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2010年02月24日

『イースト/ウェスト 遙かなる祖国』レジス・バルニエ

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EST-OUEST

知っているつもりではいたがソ連時代の苛烈な政治体制の恐怖を改めて見せつけられた。監督はフランス人だが脚本は同ヴァルニエ監督の他にロシア人のボドロフ(映画監督である)も加わっているのだからこの物語は嘘ではないのだろう。
(ところで昔は学校でソ連と習うのだが、ロシアという響きが好きでそっちを使いたかったものだ。今はロシアでいいのに時々ソ連と言ってしまう。でもやっぱりロシアが好きだ)

時は1940年代、愛する夫が祖国ソビエトへ帰りたいという願いを叶える為にフランス女性マリーはソビエトに移住する決意をする。
たくさんの亡命した帰国者たちと共にマリー一家(彼女とアレクセイと息子セルゲイ)は希望を胸に船路につく。
だが彼らを待ち構えていたのは非情なソビエト連邦の政府機関に携わる役人と兵士たちだった。家族は離散させられ歯向かう者はその場で銃殺。アレクセイは医師だった為に政府から特別に待遇される。だがフランス人であるマリーは最初からスパイ容疑で監視されるのだった。

密告が当たり前、という話がそのまま物語になっている。ソ連のある粗末な家に共同で住むことになるアレクセイ・マリーたち。そこには数家族がひしめき合って暮らしていた。
その中に、両親も祖母までもが反体制だということで処刑されてしまった若者サーシャがいた。彼は有望視される水泳選手だったがフランス語を勉強していた祖母の影響でフランス語を話し、ヨーロッパへ逃亡したいという願望を持っていることをマリーに打ち明けるのだった。

強い絆で結ばれていたはずのアレクセイとマリーが理不尽な社会体制の中でその愛に歪みが生じてしまう。
マリーは夫がソ連の枠に組み込まれてしまったと感じ、愛していたはずの自分を見捨ててしまった悲しみに襲われる。
だがアレクセイはソ連体制下では自分たちがどう足掻こうと助かるものではないことをすぐに悟ってしまったのだ。
彼の思惑は10年をかけて愛するマリーをフランスに逃亡させる機会を見つけ出すことだった。

自由の国で生まれ育ったマリーの強い反発は同じような環境に住んでいる者なら誰でも共感してしまうだろう。
そして妻を愛しながら自分がその人を恐ろしい場所へ連れてきてしまったことに苦しむアレクセイの辛抱強い脱出計画とそこに隠されていた深い愛に涙してしまう。

しかしねえ、実は私はこういう物語に物凄く惹かれる。あーっと。この世界の中に行きたいわけではないよ。それどころか誰よりも行きたくない。行きたくないからこそ、怖いもの見たさ、だってこれより怖いものってそれほどないくらい怖いよね。
誰も信じられない世界。すべての人が密告者。劣悪な環境。共産主義の理想はどこへやら。あるのは巨大な政治支配といつ逮捕され、投獄され処刑されるか、と怯える日々。一部の人々が強大な権力を持つ世界。それは資本主義を遥かに凌駕する。すべてが理不尽な謎のからくりの中で動いていく。
絶対行きたくないからこそ、ましてや住みたくないからこそ、こうして恐る恐る覗きこんでしまうのである。

自由の国への逃亡を互いに望むことで繋がりを持っていく人妻マリーと大学生(?)サーシャが激しい愛情を持ってしまうのもいた仕方ないと思ってしまうのだ。そこに本当は妻を愛し抜いているアレクセイの苦しみも加わってマリーって不幸だがこんなに愛されて、と羨ましく思うのもおかしいのかもしれないが。マリーはまた息子セルゲイからも愛されていてママが可哀そうで泣いているセルゲイの姿が痛々しいのだ。

これはやはりロシア映画ではなくフランス映画である。
つまりはこういう状況であるからこそ、マリーは夫と息子と若い男性にこれ以上ないほどの強い愛を受けることになったんだろう。平和でどこを見ても楽しいものが溢れている世界ならマリーのことをこんなに狂おしく思ってくれることはなかったのかもしれない。
そう思うとフランス映画ってやはり愛なのだなあと思ってしまうし、こういう愛の形を描きたいが為にはソ連の政治体制が必然であったのだ。

凍えそうな荒波の中を6時間かけて泳ぎ続け密航する船に辿り着いたサーシャはマリーを助けられない絶望に手首を切って自殺しようとする。
アレクセイは共産党員になったふりをし、マリーを密告させない為に他の女と浮気をし10年間の間ひたすら僅かな機会を狙い続ける。
セルゲイもすっかり共産党員の若者に成長したその環境も捨ててママと逃亡することを決意する。
自由を奪われ、6年間の収容所生活を強いられ愛する夫と若い恋人を失ったと勘違いしながらマリーは愛され続けていた。
幸せ、だったけどそれはずっと後で判ったのだなあ。

最後の切ない微笑みが心を揺さぶるアレクセイ(という名前も心揺さぶるが)を演じたのがオレグ・メンシコフ。ついこの前『コーカサスの虜』で「ハンサムな相棒サーシャ」を演じたのが彼だった。
そしてその時主人公ワーニャを演じたのが今回サーシャのセルゲイ・ボドロフJr(今回脚本のセルゲイ・ボドロフの息子)ここではオレグ=アレクセイの妻マリーと年の差を越えて深く愛し合う青年の役。あの純真な愛らしさと大柄な体はここではまたより魅力的でマリーに勧められて川で水泳の練習をする為にワックスを塗る。マリーもそれを手伝うのが二人をより緊密にしていく。この練習方法が後の密航の為の6時間の水泳につながっていくのだが。彼のマリーへの純粋な愛を見ているとこんな素晴らしい若者を演じきれる青年がもう逝ってしまったのだとは信じたくない気持ちになる。朴訥とした雰囲気の彼、年を取ればもっといい役者になれたろうに残念で仕方ない。
マリー役のサンドリーヌ・ボネール。3人の男に愛されフランス女優の心を動かす彼女。聡明な美人であり強い女性であった。
そして物語を最も強く動かす役がソ連で芝居公演を行うフランス女優役のカトリーヌ・ドヌーブ。約束したからにはソ連すら恐れない、というど根性に痺れる。彼女だけがマリーを救えたのだからねえ。いやあ、どんなアクションヒーローよりかっこよかった。男前だね。

監督:レジス・バルニエ 出演:サンドリーヌ・ボネール オレグ・メンシコフ セルゲイ・ボドロフ・Jr. カトリーヌ・ドヌーヴ
1998年 / フランス/スペイン/ロシア/ブルガリア


posted by フェイユイ at 21:38| Comment(0) | TrackBack(0) | ロシア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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