映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2007年03月15日

「プルートで朝食を」ニール・ジョーダン

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キトゥン=パトリックが素敵だ。悪い子で。小さな頃から悪ふざけばかり、おまけに女装が好きで養母の怒りを買う。いつも笑ってばかりだがそれは寂しさを誤魔化すためだと父親は知っていた。

「シュガーベイビーラブ」を始めとする明るい70年代ミュージック(懐かしい)が流れ、一章一章が短くてテンポが早いし、キトゥンが何かと騒ぎを起こしてくれるし、楽しくてしょうがない映画だが、結構色んなものが盛り込まれていてしかもそれらにいちいち説明がないから知ってる人はわかるし知らないとナンだろうという感じ。特にアイルランド独立運動家たちの行動が映画全体に絡んでいるのでその辺は是非知っておきたいものである。一応「ブラッディサンデー」などに当たっていたほうがよりこの映画を堪能できることだろう。さらにキトゥンの初恋の相手(?)となるビリーみたいなアイルランドのミュージシャンに詳しければよりこの部分が楽しいのだろうが、私はさほどアイルランドの音楽を聞いてないのでちょっと残念だった。
私がとても面白かったのはキトゥンが赤ん坊の時自分を捨てていった母親を「Phantom lady」と呼んでいたこと。アイリッシュで「Phantom lady」といえばアメリカのミステリー作家ウィリアム・アイリッシュの「Phantom lady=幻の女」である。しかも主人公は都会の中で(向こうはニューヨークでこっちはロンドンだが)一度しかあったことのない女を探し続ける、というものだ。向こうは自分のアリバイ=現場不在証明のために。こっちは自分の存在を確かめる為に。「Phantom lady」は他の和訳もできようからあえて「幻の女」になったのはそういうことかな、と思った次第。つまりはこの映画の中には思いきりアイルランド風味が混ぜ込まれているのだな、と感じたのだった。

とにかくキトゥンが不思議な魅力を持っている。学校時代はふざけてばかりで怒られてばかり制服は着てるけどご丁寧に刺繍やビーズをたくさん装飾しているし。家でも女装癖の厄介者と罵られあっさり家出。お母さんを探す旅にでる。行く先々で色んな男性に出会うけどなぜかいつも気に入られてしまう。相手がうんと年上なのが多いのはお父さんも欲していたからなのかな。もちろん、綺麗だからでもあるだろうけど素直な心を持っているからなのだろう。
特におかしいのはキトゥンがIRA独立運動のためクラブに爆弾を仕掛けたという疑いを持たれ警察に詰問(拷問?)される場面。イギリス人はアイルランド人を吊るしたり尻に電気を流したりする、という前述の言葉を思い出すとかなり恐ろしい場面のはずなのだが、なぜかここでもキトゥンは警官二人から奇妙に愛されてしまう。キトゥンも「いい囚人になりますから置いてください」なんて言い出すし。ここは酷い目にあわされ続けてきたアイリッシュとしてはなんともいえない不思議な味わいなのではないか。ジョーク?

念願だった母親との再会はあっという間のもので事実を告げることもなかった。それでいいんだろう(それにまだチャンスはある)代わりに会えたのが本当の父親。神父(結婚してはいけない)である男性がキトゥンの父親だった。女装したキトゥンと朝食をともにする父親である神父、というのは奇妙な図ではあるがなぜだかとてもほっとする居心地のよい雰囲気があった。
そしてガールフレンドのチャーリーとの関係がいい。チャーリーがIRA独立運動で死んでしまった恋人との子供を堕ろすため病院へ行ったのに誤魔化して逃げ出したときはうれしかった。傷ついたチャーリーを気遣うやさしさもいい。それはキトゥンの本当の父親だと判った神父様もそうなんだけど。そんな3人を見てふしだらだと嫌い家に火をつけた嫌な連中がいた。だが3人はまた新しく生活を始める。チャーリーは息子を産んだ。
キトゥンとベビーカーを押すチャーリー、これからも彼らには様々な事件や障害があるんだろうけどなんだか大丈夫だよ、っていう気にさせてくれる。

ミッツィ・ゲイナーも知らなかったしな。有名なミュージカル女優なのだった。
最後にコマドリにオスカー・ワイルドの名前を言わせてアイリッシュ(とゲイの)決めをつけてくれた。

