
昭和と言う時代はホントに物凄い時期だったんだよねえ。激動というけど全く大げさではないのだから。
主人公はサントリーの宣伝部に勤めているサラリーマン、というちょっとお洒落な感じなのだが本人は自他共に認める地味で冴えない中年男。36歳というからいまで言えばまだ中年と言い難いくらいだが、この当時はこういうものだったのだろうか、すっかり中年の真っただ中のいう風格である。
岡本喜八監督らしい凝った演出で、勢いよく軽妙にこの主人公・江分利満=EveryMan氏の人となりや生活を描きだしていく。
彼はまさに戦後日本の高度成長期、日本人が戦前と生き方考え方が変化していくその最初の段階の人間である。彼の父親は戦争という機に乗じて財を築き上げた実業家で何度失敗し倒産してもやり直し挑戦し続けた不屈の男だが、息子の江分利満はその生き方考え方に反感を持つ。例え父親が莫大な財産を築き揚げ、今の自分より遥かに贅沢な暮らしを満喫してきたとはいえ、それが戦争という犠牲を払わねばならないものなら貧しくとも平和がいい、と熱く語る。
それはちょうど昭和という時代と共に生まれ育った彼の年代が最も感じることなのだろう。ちょうど青春期と戦争が重なりあってしまう年代である。同じ年頃で戦死し恋人や妻と死別した若者も多くいたのだ。
昭和30年代をのほほんと生きているように見える江分利氏の心には沸々と煮えたぎるものがあったのだ。
江分利氏は実業家の父とは違い、うだつのあがらないサラリーマン生活でなんとか父と妻子を養っている。酒を飲むのが楽しみだが酔うとクダを巻くので彼と飲みたがる仲間はいない。仕方なく一人で飲みに出かける。
そんなある夜、酔っぱらった江分利氏は突然で出会った出版社の男女になんと小説の執筆を頼まれ引き受けてしまった。仕方なく江分利は自分の日常を書いてみる。それが『江分利満氏の優雅な生活』である。この小説は思いもよらず大受けし直木賞を受賞してしまうのだった。
説明が前後してしまったが、この受賞に会社での祝賀会の後、江分利満氏が残った若手社員にこんこんと演説するのが先に書いた江分利氏の戦争とそれに関わった人々への怒りの言葉であった。
それを聞く若手社員達にはもう江分利氏のような戦争への感慨はないのだ。
貧乏な中で結婚し、下着は穴だらけのランニングと白い張り合わせただけのパンツという江分利氏。若い社員はブリーフである。
この場面、朝の通勤を下着姿で歩かせる、という演出。笑える。
父の借金と子供や妻の持病もありながら何とか一家を支えていこうと頑張る江分利満氏の生活がしみじみとしながらも大いに笑える、やはり岡本喜八監督の傑作であった。
桜井浩子さんと二瓶正也さんが出てると『ウルトラマン』みたい。
当時の風景を観てると楽しい。まだまだ道路が舗装されてないのだ。この頃の花嫁さんは黒い着物なのだよね。
監督:岡本喜八 出演: 小林桂樹 新珠三千代 矢内茂 東野英治郎 英百合子 江原達怡 田村奈己 ジェリー伊藤 桜井浩子 二瓶正也
1963年 / 日本