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2006年12月03日

「ヒストリー・オブ・バイオレンス」デイヴィッド・クローネンバーグ

ヒストリー・オブ・バイオレンス.jpg

いやあ、面白かった。とても面白かったね。

この前、映画は「多かれ少なかれファンタジーである」と書いたがこれはファンタジーと言うよりは妄想であろう。
けだし男の「自分がこうだったら」と言う願望の映像化といえる。
まあ、すべての男がこうだと言うと文句が出るかもしれない。少なくとも私が男だったら、中年男で真面目で勤勉だけがとりえの、だが愛すべき家族がいて幸せであるが、あまり富裕とはいえない生活状況だったら「平凡な俺だが実はこういう過去があって記憶の底に封じ込めているだけなんだ」と空想しているに違いない。

思い返せば少女の頃はよく「自分がこうだったら」などと空想して楽しんだものだ。今はその想像力もすっかり干上がり、自分が美しい吸血鬼だとか遠い星の王国の神秘的な巫女だとかは考える事もなくなった。
だのに中年男はこう妄想するのだと秘密を覗き込んだみたいで酷く楽しくなってしまったのだった。

決して金持ちではないし平凡な仕事・生活を送っていた中年男トム・ストール。だが美人の妻と今も熱い関係でいられるし、可愛い息子と娘を持つ平和な家庭を築いている。
そんなトムがある日、仕事場であるダイナーに入ってきた強盗二人組みを殺したことで一躍英雄となってしまう。
皆に讃えられたトムの前にギャングらしい男達が訪れた。彼らはトムを「ジョーイ」と呼び、「昔を忘れたのか」と聞く。
優しい夫であり、父であったトムはかつて残虐なギャングであったというのだ。

妻はトムの若き頃を知らない。ギャングから足を洗って人生の半分を過ぎた。かつての記憶を封じ込めてしまった。
などというのが「もしかしたら俺は・・・」の鍵である。無論、この映画の中のトムがそうだと言ってるわけではない。
観客が「もしや俺は」と想像できる余地があるという遊びである。ジョーイごっこもしてみたいものである。
しかもトム=ジョーイ、20年近くギャングをやっていないはずなのにめちゃくちゃ強い。人間離れした強さである。この強さには憧れてしまう。こんなに強い男になってみたい。しかもはっきり言って人間性を欠いている。
十数時間車を飛ばして兄とその一味を瞬間的に殺してしまい、再び十数時間で帰宅し、家族と夕餉に向かい、絆を戻そうとしている。
この最後は観客に思考させるというまた狡賢い手段を使っている。単にかっこつけただけじゃないのかな、と言う気もするんだけど。
私は娘がパパの皿を用意していることで家族に復帰したんじゃないかな、と考える。
これが妄想だけの話なら妄想なんだから家族のもとに戻るのは当然なんだけど、そうしてしまうとあんまり甘くなってしまうので少し含みを持たせて渋めに仕上げた、とそういうことではなかろうか。

などと書いてるとまるで私はこの作品が嫌いみたいだけど私は妄想大好きなのでまったく否定はしていないのである。妄想をファンタジーと言っても別によい。

後で知ったが、トム・ストールを演じたヴィゴ・モーテンセンはあの「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズで正義の勇者アラゴルンだったのだ。妄想系であるというのは同じだ(あ、また否定的な言い方だった。「ロード・オブ・ザ・リング」も結構楽しんで観たのだった)

トム役のヴィゴ。目で語る演技が素敵と言われそうである。他人事的に言って申し訳ないが。
この映画観てて、知り合いにちょっとトム的に思える人(つまり勤勉で家庭的な中年男性なのだ。外見も似てる)がいて彼ももしかしたらギャングの過去を封印してるのか、と考えてしまった。

うれしかったのがエド・ハリス。出演時間が短いのが残念、でも映画的にはちょうどいい長さだけど。

そしてウィリアム・ハート。もっと時間短い。「観た事あるけど誰」と思ってしまった。が、インパクトあり。

この映画は予備知識まったくなしで観れてよかった。
冒頭部分のかったるさが凄い。
そして最後までどうなるのか、と思わせてくれた。あんまり幸せそうな家族なんで何かあるとは思ってしまったが。

監督:デイヴィッド・クローネンバーグ 出演:ヴィゴ・モーテンセン/マリア・ベロ/エド・ハリス/ウィリアム・ハート/アシュトン・ホームズ /ハイディ・ヘイズ/スティーヴン・マクハティ/グレッグ・ブリック
2005年アメリカ

「ヒストリー・オブ・バイオレンス」ってタイトルで考えたのはウォルター・サレス監督の「ビハインド・ザ・サン」みたいなのだった。


ラベル:暴力 家族
posted by フェイユイ at 20:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 北米 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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