映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2007年04月08日

「ブロークバックマウンテン」アン・リー

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実は私、今日初めて日本語字幕で「ブロークバック・マウンテン」観たのだった。ずっと前に観た時は中国語字幕だったんでイニスもジャックも中国語をしゃべってた。ま、いやしゃべっちゃいないが、字幕だけのことなんで。

で今回やっと日本語字幕で理解できたわけなのだが、中文字幕でずっと満足してたのはある程度意味が通じればそれほど言葉を必要としていない作品だからなのだろうか。二人とも無口特にイニスは話してもほんの少ししか唇動かしてないしねえ。

観直してみて再確認したのはどっしりとした重みのある素晴らしい作品だと言うこと。妙な言い方だが、この作品には愛し合う二人の男の苦悩が描かれているわけなのであるが、それを抜きにしても(する必要はないけど、あえて)大変深い味わいがあると思う。
特に若き二人のブロークバックでの野外生活はそれだけでも見ごたえがあって、大自然の匂い立つような、鋭い冷気が感じられるそれぞれの場面は美しい。イニスとジャックの仕事ぶりも見ていて飽きさせない映像になっている。
この最初二人が黙々と働くシークエンスは結構長いものだが、それだけにこの山が忘れられないものであると印象付けられるのだ。

そしてイニスという男の造形描写。ジャックと出会ってから2週間は殆ど口をきかなかったというこの無口で無骨なカウボーイは見ているとじれったいほど臆病で不器用なのである。
そして事がうまくいかないとかっとなって暴力をふるったり、頑固で融通が利かないなどいかにも男性らしい思考と行動の人物である。外見的にも表情が乏しくて何を考えているのかわからない。
「二人の愛し合っている男達が酷いリンチを受けて死んだ。その指導者は父親だった」という幼い時の記憶、世の中は絶対に男同士で住むことを許してくれない、という思いから逃れられないイニス。仕事に関しても頑なで柔軟に対処することができない。
そのイニスが最後に少し変化する。その変化は小さいものだがイニスにとってはかなりの違いなのではないか。娘の結婚のために仕事を代わってもらい出席するという、これまでになかった変わり様だ。
女性と結婚するのをやめ一人きりで暮らし始めたのも彼が当たり前の男性の枠から外れようとしているように思える。
それにしても一人で住み始めたトレーラーハウスに郵便受けを取り付けるシーンは何か切ないものがある。いつも葉書で連絡を取り合ってたイニスとジャック。イニスはどこかでジャックからの手紙を待っているのではないだろうか。

死んでしまったジャックの部屋で血のついた自分の服がジャックの服の下に抱きしめられるようにそしてそれを隠すかのように人目のつかない場所に掛けられていた。
イニスはそれを持ち帰り一人きりで住むトレーラーハウスで自分のシャツでジャックの服を包むように掛けている。その側にはブロークバックマウンテンの写真が。
その脇には小さな窓があり遠く景色が見えるのだが、そこからジャックがやって来る姿が見えるようにも思え、またあの時二人がいたあの山の風が通ってくるようにも感じたのだった。

監督:アン・リー 出演:ヒース・レジャー、ジェイク・ギレンホール、 ミシェル・ウィリアムズ 、 アン・ハサウェイ
2005年アメリカ

ところでイニスが不器用だからいかん、とか奥さん達が可哀想だとか言う批判があるが、物語と言うのは品行方正、全てにおいて完璧、寛大で公平な心を持つ人のみを描かなければいけないわけではないのだから。イニスは田舎者で貧乏で知識も行動力も乏しい不器用な男である。だからこそ観るのだ。

最後の台詞「Jack、I swear…」字幕では「ずっと一緒だ」と言う風になっていて違うのでは、という疑問をかもしだしている。
「ジャック、俺は誓う」では何を誓うのか。シャツが重なっていたようにもう離れないことを。ジャックが一緒に住みたい、と願っていたことをかなえたい、ということ。
で、意訳で「ずっと一緒だ」になってしまったのだろう。でもそこは考えさせて欲しいわけでそのまま「俺は誓う」でよかったんだろうね。


