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2006年12月06日

「カノン」ギャスパー・ノエ

カノン2.jpg

本作「カノン」と「アレックス」を観て、韓国映画監督キム・ギドクを初めて知った時のようにうれしくなった。
但し、ギャスパー・ノエはギドクとは全く違う。
ギドクは非常に女性の目を持った女性主体の作品を作るのに対してノエははっきりと男の側からである。
この「カノン」では50がらみのオッサンが観た世界。オッサンの妄想である。

オッサンの妄想といえば先日「ヒストリー・オブ・バイオレンス」でも
そう書いたがアレは妄想から発展した作品だがこちらは妄想そのものが映画である。しかもそれにグチが加わる。最初から最後までグチの連射である。まあオッサンというものはグチをいい続けるものなのだろう。

しかもこのオッサンとそのグチがおかしくてたまらない。
絶えずむっつりしたままで心の中でぶつぶつ言ってるだけ。表面には出さず心の中で罵倒する。
心理状態を言葉にせず、行動のみを描くのがハードボイルドならこれはその真逆。
行動せずに心のみなんである。
逆ハードボイルドなオッサンなわけだ。
「あいつとこいつを殺して俺も死ぬ」なんて心の中で喚いているが実際は何もしない。
豚肉屋の主人からは「客商売は笑顔だ」なんて言われてむっつりしてるのがまたおかしい。
屠殺場の所長から刑務所出であることを言わされ就職を断られると心中「ホモ野郎め」と罵るが表面上は相手と握手したりしてる。
カフェの親子に馬鹿にされ復讐しにいくのは店が閉まってから外で叫ぶだけである。
表に出すのは滅多になく大概は心の中で「殺してやる」だの「このおかま」だの「俺が本当の男だ」的なことを叫び続けているだけ。
とにかく世の中の自分以外のものを罵り続けている。その論理はどうにも自分よがりでしょうもないものなんだが本人は自分こそが正しい、と思っているだけなのがおかしい。

女に対してもアレもこれも気に入らず自分の娘に対してのみ愛情を持つというが結局それは自分の支配下における弱い存在だからであってまったくとんだマチズムである。
すべてを自分の都合のいいよう理由付けしていく。確かにその論理は怖ろしい。
最後近く「衝撃」とされるシーンがある。それすらが妄想であった。妄想おっさんのクライマックスなわけだ。
その後オッサンが愛情に目覚めて娘を抱きしめる。
その場面に結構感激される方もおられるようだが、私としては「おいおい、これで終わりじゃねえよな」とつぶやいた。
しかしそこはさすがにすべてのモラルに戦いを挑んだ馬肉売りの男だと言うだけあってきっちり娘との肉欲関係を示してくれた。
最後まで裏切らずここでもエロと暴力を明快に描き出したギャスパー・ノエ。ユーモアというんだか全編におかしさが満ちているのもいい。
大仰な音楽とバン!バン!という切り替えしもおかしい。
現在レンタルDVDで観れる作品がこの二つだけなのが残念。

ここで主演、馬肉屋オヤジをやったフィリップ・ナオン。「アレックス」では、ちょっとだけの出演だったのに物凄く印象的であった。

ところでギャスパー・ノエ作品、非常に過激で衝撃的で劇場を途中退場する人続出なんて書いてあるが韓国映画を見慣れた目にはそれほど怖ろしくはない。
いや、私にはこのくらいの衝撃なので非常にありがたく丁度よく観させてもらっているのだが、目を覆わずにすむ品位のある奥ゆかしい手法で少なくともこの2作品は作られていると思う。
だからと言って作品が伝えんとする暴力性は的確に表現されているとも感じる。

この話、オッサンの妄想グチ話だがこの伝でいけば色んなバージョンが作れる。
オバサンバージョン、女子中学生バージョン、幼稚園児バージョンも。
まあ、オッサンが一番鬱屈してんのかもしれないか。

監督:ギャスパー・ノエ 出演:フィリップ・ナオン 、ブランディーヌ・ルノワール 、フランキー・バン 、マルティーヌ・オドラン
1998年フランス


posted by フェイユイ at 22:47| Comment(0) | TrackBack(1) | 欧州 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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カノン
Excerpt: これは『カルネ』という映画の続編なのだが、映像のキレと言い、救いようのなさといい、僕はこっちのほうが好きである。これ単独でも充分作品として鑑賞できるようにつくられている。 主人公は馬肉屋のおっさ..
Weblog: 空蝉の証しに
Tracked: 2008-09-21 22:21
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