映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2006年12月10日

「シャイン」スコット・ヒックス

シャイン.jpg

エロスとバイオレンスをテーマにしたものに偏って観ていたため、久し振りにピアニストを題材にした映画で最初戸惑いさえ覚えた。だが自分の子供に対して厳格というより偏執的にピアノ教育をする父親を見せつけられ、これも暴力には違いない、と感じた。

「自分はバイオリンをやりたかったのに理解のない父親のためにそのバイオリンを叩き壊された」と父親ピーターは息子デヴィッドに何度も繰り返す。そしてデヴィッドに「ピアノが弾ける僕はラッキーな子供だ」と何度も言わせる。デヴィッド自身もピアノを弾くのが大好きなのだ。何とか父親の願いをかなえようと優勝を目指して進んで練習を続けている。
だが父親の欲望は奇妙に歪んでいる。デヴィッドの努力で勝ち得たアメリカでの勉強の道を断ち切ってしまうのだ。父ピーターは自らの指導に固執し他人の教えを嫌っている。デヴィッドの才能を認めた教師にも胡散臭い目を向けている。「私が最もお前を愛しているのだ。外へ行くのは許さん」
ピアノの勉強を欲するデヴィッドはついに父親を振り切って次に来たイギリスでの奨学金を受ける決意をする。

「エクソシスト」で「ホラーには母親がつきもの」という事を書いたが、実際には父親の脅威というのも怖ろしいものなのだ。
ここでは母親の存在と言うのはないと言っていい(ちゃんといるのだが)疎み憎んでもデヴィッドは父親に愛されたい、理解して欲しいと願っている。何のことはない、父ピーターは「父親の理解がなくて音楽が出来なかった」というが自分自身も理解せず音楽の道を絶ってしまっているのではないか。
私は実在の人物であるデヴィッド・ヘルフゴッドのことは知らないのでこの映画に関しての感想になるが、彼がどうして何がきっかけで精神に異常をきたして行ったのか映画では詳しい説明はない。
ただここで描かれたものがある。精神が侵されピアノを弾く事を医者に制止されたデヴィッドが再びピアノに向かい人々から喝采を浴びるようになり彼の前に再び絶縁していた父ピーターが現れるのだ。ここでまた父親は自分が好きだったバイオリンの父にどうされたか、とデヴィッドに問う。デヴィッドは何度も繰り返してきた答えを言おうとしない。この時のデヴィッドを演じるジェフリー・ラッシュの表情が正常なそれになり父親に背を向ける。そして帰って行く父親に窓から「お休みパパ」とつぶやくのだ。そこがこの映画の父ピーターへの返事なのだろう。

素晴らしい才能を持ちながら父親の呪縛から逃れられず精神病院に入ることになるデヴィッド。しかし屈託のない明るい性格で人を惹きつけ様々な出会いから退院して再びピアノ演奏をすることになる。
そして知り合った女性に求婚するデヴィッド。驚いて去っていく彼女の車をいつまでも飛びながら手を振るのだ。
ここで思いもよらず涙がこみ上げてしまった。
そして彼の求婚を受け入れたギリアンにもびっくり。彼らはそれから力を合わせて演奏活動をしていくのだ。
かつての天才少年に長い年月が過ぎてしまった。が、人々の拍手に涙するデヴィッドにまた胸をうたれた。
最後にギリアンと共にデヴィッドは父の墓を訪れる。
「僕は生きている。途中で捨てずに生きていく」
いいラストシーンだった。

デヴィッド・ヘルフゴットの半生なので3人の役者が演じるわけだが、どのデヴィッドもよかった。
無論アダルト・デヴィッドは見ごたえある。精神が侵されてしまったデヴィッドだがいつも明るくて人に好かれる。酷く早口のおしゃべりだ。散らかし魔でヘビースモーカー。タバコを吸いながらピアノを弾きまくる姿はちょっとかっこいい。
そんな彼が求婚したときはさすがに怖気づいたがまさかの結果。うん、人生は捨てたもんじゃないのだ。
しかしパンツをはかずにトランポリンしてたり、彼女のおっぱいを何かと触ったりほんとに面白いデヴィッドである。
映画中の演奏は実際のデヴィッド・ヘルフゴット氏の演奏によるものらしい。音楽の聴く耳をもたないがやはりラフマニノフを聞きたくなったりする(笑)

デヴィッドが行くことになったイギリスの音楽学校の教師がジョン・ギールグッドであった。イギリスってことで彼、というのはあまりにものキャスティングだがやはりこの顔を観るのはうれしいことだ。

監督:スコット・ヒックス  出演:デヴィッド=ジェフリー・ラッシュ&ノア・テイラー&アレックス・ラファロヴィッツ 、アーミン・ミューラー・スタール 、リン・レッドグレーヴ 、 ジョン・ギールグッド
1995年オーストラリア


posted by フェイユイ at 22:33| Comment(2) | TrackBack(0) | オセアニア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
実在人物の物語ということでも興味がひかれました。正に事実は小説より奇なり、ですね。
♪ラフマニノフ好きです〜◎音楽に、酔えますね。
そしてこの父親、酷い。観ていてデビッドが可哀想で可哀想で・・。
だから、占星術師の女の人が、優しいママのような彼女が(デビッドはママみたいな年上女性が若い頃から好き◎)、一緒に人生を生きていく決心をしたということはとても嬉しかったと共にショックを受け、次に彼女のような人を羨ましいと思いました。
男に頼って生きていくのではなく、ただただ愛する、それだけを実行していけるなんて最高だな・・と。
彼女はその前の段階でちゃんと一人で生きているからこそ決断できるのですね。
こんな人生もあるんだな、人間捨てたもんじゃないんだなと、恋愛観について根底からくつがえされた気がしました。
この作品は自分にとり少し特別。
あるラッキーな縁で憧れの「試写室」という場所で鑑賞できた作品・オマケにその時妊娠中で大きなお腹で(笑)。
ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番て胎教的にはどうよ??・・と大音響の中少々びびりながら観たという異色の(笑)思い出の映画なのです。^^ 
Posted by フラン at 2006年12月11日 01:02
久し振りにこういう音楽家の話を楽しみました。

押し付けがましく身勝手な父親はホントに嫌いなんですが、この父さんも酷いです!!実際はもっと残酷だったのではないかと想像します。

私は音楽家の話なんかは好きなくせにクラシックは殆ど聞いてなくて、ラフマニノフはさすがに名前は知ってますが、こういう魅力的な音楽だったのかと初めて認識しました(笑)
しかしフランさん、この激しい曲を胎教にとは(笑)赤ちゃんもびんびん聞こえたでしょうね。いや、きっとよかったと思いますよ!
私ももっとクラシックに詳しくなりたいものですねー。
Posted by フェイユイ at 2006年12月11日 22:40
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