posted by フェイユイ at 23:09| Comment(7) | TrackBack(1) | 北米 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは。フェイユイさんと『ブロークバック・』につき語ることになるとは。。^^中国語字幕と日本語字幕、理解に違いはありましたか?
・・実は私はこの作品ごく最近観たのですが、妙に気になり続けて3回位観てしまいました。何回も観てしまうというのは、私の中で相当な作品です。
で、鑑賞後色んな方々の意見を読む等して自分の感想を絞り込みました。
最初は“男同士のラブシーン”というもの自体初見であっけにとられてしまい(笑)。皆さんは「真実の愛」とか「最高傑作」とか格調高く表現されてますが、私はとにかくこの部分がショッキングで。。でもそれ以外にも勿論印象深いエピソードや美しい映像等、見応えある深い内容の映画でした。
そして作品のよさは何より二人の俳優の魅力に負うところが大きいと。。だいぶ経ってから、こんなにこの作品に魅かれるのは実は私がヒース・レジャーを好きになってしまったからなのだ、と気付板次第で(^^;)
二人の過ごす夏の日々、美しいです。二人にとっては永遠の思い出であり楽園のような世界。
その中で象徴のように感じたのが“狼にやられた羊”・・二人が結ばれた時に羊は犠牲になるわけで、私はこの羊=アルマに思えてしょうがありません。
アルマは気の毒です〜;この世の地獄ですよ〜、あんなとこ目撃しちゃって〜ひぇ〜★が、素直な感想(笑)ですが。実際問題としてあれは、苦し過ぎる現実ですよねぇ・・。(もし自分だったら、とすごく考えてしまう^^;)
しょっぱいことを言うようですが、多分ジャックとイニスのあいだの愛情も、一年に何回かの逢瀬ではなく一緒に住み“生活”が伴ったならば、そうそうロマンチックには展開しないのでは・・圧倒的障害のもとだからこそ生まれた恋愛、なのだと思います。
Posted by フラン at 2007年04月09日 00:27
連投失礼します。
昨夜はデータ(監督名以下)後のフェイユイさんの掲載部分を見ずに、上記書き込みをしたようです。^^;・・だからどうということもないのですが(笑)
ただ、最後の台詞については考えさせられました。そして・・(脳内想起☆)名シーンですよね。。
物語としての魅力もさることながら本当にイカン、と思う位(マットを差し置いて・笑)この作品でのヒース=イニスにいかれてます。フェイユイさんの「そしてイニスという男の造形描写。ジャックと・・・」ではじまるイニスの解説内容、ホントその通りだと思いました。所謂オトコの一典型なのですよね・・それなのに男を愛するパラドックス・・。この映画を観て、とにかく私達オンナが、男性同士の同性愛話につい惹かれてしまうのは何故なんだろうと考えてしまったりもしました。。。
Posted by フラン at 2007年04月09日 08:39
いつも中身の濃いコメントありがとうございます。
どう言ったらうまい答えになるかわからないので順番で答えていきますね。

勿論、日本語がいいに決まってるのですが、あまり言葉に頼らずに作られていると感じています。
この映画の“男性同士のラブシーン”はリアルでしたよね。私はどうしてだかあまり触れてませんが(笑)
この映画の弱点はどうしてもこの同性愛というテーマにあります。
拒否感を持つ人にはいかによく出来ているといっても心底で惹かれることはないでしょう。
これを機に拒否感がなくなることがあればいいのですが、根本的なものだろうからどうなんでしょうね。
私はこのテーマ自体に惹かれるので拒否感を持つというイメージを考える方が難しいのです。

>羊=アルマに思えてしょうがありません。
このことについてはまったく考えていませんでした。確かにこれもショッキングな映像で何かを象徴していて当然でした!
フランさんから言われて初めて考えたのですが私がここに気づいていたら絶対にイニスとジャックの運命を予感させる、と書いたでしょう。
ただ本当にその二人に関わった特にイニスを愛しているアルマにとっても切り裂かれるような痛みを与えられたわけですよね。
世間から切り裂かれるイニス・ジャックと彼らに切り裂かれるアルマ。どちらも激しい痛みを感じるわけですね。
ここに気づかせてもらってホントに嬉しいです!ありがとうございます。

>圧倒的障害のもとだからこそ生まれた恋愛
そうですね。これは時代と地域によってまた変わってくるもので現在のアメリカなら無論こういう話にはならなかったでしょう。ゲイの結婚が許される場所なら彼らの悩みも男女のそれとあまり変わらないものになるのかもしれません。
だからこそこの時代のこの物語が人々の心を打つのだと思っているのですが。

>データ(監督名以下)後
ふふふ、実はここに本音を書いてること多し。

ヒースとマット、といえば勿論「ブラザーズ・グリム」ですよね!
アレを観た時私は二人とも何も思っていなかったので純粋に公平に見たのですが、その上でマットが好きになったのですよー。
あのヒースは「ブローク」とは別人ですね。可愛くて。でもマット兄貴の方がもっとよかった(笑)

>私達オンナが、男性同士の同性愛話につい惹かれてしまうのは何故
これはわからないのです。私なんてもろにそういう人なんですが。なぜなのか、全くわかんない。へ理屈はつけられそうなんですが。不思議です。


