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2010年03月28日

『ベアーズ・キス』セルゲイ・ボドロフ

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BEAR'S KISS

セルゲイ・ボドロフ監督作品はどこか掴みどころのないイメージがあって多分最初に観たことになる浅野忠信主演の『モンゴル』も『コーカサスの虜』もちょっと変わった雰囲気のある作品だった。
本作はその中でも特に歪なものを感じさせる映画なのかもしれない。なのかもしれない、というのは私はそれほど奇異に思わなかったのだが主人公の少女が恋してしまうのが本物の「熊」でその熊がある時から「人間の男」に時折姿を変える、という展開がある種の人には受け入れ難いものだろうしさらに結末に至ってはこれを素晴らしい変化(へんげ)と思うのかくだらない嘘八百と感じるのかはそれぞれだろう。
自分にとってはボドロフ監督のお伽噺がじんわりと染みてくるようで大好きな物語であった。
色んなことが少しずつ隠された物語でもある。ローラには若くて綺麗なママがいて二人はサーカスの人気曲芸師なのだが、実はママは本当の母親ではなくローラが赤ん坊の時にキャンピングカーの傍に捨てられていたのをママが拾って育てたのだと言う。実はそれも嘘で本当はピエロが「悪い人」からローラを盗んできたらしい。「悪い人」っていうのは何だろう。ローラの育てのママは今の恋人と上手くいかなくてローラを残してサーカス団を去ってしまった。ローラのことを本当に愛してくれる人はいるんだろうか。
ローラと言う少女は感情をあまり表に出さない子で熊のミーシャを可愛がる時だけ笑っているようだ。いつしかローラはミーシャを恋人のように思うようになる。ある時からミーシャは人間の男に姿を変えるようになる。青年のミーシャを演じているのは監督の息子セルゲイ・ボドロフJrだ。この素晴らしい可能性を秘めた青年俳優はすでにこの世にいない。彼が出演した映画は私が観れただけでも『ロシアンブラザー』『コーカサスの虜』『イースト/ウェスト 遙かなる祖国』とどれもいい作品ばかりで彼の演技はどれも朴訥とした強い青年のイメージなのだがとても味のある魅力的なものなのだ。背が高くてがっしりした体格で顔は温厚で優しげで年齢を重ねていけばますます内容の濃い役者になれたと思わせるだけに残念としか言いようがない。本作の熊のミーシャもまた彼の個性を大いに生かしているのではなかろうか。おっとりとした雰囲気は熊っぽくて優しそうだ。裸になると若者らしく腰がきゅっとくびれているのが何ともセクシーでそれでいてローラに手出しをする男たちを容赦なく手荒くやっつけてしまう。人間になった今もシベリアの森を思い出して早く帰りたいと願っているミーシャ。
ローラはミーシャをシベリアへ帰したいときっと何も食べずただひたすら車を走らせたんだろう。ロシアとの国境で警備兵に捕まり懇願したローラはその時兵士たちに何らかの見返りをせねばならなかったのではないだろうか。「人間を殺した熊は人間になることは許されない」のなら二人が離れない為にローラは姿を変える。
今迄ローラを愛した人間はいなかった。初めて彼女を愛したのがミーシャだったのなら森の中へ入った二人はきっと幸せになれただろう。

昔、童話を読んでいると魔法で何か別の動物に姿を変えられる、という設定になっていて最後は人間になれて愛する二人は結婚しめでたし、という結末だったのだが、やっぱりこれに反感を持ったりもするのだよね。果たして人間になるのが本当に幸せなのか。
映画としては『シュレック』なんかが子供向け作品としてこれのアンチテーゼを示したんだと思うけど本作もまたそう。私もこういう結末に賛同するのであるがそれだけにクリスチナ・リッチの『ペネロピ』には失望した。何故豚鼻のままでいけないか?

この作品のイメージを形作る様々なモチーフにも惹かれる。ローラたちが働き生活するサーカスの一団、ローラたちに占いをするロマの人々、シベリアを彷彿とさせる彼の地に住む人たちのホーミーの歌声。
すべてがまさにアジアの大地のお伽噺に相応しく不思議な夢の国のように感じられる。

監督・セルゲイ・ボドロフ 出演:レベッカ・リリエベリ セルゲイ・ボドロフ・Jr. ヨアヒム・クロル キース・アレン マウリツィオ・ドナドーニ
2002年カナダ


posted by フェイユイ at 20:55| Comment(0) | TrackBack(0) | ロシア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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