映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2010年04月12日

『かつて、ノルマンディーで』ニコラ・フィリベール

515o60JuhaL.jpg18794899.jpg
RETOUR EN NORMANDIE

昨日観た『日本のいちばん長い日』が事実なのかフィクションなのかよく判らなくなってくる事実だったフィクションなのに対して本作『かつて、ノルマンディーで』は事実なのかフィクションなのか判らなくなってくるフィクションも含む事実、というところなのだろうか。
自分にとっては本作監督ニコラ・フィリベールもまだ観賞2作目のよく知らない人である上、中で語られる彼の師であるルネ・アリオ監督なる人物の名前すら知らないしもしかしてこれって全部フィクション?とまで思いながら観てしまったのだ。まあここまでドキュメンタリーめいた創作をする必要があるものなのかよく判らないがそういう試みなのかな、と半分考えながら観ていったのであった。とにかく何も調べず観るものだからこういう事態がまま起きる。

実際は確かに実際行われた撮影の同窓会的ドキュメンタリーであったようだ。
30年前にフィリベール氏が助監督として参加したルネ・アリオ監督『私 ピエール・リヴィエールは母と妹と弟を殺害した』という映画作品は一部の脇役を除き主要配役を実際の地元農民に演じさせた、というものであった。作品自体が農村部が舞台で主要人物も農民なのである。脇役というのはそこに属さない医師や弁護士という役柄に職業俳優を当てたのだという。
彼らは皆その時限りの俳優でその後は全員俳優ではない職業に従事している。人生の中でたった一度限りの俳優を体験したことを30年を経た今彼らがどんな人物になりどんな感想を持っているのかを当時助監督であったフィリベールが丹念に追っていく。彼が当時普通の村民だった人々に役を与えていったのだ。
しかしその内容はすぐ近くの村である若者が実の母と妹弟を殺害した、という恐ろしい代物なのだ。普通の人々だった彼らは突然殺人事件の当事者及びその関係者という演技を映画撮影されることになったのだ。
素人とはいえ役柄になりきり深く考えたという彼ら。そして周囲の人々の視線を受けることになる。
平凡に生きて来た人々にとってそれがどういう意味を持ったのか、とても興味深い作品だった。

しかしこの作品もまた一番目に観た『パリ・ルーヴル美術館の秘密』と同じく余計な説明をせず淡々と映像が続いていく形式で観る者に感動を押し付けないというのか(と言ってもラストの主人公の登場は演出であったかもしれないが、それにしても華々しくはない)クールなのである。ところがこの映画を作った本当の理由というのがフィリベール監督の父親が実は当の映画に出演していたにも拘らずその場面をカットされてしまった、ということにあったのだ。
そのフィルムは保管されていて今ここで息子ニコラ・フィリベールの映画の中で30年ぶりに公開される運びとなった、という顛末になるのである。
なんという!実に私情を挟まないクールな演出、と思っていたフィリベール監督のドキュメンタリーが思い切り私情のみで作られた作品だったのである。やるなあ。
気が引けたのか、音だけなかったのか?何故か音声なしの映像であったが父親の映画出演がここにかなったのである。
もう一人出演していたのにカットされたという出演者の今の映像もしっかり入っていたわけでフィリベール監督が素人ばかりの主要配役映画の同窓会ドキュメンタリーとして文句はないであろう。
実に楽しくて考えさせられる映画だった。

それにしてもこの元となる『私 ピエール・リヴィエールは母と妹と弟を殺害した』日本未公開らしいのだが、その内容に惹かれる。
『カポーティ』の映画で昔の作品のDVDが出てきたようにこれも便乗して、というほどこの作品自体が話題じゃないか。是非観てみたいのだが。
主役を演じた青年もやはり素人で参加したのだという。非常に内気で繊細な印象の若者で農家のじめじめした自分の部屋に引きこもって文章ばかり書いているイメージ通りの青年なのであった。
しかも当時なかなかの美青年で彼だけは監督にも認められ俳優になる為にパリへ行き他の演技にも挑戦したのだ。だが結局芸能界に馴染めずカナダへ移住した後、なんと神父になっていたのだ。
映画の中でのこととはいえ殺人者を演じた若者が宗教家になるなんて出来過ぎである。彼もまた殺人者になった青年になりきってその心を深く考えたのだった。
30年前に一度だけ他の人間になった経験を持つ普通の人々。
その時の思い出を楽しそうに語り合う彼らを観てると本当に羨ましいようなでも怖いような気持ちになってしまった。彼らの中に一人でも勘違いして変な方向に行ってしまった人がでなかったのも(まあそれはそれでいいけど)幸いだったんだろう。殺された母親の愛人役をやった男性の娘さんが「何故パパは愛人役なのよ」と言ってパパを苛めるのがおかしかった。パパも満更じゃなさそうだったけど。
フランス人だからこそのこの内容が受け入れられるのか。
殺人事件の主要配役、素人が地獄を覗き込むのは怖い気もするのだけどねえ。
でも興味は、湧いてくるねえ。

監督:ニコラ・フィリベール
2007年フランス


posted by フェイユイ at 23:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 欧州 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。