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2010年05月13日

『戦場でワルツを』アリ・フォルマン

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VALS IM BASHIR/WALTZ WITH BASHIR

とても変わった手法の作品だった。映画監督である主人公アリが突然友人に不思議な夢の話を聞かされる。26匹の狂犬に吠えたてられる、というものだ。友人は2年ほど前からその夢に苦しめられているのだが、彼にはその犬が何なのかをすでに察している。さらに20数年前に従軍したレバノン内戦での記憶が彼にその夢を見させたのだと言う。
主人公はその話を聞いたことから自分も共に従軍した戦争の記憶を探ろうとする。ところが彼はその時の記憶がすっぽり抜け落ちてしまっているのだ。
主人公アリが失われた記憶を取り戻す為、共に従軍した戦友たちや心理学者などから話を聞いていく、というドキュメンタリー映画でありながらアニメーションである。
それは中で戦友が要求した「絵は書いていいが写真は駄目だ」と言うことからきているのだろう。本人役で出演している人たちもアニメーションになることでこの重く苦しい過去を語る映像に登場する負担がが少しは緩和できるかもしれない。またドキュメンタリーの部分(インタビューの場面)と夢や過去を映像化した部分がアニメーションであることで違和感なく一つの作品にまとめられている。

アニメが大好きな日本人が作るアニメとは随分違うアニメである。一旦撮影したものをアニメに置き換える、というのもあまり日本のアニメファンの好みではないのではないか。自分もそうだったのだが、この作品ではあえてアニメに置き換えることにも意味があったので納得できたし、またアニメ自体の技法も優れていてとても美しいと感じた。
それにしても巧妙に作られた作品だと思う。
突然の恐ろしい予感をさせる導入部。26匹の吠える犬の理由。この夢にしろアリの中に僅かに残った記憶にしろ何故同じ戦争を体験した彼らの中でこのような形で残っているのかが釈明されていく過程に惹きこまれていく。
つまり私のように何も知らなかった者や知っていたけど主人公と同じように記憶が失われてしまっていた人々は彼と同じように記憶を辿っていくことになる。
まだ何も判らない若者だった主人公や戦友たちは戦争の狂気の中に巻き込まれていく。
そして自分たちもまた残虐な加害者になっていくのだ。
それはかつて愛する家族・同胞に非道な虐待・殺戮を犯したナチスと同じではないかという苦悩となり彼らの記憶から虐殺の部分を抹消してしまう。そうしなければとても耐えて生きていることができなかったのだ。
彼らの犯した虐殺の場面でホロコーストを持ちだすことに反感を持つ向きもあるようだが、両親をアウシュビッツで亡くしてしまう過去を持つ者がナチスの行為と自分の行為を重ねてしまうのは当然のことであるし、それこそが彼らとって最も認めたくない事実だったはずだ。
アリがその時の記憶を夜の海に浸っている自分たち、という記憶にすり替えていまったのは、博士が言う「夜の海は恐怖を意味している」からなのだろう。

祖国の暗部を告白した厳しい作品だが、どこか却ってほっとするような気持ちになるのは今迄記憶の底に抑え隠していた苦々しいもの、醜悪な夢を掘り起こし見つめ直したことで逆に救われたからなのではないか。
私自身イスラエルに対し「何故彼らがナチスと同じようなことを」と最近訝しく思っていただけにこの作品を観てほんの少しだけ救われた気がした。
とはいえ、本当に苦しいのはパレスチナの普通の人々であることは違いない。

監督・脚本・出演:アリ・フォルマン
2008年イスラエル


posted by フェイユイ at 00:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 西アジア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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