映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2006年09月25日

「英雄」張芸謀

英雄.jpg

この面白さをどう表現したらよいのか。国を奪った為に命を狙われる秦の王と復讐者無名との会話は絶妙のものである。

この秦の王とは誰なのか。王は言う「わかったぞ。この剣という文字の極意が。剣の最高の境地とはついには手にも心にも剣を持たないことなのだ。つまり平和を求めよ」復讐者・無名は奪われた趙のために王の暗殺を志していたが残剣の「命を奪うな」と言う言葉に修行に費やした10年をフイにしてしまう決意をする「王よ、その境地を忘れないでください」
無名は王を必ず殺せるはずの剣を捨て背中を向けて去る。
その背中を見送る王に家来達が叫ぶ「王の命を狙った者には死あるのみ、と王自身が言われたはず。ご決断を」
王は迷うが無名に死の宣告を下す。
平和の境地を知ったはずの王のこの行動は一体どうしたことなのか。

金庸武侠においても大昔の時代に物語を置きながら実は毛沢東と文化革命を批判するものというのがある。(例えば「笑傲江湖」)
おおっぴらに批判のできない世界での実に芸術において戦うという表現である。

秦の王の姿を借りながら彼は毛沢東を意味している。秦に滅ぼされた趙国は文化(ここでは字を書くこと)を重んじている。
(不勉強の為、実際の趙がどんな国だったかは知らない。この映画においてその役割を果たしている)
趙の人々は習字を学ぶ間に膨大な矢の攻撃を受ける。が、老師匠は「私達の文化・芸術を守る為逃げてはいけない」と自ら矢の嵐の中に座り字を書き続ける。一旦逃げ出した弟子達も師の姿に続き矢を背中に受けながら字を(芸術を)続ける。
それは監督・張芸謀をはじめ多くの傷つけられ殺された芸術家達の姿なのだ。
残剣・飛雪・長空ら優れた才能を持つ者たちも弾圧され隠れていなければいけなかったのだ。

王は自ら「平和を求めるのが最高の境地」と悟りながらもそれを教えてくれた無名を殺す。なんという無駄な死!だがこの時殺されたことで秦の王はその死を忘れることはできなかったろう。

無名という名前はなんだろう。
つまりは特定の誰かではないのだ。あるいは言いたくても言えないのかもしれない。
文化革命のために弾劾された多くの芸術家たちの魂の名前なのかもしれない。張芸謀もその一人であるだろう。

残念なことにこの映画はその仕上がりがあまりに美しく華麗なためにまた中国武侠と言う形式をとったためにそれに目を奪われその肝腎の主張が隠されてしまった。
しかし監督自身が映画製作において主張を隠した形で表現するのが目的なのだから観る者はその真実を掘り返して観るしかないのである。
(だがしかし「綺麗だけど内容がないね」という批評は耐え難いものがある。せめて「そう見せてるのさ」とほくそ笑むしかあるまい)
決して張芸謀の作りが判りにくいわけではないのだ。
むしろこれ以上ない簡潔さでその感慨を表現し得ている。この映画で驚く事の一つはその短さである。このような華麗な大作ものというのは大概うんざりするほど長い映画になりがちだが、詩の世界といっていいほどそぎ落とされた美しい作品になっている。

とは言え、私自身はこの張芸謀美学の世界を心底堪能した。
冒頭からしての形式美、また色彩による心理の変化、膨大な兵達の脅威(この表現は米映画「アレキサンダー」にも影響を及ぼしてるよな)雨の中の戦いの繊細さ、水の上の愛の表現、 など陶酔しつつ見つめていた。
また出演者の魅力。秦の王・陳道明の素晴らしさ。声にも聞き惚れる。マギー・チャンの美しき横顔、魅惑の眼差し。
華麗な剣の舞に見惚れながら隠された真実を見る、という武侠ものの醍醐味をたっぷり味わったのである。

監督:張芸謀 出演者:李連杰 トニー・レオン マギー・チャン 陳道明 チャン・ツィイー ドニー・イェン
2002年・中国


ラベル:武侠 張芸謀
posted by フェイユイ at 07:48| Comment(2) | TrackBack(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
良い映画でしたねぇ。

個人的には無名にジェット・リーを使わない方が良かったんではないか?、とも思いましたが・・・。

まぁ、良い映画でしたよ。

BSデジで再放送がある度に録画しているにも関わらず、必ず下らない理由でテロップが載ったりするので、軽いトラウマになってます。
Posted by fince at 2006年09月25日 14:18
あははっ。主人公が駄目だった!手厳しいなあ。
というか私も観ていて実は李連杰の声があまりよくないなあと思ってしまいました(ごめん、ジェット)
なにしろこの映画は語りが要ですからね。

テロップ悔しいですね。どの映画にもはいるんでしょうか?それだけ?
Posted by フェイユイ at 2006年09月25日 22:37
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