映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2006年11月08日

「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」

メルキアデス.jpg

これを観た日の昼、同じくメキシコからアメリカへの不法入国者を取り締まるニュースの映像を観ていた。
映画でもほぼ同じ人数と格好で歩いていて奇妙なデジャ・ビュに襲われてしまった。

この物語は老カウボーイピートとメキシコからアメリカへ不法入国してきた青年メルキアデスとの友情物語を描いたものだ。
だがここで私なりの仮説を立ててみた。以下はいつもどおりだが自分勝手な想像である。

映画全体に感じられるのは多分トミー・リー・ジョーンズ監督のメキシコへの愛情だ。愛すべき純朴な青年メルキアデスはその象徴的な存在なのだと思う。
そして過激な国境警備隊員のマイクは端的とは言えアメリカそのものを表現している。彼は逃げ惑う不法入国者を徹底的に追い詰め、女の鼻でも叩き折ってしまう。(別の隊員が「やりすぎだ」と注意するほど)そしてメルキアデスを「勘違い」で撃ち殺す。勘違いなら何をしても言い訳ではない。
ただマイクは撃ち殺した後に後悔してもいる。メルキアデスの遺言どおり彼の遺体をメキシコへ運ぶ旅の中でピートはマイクがどう変わるのかを見届けようとしているようだ。

メキシコ人の脚本家ギジェルモ・アリアガはこの若くて非情な警備隊員に手厳しい報復を与えている。そのやり方は痛烈でしかも滑稽さに思わず笑ってしまう。
メキシコ側のアリアガのこの復讐劇をアメリカ人のジョーンズ監督は許容した上、ユーモラスなタッチで仕上げている。 

マイクは手錠をかけられ墓を掘らされ死体を担がされ死体の横で眠らねばならない。裸足で走りガラガラ蛇にかまれて足は毒で腫上がる。川を渡る時は溺れ、頭に銃口を突きつけられる。
それらは皆不法入国者がアメリカ人から受けたものをマイクにつき返すことでは鬱憤をぶちまけているようだ。
特に鼻を折られた女性が毒蛇から咬まれたマイクを治療するが煮えたコーヒーをぶちまけポットで鼻を折って返す場面にはっきり現れている。おまけに痛快である。

不法入国者は取り締まらねばならない。その通りだろう。ただどうしようもなくアメリカへ逃げて来た人の気持ちをアリアガは書き、ジョーンズ監督は愛情を持って映画にした。
映画に出て来るメキシコ人は皆、善人として登場する。見知らぬ旅人にコーヒーや酒や肉を気軽にくれたり、ガラガラ蛇にかまれてるのを見ればすぐ助けようとする。道案内もする(見返りはもらうがかなり妥協してくれる)
それに比べアメリカ人は浮気ばかりして不道徳だし人情がない。
と描かれている。ちょっと極端で笑ってしまうくらいのメキシコびいきだがジョーンズ氏は大甘でこれを映像化している。
しかも本人が主人公ピートを演じ、不法入国者メルキアデスへの友情を貫き通し彼の遺体を彼が望んだ故郷「ヒメネス」へと運ぶのだ。

メルキアデスを撃ち殺してしまったマイクをこき使いながらピートはメルキアデスの遺体を大切に運んでいく。アメリカを代表するマイク役のバリー・ペッパーは大変だったと思うが彼のいじめられながらの珍道中は爆笑モノで、特に死体が臭くて眠れない場面。すっかりミイラ化した顔はとぼけていておかしいし蟻が食ってるというマイクの叫びにピートが火をつけて燃やしたり、アルコールを飲ませて「これで蟻に食われないぞ」なんて、マーク・トウェインの小説みたいで大笑い。さぞ映画館では受けてたんじゃないかと思うけど違うのかな?

この映画は「老カウボーイとメキシコ人青年との友情物語」そして「アメリカ人マイクの理解と反省」を描いたものなのであろう、が、旅をする男はまあいいさ。死体とキャンプしたりガラガラ蛇と遊んだり楽しいことでしょう。
悲しいのはダンナの帰りを待つだけの若妻である。そしてその何十年後の見本もいる(もしかしたら何年後くらいかも)
美しいメキシコはいいとしてだだっ広いだけのテキサスの田舎町には寂しさだけが存在するようで「楽しみもあるわよ」というのが浮気とはあまりにも空しい。
その町でたくましく生きるレイチェルに感心するが、耐え切れず町を後にするルー・アンにも同調する。

友の遺言の「美しいヒメネスという村」はなく、愛する妻子も存在しなかった。ヒメネス、というのはメキシコでは多い名前だと思う。
心が張り裂けるほど美しい故郷ヒメネス、というのはメキシコの国そのものなのではないだろうか。

監督:トミー・リー・ジョーンズ 脚本:ギジェルモ・アリアガ 出演:トミー・リー・ジョーンズ, バリー・ペッパー, ドワイト・ヨーカム, ジャニュアリー・ジョーンズ, メリッサ・レオ, フリオ・セサール・セディージョ, バネッサ・バウチェ, レヴォン・ヘルム, ギジェルモ・アリアガ

タイトルからしてももっとハードなモノを想像していたら結構おかしくてその上じんわり来る映画だった。
特になんとなくシチュエーションの似てる「ガルシアの首」と比べたら!ペキンパーのは容赦ないんで。
ここでは人を撃とうとしても「撃てない」と言ってやめてしまう。マイクも冷酷な役のようで人を撃った苦しみは最初から持っているわけで全体に心優しい映画である。
ただしこうと決めたらとことん突き進む男のロマンティシズムの悲しさというのは共通したものであった。


ラベル:友情
posted by フェイユイ at 22:13| Comment(4) | TrackBack(1) | 北米 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
フェイユイさま、こんにちは。なんだか連日お邪魔してすみません。
これ、いい作品でしたね・・。シリアスなだけじゃなくて笑えるところも多かったし、監督の人柄が出ているようでした。
ヒメナス=メキシコだ、と私も全く同じように思いました。
TBさせて下さい。
Posted by 真紅 at 2006年12月07日 00:13
いえいえ、どうぞいつでもお越しくださいませ。
とても愛情に溢れた優しい映画だと思いました。男の友情、泣けます。
その分バリー・ペッパーが酷い目にあってバランスをとってますが(笑)
TBいつもありがとうございます!!
Posted by フェイユイ at 2006年12月07日 18:33
すみません、最近観たわけでもないのですが
なんだか書きたくなって。

私は旅の途中で立ち寄った
一人暮らしの老人がどうなったんだろうと
とても気になっています。

癌の息子はもう来ないのでしょうか。。。
腐った食べ物が底をつくのも時間の問題。

殺してくれ、という願いも叶わず
孤独に餓死するのを待っているのでしょうか。。
Posted by せりーぬ、 at 2008年10月16日 23:52
色んな謎が隠されている映画でしたねー。

たくさんの映画を観て楽しんだり泣いたりするわけですが「あれは一体どうなったんだろう、一体なんだったんだろう」と思わせる映画はずっと心に残ります。
すべて解決、という作品にはない余韻がありますね。
Posted by フェイユイ at 2008年10月17日 18:06
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック

贖罪の旅〜『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』
Excerpt:  2005年度のカンヌ映画祭で最優秀男優賞、最優秀脚本賞を受賞した、トミー・ リー・ジョーンズの初監督作品。脚本は『21グラム』のギジェルモ・アリアガ。 テキサス州、メキシコ国境の町。カウボー..
Weblog: 真紅のthinkingdays
Tracked: 2006-12-07 00:06
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。