らはロシア人のワーニャを愛してしまい、ワーニャも彼らとせめて夢の中で再会したいと願うのだが、彼らは現れてはくれない、という彼の悲しみが作品の幕となる。

チェチェン人の家族との交流も嘘くさくなくじんわりと染みてくるが、ワーニャとサーシャの関係もまた心に残る。
鎖で繋がれた捕らわれ人というのは高倉健の『網走番外地』を思いださせ、あの作品は大変なコメディだったが本作もこの部分はちょっと笑わせる箇所になっている。
それにしても父親のボドロフ監督は浅野忠信が主演した『モンゴル』を撮ったりとその後も活躍されているのに本作の主人公を演じたこの純朴そうな若者である息子さんが亡くなってしまっていたなんて惨いことだろうか。『ロシアンブラザー』の彼の素晴らしさを観るとさらにその思いは強くなると思う。

監督:セルゲイ・ボドロフ 出演: オレグ・メーシコフ セルゲイ・ボドロフ・Jr. ドジエマール・シハルリジェ スサンナ・マフラリエバ
1996年 / カザフスタン/ロシア


ラベル:歴史 戦争
posted by フェイユイ at 23:15| Comment(0) | TrackBack(0) | ロシア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。