ところでこのタイトルのプルート(冥王星)は惑星でなくなってしまったよ。

監督:ニール・ジョーダン  出演:キリアン・マーフィ リーアム・ニーソン スティーヴン・レイ ブレンダン・グリーソン イアン・ハート エヴァ・バーシッスル スティーヴン・ウォーディントン ブライアン・フェリー
2005年アイルランド・イギリス


posted by フェイユイ at 22:16| Comment(6) | TrackBack(1) | 欧州 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは!
この映画すごく好きです!すごく軽いタッチで描かれているように思えるけど、結構シビアなテーマじゃないですか?
キトゥンの前向きな生き方がその重いテーマをほどほどにしか感じさせない…
でもキトゥンってそんなに美人じゃないのに見てるうちに綺麗になっていくし、最後には虜になっている自分がいたりして…
しかしニール・ジョーダンはIRAを取り上げることが多いですよね…
あまりよく知らないのですが、いつも切なくなります。
でもこの映画は見ていて頑張ろうって気になるから大好きです。
いつもながらですが、フェイユイさんの着眼点が大好きですね。
「Phantom lady」…なるほど…と感心してしまいました。
Posted by まもう at 2007年03月16日 02:11
フェイユイさんご無沙汰です・やっと☆近々『シリアナ』観られそうです・・(笑)
そしてとうとう観て下さいましたか!^^割と気に入って下すったようで嬉しいです。
私は昨年池袋の名画座で観たのですが、周りの方々も映画通(というか映画が本当に好き^^)という雰囲気のなか、ところどころで笑いも起きたりとにかく“アア観てよかった!”思える作品でした。特に、警察官の一人が最後はキトゥンの世界に染まってしまい(笑)それをもう一人が突っ込む☆^^て辺りで笑いが起きてたのも微笑ましく。・・見所はありすぎて・・私個人的にはキリアンが学生の頃の可愛さが好きですしとにかく放浪の旅を続け色んな人に会う中で様々なテーマが浮かび上がってくる・・贅沢な映画だと思いました。キトゥンが、銃を床下から出して、るんるんとお尻を振りながら銃を湖に投げ捨てる☆シーンとか、空想なんだけど香水で敵をやっつける美戦士^^;のとこもキリアン本当綺麗だしそのアンチテーゼといいますか主張の仕方、テーマの表現の仕方が大好きなわけです。
この“人生はおもちゃ箱”みたいな表現の仕方、『ガープの世界』に似ているなとも思いました。どちらも原作が恐らくそういうタイプなのでしょうね。
そして“ファントム・レディ”!そうなのですねウィリアム・アイリッシュ!!実はアイリッシュ好きなくせに長編は読んでいなかった。さすがのご指摘◎感動でした。
Posted by フラン at 2007年03月16日 11:46
フェイユイさま、こんにちは。TBさせていただきました。
私もこの映画大好きです。音楽も耳に心地よく、サントラが欲しくなりました。
「Phantom lady」にはそういう意味があったのですね・・。
↑皆さん書かれていますが、フェイユイさまの深く広い知識に毎回頭が下がります。
キリアン・マーフィーいいですよね。
素顔(?)はあまり好みではないのですが、役にハマると本当に魅力的な俳優さんだと思います。
ではでは。
Posted by 真紅 at 2007年03月16日 20:38
>こんばんは、まもうさん。
いい映画でしたー。私はいつもうっかりなんで今頃気づいたんですが、ニール・ジョーダン監督は「インタビュー・ウィズ・バンパイア」の監督でもあったんですねー、この前まもうさんも書かれていましたが、あの映画も意味ありげでした。私も随分遅くなってからみたんですけどね。「クライングゲーム」もまだ観てないんでなんとか観ようと思ってます。「Phantom lady」の話は私の勝手な考えなので本当かどうかはわかんないんですけど(笑)
前向きな映画で嬉しかったです。

>フランさん、こんばんは。
「シリアナ」観れそうでよかったですー。
あ、しまった。テンション低かったですか?「割と」というかかなり気に入ったんですけど、あんまり「かわいいー」とか書いてませんね。大好きになりましたよー。「ガープの世界」!似てますよね展開のやり方が。私もちょっと思ったんですけど書き忘れたみたい(笑)ウィリアム・アイリッシュは「幻の女」と「暁の死線」しか読んでないんですけど(笑)でもこの話は私の想像なんで、保障はしません!

>こんばんは真紅さん。
音楽、よかったですね。私にとっては懐かしのナンバーという感じでした。無論子供の頃に聞いたというモノですが(笑)
キリアン・マーフィーは初めて知った人ですが目が印象的でしたー。
「ファントムレディ」の話は・・・事実だと嬉しいんですけど(笑)
Posted by フェイユイ at 2007年03月16日 21:30
こんにちは。
キリアン・マーフィー。「麦の穂を揺らす風」ぜひ観てみてくださーい。映画自体も素晴らしいですし、キリアンも素晴らしいですよ。
Posted by さち at 2007年03月17日 12:19
こんばんは、さちさん。それはもう楽しみにしています(笑)
違うキリアンも観てみたいです!!
Posted by フェイユイ at 2007年03月17日 19:56
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やっと会えた〜『プルートで朝食を』
Excerpt:  昨年公開された映画の中で、見逃して最も後悔していたのが本作。やっと観る ことが叶い、改めてこれは2006「私的ベスト3」に入れるべき作品だったと思う。 もっと早く、近くで会えていたなら・・と..
Weblog: 真紅のthinkingdays
Tracked: 2007-03-16 05:01
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