映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2006年11月15日

「ココシリ」陸川(ルー・チュアン)

ココシリ.jpgココシリ2.jpg

この映画も再見したいと願っていた。「藍空」に書いた記事は2004年の11月だから2年がたってしまった。
輸入盤のDVDは他にないほど映像が悪く従って中文字幕も全然見えなかった。この時の記事はよく見えない画面を眺めていただけのものだったのでおざなりもいいとこだ。
2年たってクリアな画面と日本語字幕で観る事ができた。

そして愕然としてしまった。これはただ美しい風景の中の単純な感動物語ではなかったからだ。
ルー・チュアン監督は突き進む男たちを皮肉をこめた目でしかし愛情を持ちながら見ている。
以前の記事で私は『ルー・チュアン監督は「数年前にチベットカモシカの密猟者を取り締まる民間パトロール隊が設立されたが、初代と2代目はパトロール中に命をおとしている。なぜ彼らは無償でそこまでするのか知りたくて映画を作った』と書いている。
それは監督がそういう彼らに感動してこれを作ったのかと思っていたのだ。
だがこれはなんだか違う。

確かに感動ではあろう。何の報酬も名誉もなく命を賭して密猟者を追い続ける男達の姿には。
だが密猟者と民間パトロール隊の攻防は常軌を逸した空しさばかりがつのり、多くの人が賛辞している様な「気高き男達の戦い」というものではないのだ。
適当な言い方だが何となく大友克洋の初期の頃の劇画(今の彼の作品を知らないだけなんですがすみません)を思い出してしまった。
むさい男達が懸命に走り回るが何か空しい、という劇画をよく描かれていたような印象があるからだが。
いきなり撃たれる様なリアルさも大友っぽい。
ま、それは余談。

極めて男らしい風貌の隊長から下される命令。隊長を尊敬し無償にも拘らず命を捨ててパトロールを続ける部下達のけなげさはストーリーが進むにつれ次第に疑問符が浮かんでくる。「なぜ彼らは無償でそこまでするのか知りたく」もなる。
最大の疑問は「どこからも金をもらえない彼らは密猟者が獲ったカモシカの皮を売ってパトロール隊の資金を得ているが、それでいいの?」ということだ。しかも隊長自身がそれを進んで行っているのだ。
これでは本末転倒だ。あまりにも滑稽ではないか。
後は水商売をしている女性から金をせびることで資金を捻出。男の中の男?

そして隊長は男の意地で密猟者を深追いし厳寒の山道を歩ませる。密猟者も仲間達も命を落としついには自らも密猟者に撃たれる。その最後まで彼は密猟者を捕まえるという信念に燃えており多勢に無勢の状況すら把握できないまま死を迎える。

無論、ルー・チュアン監督は彼らを単に間抜けな存在として笑ったわけではない。
一つの使命を胸にした男達が懸命になれば懸命になるほどおかしくなっていく姿に人間の悲哀を感じてしかもかなりユーモラスに描いているのだ。
それは同監督の「ミッシング・ガン」にも表現されていたものだ。

最もおかしく思えたのはパトロール隊が空気の薄い高山でハアハアいいながら密猟者を追う場面。
極めて厳粛な面持ちにも関わらずズボンを脱いでパンツ姿で髪を振り乱しながら追いかける場面。笑ってしまう。
しつこいが大友克洋の劇画そのまんまだ。
壮大な自然の美しさを背景にここまで男の悲しいおかしさを表現したルー・チュアンはやはりスゲエ監督なのだ。

満天の星空を見上げ「町に戻るとココシリに帰りたくなるんだ」という男達よ。
流砂に飲み込まれてしまった男よ。
今はココシリに抱かれ安らかに眠っているのだろうか。

監督:ルー・チュアン 出演:デュオ・ブジエ 、チャン・レイ
2004年中国

チベットの秘境「ココシリ」海抜4700m、零下20℃、空気は地上の1/3。そこに生息するチベットカモシカの高級毛皮を狙う密猟者とそれを追いかける民間パトロール隊の壮絶な17日は実話を元にしている。

現在「ココシリ」は自然保護区となり森林警察が誕生し、民間パトロール隊は消滅した。カモシカの数も次第に回復したのだという。

「ココシリ」は「青い山々」もしくは「美しい娘」の意味。


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posted by フェイユイ at 22:24| Comment(0) | TrackBack(2) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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