映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2006年10月20日

「ウィスキー」フアン・パブロ・レベージャ、パブロ・ストール

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映画の始まりに自動車の内部にカメラを置きゆっくりと走り出して外の風景を映していく、というのは基本なのだろうか。
「私は移動していく映画が好きだな」と思ってから気にして観ていると導入部にこれを使う映画が本当に多いのだ。多分この移動によって観客は映画の世界に連れて行かれるという効果があるのだろう。私なんかすぐこの暗示にかかって恍惚としてしまうのだから簡単なものである。

とても面白い味わいの映画である。なにしろ物語の説明というものがなく観てる者は口数少ない登場人物たちの会話からなんとか情報を得なければいけない。
しかしこれは当然のこと。目の前で行われる会話を聞いているだけなら昔の話をいちいちするわけはないのでごく自然なことなのだ。


主要な登場人物はわずか3人。場所はウルグアイの田舎町。
兄・ハコボはオンボロ靴下工場の経営者。いつも壊れたブラインドを自分で修理している。自宅は広いが独り身のせいで殆ど物置状態。無口でいかにも頑固者。必要なことしか話さない。怖い顔をしているが「ウィスキー」と言いながら写真を撮られる時だけは笑う。
弟エルマンはブラジルで同じく靴下工場をやってるがこちらは羽振りがよさそうだ。新型の機械もいれ手広くやってるのが伺える。
結婚をして子供もいる。幸せそうだ。社交的でマルタにもやさしい。
ただ兄に対しては、母親の看病を任せっぱなしにした上葬式にも出なかった、という引け目がある。
そしてマルタ。最初登場したときはすっかり女らしさも失せてしまった中年のおばしゃんという感じでただハコボに気を使って生活しているような存在だったのが3人の物語が進むにつれ次第に感情も豊かになり(おしゃれもして)エルマンの言葉に心を動かされハコボの態度に思い悩む最後には立派な映画のヒロインになってしまったのであった!すばらしい!

この映画では色んな謎が放り出され答えは与えられず観客は置き去りにされる。
彼らの過去や関係の謎もあるが最も気になるのはマルタの思い、彼女がこれからどうするのかどうなっていくのか、である。
マルタが上司ハコボから頼まれた偽の妻の役を演じて気づいた自分の存在。(しかしこのマルタの状態って結婚して長年たってしまった妻そのもののようである。髪型を変えても気づかれず、やさしい言葉もかけられず、他の男性の言葉にはっとしている)(私の実生活はそんな風ではない、まだ)
冴えないマルタの特技は言葉を逆さまに言える、ということ。例えば「ハコボは怒っている」なんていうのをぱっと逆から言えるのだ(日本語では割と言えるけど向こうは子音と母音があるから難しいのかな?)
これは何となく偽の妻というのをさっとやってのけるマルタらしい特技なのかもしれない。

マルタが長年続けてきたハコボとの関わりをどうするのか。これからどうなっていくのか。
マルタはエルマンに「ブラジルに行ってみたい」と言い帰り際の彼に手紙を渡した。その中に何が書いてあるのか。
さてマルタは大きな冒険の旅に出るのか。それとも再びハコボの要求に答え、繰り替えしの日常にもどるのだろうか。
答えは観る時の気分によっても変わりそうだ。

デコボコ3人が連れ立って歩くとこもおかしいし、金を使おうと思って賭け事をしたら逆に儲けてしまったり(世の中は思うようにならないね)このなんてことない(悪党でもないしね)おじさんおばさんがたが面白くおかしく寂しくて凄くよいのだった。
ウルグアイ映画なんて初めての経験(しかも若い監督らしい)こんなによい映画があるのだ。

監督:フアン・パブロ・レベージャ、パブロ・ストール
脚本:フアン・パブロ・レベージャ、パブロ・ストール
   ゴンサロ・デルガド・ガリアーナ
出演:アンドレス・パソス、ミレージャ・パスクアル
   ホルヘ・ボラーニ
2004年/ウルグアイ=アルゼンチン=ドイツ=スペイン


posted by フェイユイ at 15:46| Comment(3) | TrackBack(0) | 中南米 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
この映画は、以前気になっていました。
とてもまったりと面白そうですね。いずれ観てみたいと思います。^^◎
Posted by フラン at 2006年10月20日 17:26
ウィスキー!!
最後まで『ドラマティックなことは何も起こらない』。
そんなところが、この作品の魅力の一つですよね。
・・・いや、本人たちにしてみれば一大事かもしれないが。
Posted by さち at 2006年10月20日 19:26
早速コメントいただいてありがとうございます。
>フランさん
ぜひぜひご覧ください。これはいいですよ!

>さちさん
うん、すごいドラマなんですよね。すべては心の中でおこってるんですが。
しかも楽しい映画でした。くくくと笑える映画ですねー。お兄さんがおかしいです。
Posted by フェイユイ at 2006年10月20日 20:29
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