映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2006年10月29日

「スリング・ブレイド」ビリー・ボブ・ソーントン

スリング・ブレイドa.jpg

いつもどおりのネタバレですが「アラバマ物語」のネタバレもしていますのでご了承ください。

テレビでちらりと見てひどく気になっていた映画なのだがタイトルも出演者も知らず長い間そのままになっていた。やっと最近になってそれがマット・デイモン出演の「すべての美しい馬」の監督の作品だと知った。

しかも監督・脚本・主演である。何日か前に書いたように「すべての美しい馬」のことも気になったままで是非観たくなった。

どちらもアメリカ南部を舞台にした物語である。特に「スリング・ブレイド」は南部の人々の暮らしが生で描かれている感がありそれだけでも興味深かった。

「すべての」と一緒くたにしてしまうとまた長くなりそうだが、二つの作品とも淡々と出来事を語っていく、という演出なのであるいはかったるく冗長に思われそうである。

「スリング・ブレイド」では知的障害者である主人公カールが母親とその浮気相手を惨殺したことで収容されていた精神病院から追い出される(という感じである)ところから始まる。
治療を受けたとはいえ、そういう過去を持つ知的障害者が偏見の強い田舎町に戻るという設定を聞いた時点でどういう展開になるか想像できるしまたそのとおりになっていく、という筋書きなのだ。
案の定偏見の強い自己中心的な男が登場してきて非常にいらいらする時間を耐え続けねばならない。
そういう状況でありながらも画面から目が離せないし、カールを中心とする登場人物が魅力的でついつい惹き込まれてしまうのだ。

その原因の一つは私にとっては不思議とさえ思える田舎町の人々の人のよさだ。これはそのままの姿としての描写なんだろうか。
ビリー・ボブ・ソーントン監督がこの映画で描きだすのはアーカンソーの田舎町の決して裕福でない人々である。
特にカールが親友となった少年フランクの母親には驚く。いくら息子が手助けしてもらったとは言え、見も知らぬ大男を自宅のギャレージに宿泊させるというのだから。この優しさはむかつく乱暴男ドイルにも発揮されていてこう言ってはなんだが乱暴男ドイルよりこの優しき母に対しての苛立ちを押さえきれなかった。往々にしてこういった乱暴男と手を切れない女というものが存在するものなのだが、自分の息子が精神的にも肉体的にも迫害を受けていても男を見捨てる事ができない。つい「あの人にも辛いことがあるのよ」と言って虐待を受ける事を甘んじているこの母親に(優しいからこそ)むかついてしまうのだ。
それは心のどこかでカールがなんとかしてくれるんじゃないかと願っているフランク、同性愛者だからと言う理由で(かなんかわからんが)母子を守りたいと言いながらもドイルに対して強い態度が取れないヴォーン、ドイルの分裂気味な暴虐ぶりにもグチをこぼしているだけのバンド仲間にも言い知れない不思議な感覚「この優しさはなんだろう」を感じてしまうのだった。

そんなおっとりとした人々が住む田舎町に同じく存在するのがヴォーンであり、カールの両親なのだ。
ヴォーンは正直言うとまだ何か怖ろしいことをしたわけではない。ただカールの親友フランクとその優しい母親(カールに夜中にもビスケットを焼いてくれた)に暴力を振るうのをそしてこれからも苦しめ続けるもしくは殺してしまうこともあると予感して刃を向けたのだ。
冷静に判断できたのはカールだけだったのかもしれない。
これから起こるかもしれない不安を未然に「殺人」という方法で断ち切ったカールのやり方は間違いだったのか。
だがこの結末に何故か安堵感を覚えてしまうのだ。

この映画の中で怖ろしいのは映像としては表れないカール自身が両親に惨たらしい扱いを受けていた過去だ。
カールが父親の住む家に戻る場面がある。荒れ果てた家の中で椅子に座った父親がつぶやく「あの時、頭を思い切り蹴ってしまった・・・」それはカールの知的障害に関する言葉なのだろうか。
カールを毛嫌いした両親は彼を小屋に住まわせカールは小さな窪みを掘ってそこに寝たのだ。病院では気持ちのいいベッドで寝れたとカールはいうのだ。
母親から焼いてもらったビスケットをフランクの母にねだるのが悲しい。
後半のこの帰宅シーンで初めて登場したカールの父親をロバート・デュバルが演じているのを知ってはっとした。
あの「アラバマ物語」で虐待を受けながら幽閉されていた青年ブーを演じたのがデュバルだったからだ。
同じく南部を舞台にして虐待を描いているということで監督自身意識して彼を使ったはずだ。
あの時も僅かな出演時間で虐待された青年を演じきったが、ここでも短時間ながら冷酷な父親を印象付けている。

怖ろしく物悲しい雰囲気を出しているのはアメリカ南部という空気そのものなのだろう。
まったく随分アメリカ南部の作品を見て来たものだと思う。そこには洗練された知性・理性というものではなく、感情、暴力といったものが多く描かれていたはずだ。都会ではなく田舎というイメージ。差別、苦悩といった記憶である。
映画でも泥臭さを感じる南部の風景が好きだ。(なんていうのか、あの樹木が南部を表現するよね)

最後、カールが窓から眺めているのはフランクとの友情を深めた秘密の水辺なのかもしれない。

監督・脚本・主演:ビリー・ボブ・ソーントン  出演:ドワイト・ヨーカム 、ジェイ・ティー・ウォルシュ、ジョン・リッター、 ルーカス・ブラック 、ナタリー・キャナディ、ジェームズ・ハンプトン、ロバート・デュヴァル、リック・ダイアル、 ブレント・ブリスコウ、ジム・ジャームッシュ
1996年 アメリカ
少年フランクを演じたルーカス・ブラックは「すべての美しい馬」でも印象的な少年ブレヴィンズを演じています。
またジム・ジャームッシュがハンバーガー・ショップの店員役でカメオ出演。ほほう。

「アラバマ物語」


ラベル:犯罪 家族
posted by フェイユイ at 17:21| Comment(2) | TrackBack(2) | 北米 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
フェイユイさま、こんにちは。TBさせていただきました。
私は『アラバマ物語』を観たのは最近なのですが、ロバート・デュバルはあの作品が映画初出演なのだそうですね。
ビリー・ボブの監督作はこれ1本しか観ていないのですが、才人だと思いました。
それまで「アンジーの元ダンナ」っていうヒドイ認識でしたから(すみません・・)。
ではでは。
Posted by 真紅 at 2006年10月29日 22:46
こんなにも早くTB・コメントいただき感謝です!
「アラバマ物語」のデュバルは若かったですねー(当たり前か)どうしても「ゴッドファーザー」の渋いイメージからでして(笑)

ビリー監督、凄まじい才能ですね。私もこれと「すべての美しい馬」の監督としてあと「ギフト」の脚本なんですよね。あれも面白かったです。また観たいと思ってるんですが、怖くて迷ってます。
Posted by フェイユイ at 2006年10月30日 00:10
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Weblog: 真紅のthinkingdays
Tracked: 2006-10-29 22:40

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Tracked: 2008-07-24 13:14
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