映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2007年04月01日

「ブエノスアイレス 春光乍洩/Happy Together」王家衛

tk.jpg

どうしようもなくたまらないほど好きな映画というのが映画好きならあるだろう。

私にとってはこの「ブエノスアイレス」なのだ。この映画についての思いは「藍空」でも書いているのだけど自分としてはまったく言い足りてないし、何度書いても多分言い尽くせないと思う。

この映画を初めて観た時は震えるような思いだった。レスリー、トニー、チャン・チェンという人物を全く知らなかったので余計にこの映画の世界に陶酔しきってしまったのだ。
だが彼らを知った今見直してもその魅力が変わることはない。

ショッキングな冒頭部分を抜けてファイ(トニー)とウィン(レスリー)がアルゼンチンでイグアスの滝へと向かう途中道に迷っている。
「地図が読めないのか。道が違うぞ」と責めるファイにウィンは「引き返して正しい道を探せばいいさ」とあっさり答える。
二人の関係はまさにこの言葉に表されている。いつもいきあたりばったりで計画性がないウィンにうんざりするファイと絶えずやり直しを求めるウィン。
目的地であるイグアスの滝へたどり着く事が出来ず彷徨う二人。
香港の裏側の世界でやり直しを試みた恋人同士。そこにいるとまるで地球にいるのは二人だけのようだ。

「ブエノスアイレス」を観た者はその音楽に酔わせられる。
バンドネオンの音色。カエターノ・ヴェローゾのささやくような歌声。
ファイとウィンを映した印象的な映像とこれらの音楽が溶け合って記憶を残す。

わがままで自堕落なウィンはなんて可愛らしいんだろう。ファイが彼から離れられないのはしかたない。
観光客相手に懸命に働いて帰国の為の金を稼ぐファイの前で白人の男と車に乗り込むウィン。見送るしかないファイを後にして煙草の煙を吐き出すウィンの横顔に見惚れる。
白人男から両手を潰されファイの所へ逃げ込むウィン。ファイに倒れ掛かり血だらけの手を見せるウィンの傷ついた姿の美しさ。魔法にかかるようにウィンの魅力にとり憑かれていくしかないのだ。ちやほやされていた時はファイを見捨てていたくせに困ったときだけすがり付いてくるこの身勝手な小悪党に参ってしまう。
両手に包帯を巻いて何もできないといった風情。ファイとタクシーに乗り込み、ちらりと彼に目をやる。ファイは煙草をウィンの口に持っていってやる。ウィンの勝ちだ。ファイはもう逃れられない。ウィンはファイの肩にもたれる。幸せにひたっているのはファイの方なのだ。だが同時にこれから起こる悲劇にも気づいているはずなのだ。
ファイは後で告白する「ウィンの手の傷が治らないよう祈った」と。「幸せだったから」
高熱に脅かされている時にすら食事を要求する子供のようなウィンを愛していたファイ。甲斐甲斐しくわがままなウィンの世話をしている一見滑稽なこの一時期がふたりの幸せな時間なのだった。
そしてまた観る者に深い印象を与えるウィンとファイのダンスシーン。狭いキッチンで寄り添い体を揺らしている二人の男。荒涼とした外の景色が映される。
きつく互いを抱きしめる。そうしなければ生きていけないかのように。二人が離れてしまうかのように。

行き場のない破滅的なウィンと対照的な存在がチャンである。ファイの物語は次第にウィンからチャンへと移っていく。
目で見るものより耳で聞くものが信じられるという不思議な若者をチャン・チェンが爽やかに演じている。
チャンが就業時間が過ぎてるのに仕事場の調理室に残ってせっせと器具を拭いている場面がなぜか心に残っていていつも思い出してしまうのだ。ウォン・カーウァイの映画には奇妙な感覚の持ち主、というのがよく登場するがこの作品では彼である。
チャンとファイの関係というのはよくわからないものなのだけど「会おうと思えばいつでも会える」という言葉に希望を感じさせる。

この映画のもう一つの魔法は美術で二人の住む部屋をはじめ美術が秀逸である。役者、音楽、美術、ストーリー、すべてが愛おしい、ということなのである。

レスリーの為の鑑賞だったのに彼についての記述が少なかったかも。
私はどうやら好きな人ほどうまく褒めきれないし言葉に出すのも怖くなる節があるようだ。
様々な作品で多種多様な顔を見せるレスリーを愛する自分だが、この作品のウィンは別格なのだ。
レスリー自身はこのウィンのような性格ではない、とこぼしていたみたいだがその上でこのウィンを作り出してくれたレスリーに感謝したい。
このたまらなく可愛らしい悪党に心奪われないものがいるのだろうか、と自分は思うのである。
実年齢はもう若いという域ではないにも関わらず少年を思わせるような心細さ、永遠に大人になりきれず行き場もなくさ迷う魂を持つウィンを愛さずにはいられないのだ。

監督:王家衛 撮影:杜可風 美術・編集:張叔平 出演: 梁朝偉 、張國榮、張震 
1997年香港




posted by フェイユイ at 23:30| Comment(2) | TrackBack(1) | 香港 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
フェイユイさま、こんにちは。
『ブエノスアイレス』でしたか・・。私も大好きな作品です。
レスリーの出演作(全て観ているわけではないのですが)の中では、『欲望の翼』『さらば、我が愛/覇王別姫』とブエノが私の中では甲乙付け難いです。
本当に、本当に不世出の俳優さんだったと思います。
これからも、エイプリルフールは特別な意味を持つ日であり続けるのでしょうね。
私のは写真を貼り付けただけの記事ですが、TBさせて下さい。
いつかこの映画についてじっくり書いてみたいです。ではでは。
Posted by 真紅 at 2007年04月02日 10:38
レスリーの作品だからというだけでなく自分の中で最も大切な映画のひとつです!

真紅さんがあげられたものと「楽園の瑕」が大好きですし「金玉満堂」と「チャイニーズゴーストストーリー」も(全部言う気か汗)いやまだまだいっぱいありますから。

真紅さんの記事、先に見せてもらいました。レスリーの写真は素敵ですが、王印の腹もよかったです〜。

去年はレスリーの映画を観ず「プロミス」観てたら、ニコラス・ツェー役はレスリーがするはずだったと知ってああ、逃れられないんだ、と感じました。私の勝手な思い込みですが(笑)で、今年はもう一番好きな映画を観ることに。
でもコメディもレスリーはいいんですよねー。
Posted by フェイユイ at 2007年04月02日 18:21
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック

春休み、日曜日、ファーストデイ、四月馬鹿
Excerpt: 今日映画館に行ったら・・  映画『300』のパネル。  Gerryさん、腹筋が凄いことに!  王の字がお腹にクッキリ。  春休みど真ん中の日曜日にファーストデイが重なり..
Weblog: 真紅のthinkingdays
Tracked: 2007-04-02 10:29
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。