Posted by フェイユイ at 2007年04月09日 21:14
同性愛に関してなのですが、私が勝手に感じたこと・・
この映画を普通(ノーマル?)の男性が観た時にどんな感想を抱くのかな〜に始まり、男性の目ということを考えるとこの作品中の男性達、皆、ジャック&イニスを軽蔑したり差別したりの方が多いですよね。
でも、でもですよ・・自分の中に同性愛への関心が全くない人ならば、何だかあそこまで手酷くののしったり果ては殺してしまったり!?・・までは私はしないような気がするのです。
時代と土地的背景という理由で説明がつくのでしょうが、私はなんとなくイニスの父親も、実は同性愛者(心の中で)だったのではないかと。つまりDNAですよ(笑)・・可愛そうなのはイニスです・絶対的存在の父親から杭を打ち込まれていたのですから・・。実際問題あれは酷すぎですよね・・これもまた象徴的に現したエピとしての事件に見えてしまいます。
そしてジャックの方も父親と母親は勿論息子の性向に気付いていたからこそ、きまづくなり離れてしまった。。。
あまりにそれを嫌うというのは却って“バレてるぞ”(笑)と思うわけで。どんな人の中にも、存在する可能性は、ありますよね。そんな視点で作品中に出で来るオトコ達を見て考えをめぐらしていました。そしてそれは、鑑賞している自分のなかにも及び・・と、一時期結構トモダチとこの件につき話合ったりして波紋を呼んだのでした(笑)。
Posted by フラン at 2007年04月09日 22:39
勿論そうだと思います!!
同性愛はいけないもの、軽蔑すべきもの、本物の男ではない、という価値感の中でそういった人がいるならそれを排斥または叩きのめさなければ自分がそうじゃないかといわれる危険性があるわけですよね。
イニスの父がはっきり自覚していたかはわかりませんが自分や家族のものが同性愛者にならない為に彼らを攻撃しこうなるぞと見せなければいけないわけですよね。
ただ時代と場所と言うのはそれを容認すればそういった排斥はする必要がなくなるわけで。実際、映画に対する反応もアジア人(と言っても台湾人と日本人のことみたいですが)の方が寛容でアメリカではやはり厳しいとか。宗教の違い、ということも絡んできますし、マッチョという意識の違いもあるわけですよね。
父性が強い場所と母性の強い場所でも違うようです。日本は母性の国ですから、なんとなく許してしまう所もあるようですね。
まあ、叩き殺すまではいかないとか。父親は叩くんですね、気に入らないと。
なんだかうまく言えませんが(笑)私はよしとしてるので今まであんまり突き詰めてブログに書いたりしてないのです。
そういったことも書いていきたい、と思ってはいるんですけど。なかなか表現むずかしくて。

ところで事後報告になりますが、フランさんのコメントで記事を書かせていただきました。これは重要だと思いましたので。もしいけなかったら言ってください。すぐ対処しますm(__)m
Posted by フェイユイ at 2007年04月10日 00:18
フェイユイさま、こんにちは。
『ブロークバック・マウンテン』については拙ブログでもいろいろと書いてしまっています。
どのエントリでTBしようか?と迷ったのですが、ラストのセリフについての記事でTBさせていただきました。
とても静かで地味な作品だと思うのですが、何度も観てしまったり、作品について考えたり、書いたりせずにはいられなくなる映画ですよね。
男性同士のラブシーンがある、というだけで生理的にダメ、「ドン引き」したというような感想(男性に多い)も多いのですが、そんな風に片付けてしまって本当にいいのですか?と言いたくなります(言いませんけど)。
初めてこの映画を観てから一年以上経ちますが、いまだに考え続けています。
そしてこれからも何か書いてしまうかも・・。
私にとってはそういうかけがえのない、大切な大切な作品です。
フェイユイさまの記事が読めてうれしかったです。ではでは。
Posted by 真紅 at 2007年04月10日 04:26
観なおしてみてますますこの映画には多くのことが含まれているのだと感じています。本当に色々なことを考えさせてくれる映画ですね。
引いてしまうという人も確かにいますが、同性愛に興味はなくても(共感できなくても)この映画には感動した、と言う人も多いですし、アン・リー監督が思った以上に好意を持って受け入れられた。アメリカで拒否された映画館もユタ州の一館だけ(DVDでのインタビュー時の発言)でしかもユタ州のほうがニューヨークより集客数が多い、というのはちょっとおかしかったです。監督が「これはラブストーリーなのです」と何回も繰り返しているのもちょっと感動でした。

真紅さんは台詞を分析されていて素晴らしいですね。
ラストの台詞で無口なイニスがはっきりと言えなかった思いを考えてしまいますね。
Posted by フェイユイ at 2007年04月10日 18:46
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