映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2006年10月08日

「推手」アン・リー

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アン・リー監督の作品は「ブロークバックマウンテン」の他に「ウェディング・バンケット」と「グリーン・ディスティニー」を観ているがもう少し知りたくなってデビュー作品を借りてみることにした。

中国・北京で生まれ育ち太極拳の名手であり達筆、京劇を楽しむ、という中国文化を体現化した如くの朱老人(と言うの憚られるが)がアメリカで学びアメリカに家庭を持つ一人息子に引き取られることになったのだ。
が、息子の嫁はちゃきちゃきのブロンドアメリカン。中国5千年の歴史と新大陸アメリカとの戦いが始まった。てわけじゃないけど若い嫁マーサと朱老人はまったくソリが合わない。
互いに言葉が通じずまた意思を通わせようと言う気持ちもまったくない。
マーサの夫であり朱老人の息子であるアレックスはその間に挟まって苦悩の日々。真面目な性格もあってついに爆発。台所をメチャメチャにして飛び出した。

観ているとどの人の気持ちもよーくわかるという細やかな脚本・演出。最も悪役的なのはマーサだろうけどせっかく今までいい家庭を築き自分は新進作家として執筆中、という所へ中国語しか解さず(変な字を書いたり)急に踊りだしたり(太極拳)奇声を発したり(京劇を見ながら)タバコの吸殻をあちこち捨てたり(これはいかん)自分はダイエットのために野菜しか食べられないのに目の前で油たっぷりの肉料理をぱくつく老人が来たらばこれはいらだつことであろう。
たとえ言葉が通じたとしても(却って通じない方がまだ我慢できるかもしれないが)相容れないことは見えている。
私なんかはこんなステキな義父ができたらうれしくて弟子入りしそうだ。太極拳も習ってみたいし言葉を教えてもらって色々話を聞いてみたい。だがまあこれは私が中国オタクだからであってそうでないものには野蛮な風習にしか見えないのかもしれない。

反発しあう舅と嫁はまだしも板ばさみのアレックスはどうしようもない。
割り切れと言われても割り切れるものではない。心底父親を尊敬し愛しているのが伝わって来る。マーサが病気になって倒れても父親の書を表装しようかと心配したりする。
中国の家父長制度とアメリカ式夫婦との軋轢で彼の精神はついに沸点に達してしまったのだ。

アレックスがメチャメチャにしたキッチンをいがみ合う嫁マーサと義父が力を合わせて片付けていく。
それは一旦破壊された世界が再生するかのような予感をもたせたのだが実際の生活はそうは上手くいかない。この辺の展開が実にうまい。

独り身の父親を未亡人とくっつけて片付けてしまおうという息子の陰謀を知り、誇りを傷つけられた朱老人は自ら家を出ることにした。70歳にして皿洗いのバイトで生計をたてようというのだ。
だが初体験で手間取る朱老人を店の社長は冷たくクビにしようとする。
反論した朱老人をチンピラを使って追い出そうとするが朱老人は太極拳・推手の達人。
彼らの攻撃にはびくともせず、あっという間に皆をなぎ倒してしまう。
おまけに駆けつけたポリスマンらも歯が立たない。どこまでもかっこいい朱老人なのであった。

推手と言うのは襲い掛かってくる敵の力を利用してそのままそれを敵に返し倒してしまう、という極意なのである。(間違いでしたらすみません)
その達人である朱老人も生活においては「無の境地に達するのは難しい」とつぶやかざるを得ないのだった。

結局アレックス・マーサ夫妻(息子一人)と朱老人は別居する事になる。心の安静を取り戻したマーサは新居にいつ来てもいいように朱老人の部屋を用意した。
部屋の壁には朱老人の剣が飾られた。

朱老人は息子達の陰謀で一度は離れる事になった陳さんとよりを戻す。
「午後、用事はありますか」「いいえ」これは老いらくの朱さんと陳さんのラブストーリーでもある。物語は明るい日差しのなかで幕を閉じた。

たんたんとした語り口ながらアクションありラブあり食事のシーンも美味しそうである(ちゃんと食べてる)
冒頭部分、白人女性とアジア系老人が延々と(と感じる)黙したままでいるのが何も知らないまま観始めた者(私も)はちょっと困惑してしまう。この困惑が物語の核心なのでここでめげないで欲しい。

無理矢理こじつけだが最後の朱老人の剣を壁に飾るのを観て「ブロークバックマウンテン」で愛する人のシャツを箪笥に掛けていたことをちょっと思い出す。
また父親と息子というテーマも重要なものとなっている。

なお特典としてアン・リー監督のインタビューが付属していた。「ブロークバックマウンテン」の宣伝での来日の際に行われたらしくポスターの前でのインタビュー。
「ブローク」との比較もしつつ監督の映画について質問・応答されていたのが興味深いものだった。


ラベル:家族
posted by フェイユイ at 21:53| Comment(2) | TrackBack(2) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
フェイユイさま、こんにちは。TB送らせていただきました。
『ブロークバック・マウンテン』のお陰でアン・リーの初期三部作がDVD化され、うれしい限りです。
私も太極拳習いたいと思いました。同居はイヤですけどね(笑)
ではでは、また来ます。
Posted by 真紅 at 2006年10月16日 09:51
ありがとうございます。真紅さん。
思っていた以上にこの映画見ごたえありました。私はこのおじいちゃんにぞっこんです(笑)ダンナのお父さんとしてじゃなく二人で暮らしたいです(笑)

Posted by フェイユイ at 2006年10月17日 00:01
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