映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2007年04月19日

「大正四谷怪談」岸田理生・脚本、栗田芳宏・演出

lJk.jpg

舞台劇である。時代は大正となっている。

昨日は優しい伊右衛門を褒めたがやはり伊右衛門は悪男だからこそ繰り返し作品となるのだと納得。また岩も忍従の妻だからこそ涙を誘うわけなのだ。

本作の伊右衛門は17歳の藤原竜也。長い睫毛が影を落とす美貌の悪い夫を演じる。10歳年上で娼婦である妻・岩への態度の冷酷なことこの上ない。「暑気払いだ」で岩を殺してしまうくだりは酷すぎる。
いつも別の女を抱きにいく若い夫・伊右衛門を盲目的に愛する岩を演じているのは女形の松井誠。
岩を女形が演じているのが興味深い。ここまで従順に仕える女を演じるには女形でなければ無理なのかもしれない。伊右衛門を愛する為だけに存在する女という夢想のような女は女形だからこそ演じられるのだ。伊右衛門を愛しぬく己に酔わなければあり得ないだろう。
岩の義妹(岩の家の養女となった)袖に寺島しのぶ。病気の夫を抱え娼婦として生きる女を演じる。
伊右衛門の生家の下僕として働き、伊右衛門が東京に出てからも寄り添い仕えることが運命と決めている。金を稼ぐ為に何でも屋としてどんな仕事でも引き受ける。その金を伊右衛門のために使う。岩の義妹・袖を心から愛しているが実は袖は養女に出した実の妹なのだった。

登場人物は以上の4名だけ。舞台装置もシュールな背景が据え付けられているだけで、雷の音や音楽が響くだけである。小道具も新聞紙のようなものとスカーフとナイフだけのシンプルな舞台。
4人の台詞だけで物語は進む。

豪華な出演人だが、本作で最も惹かれたのは藤原=伊右衛門ではなく多分一番地味な出演者であろう田山涼成の直助であった。
貧しい出生で末娘を養女に出すという父親を、13歳の身で働くからと引き止めた直助。裕福な伊右衛門の家で使われながら岩の家に養女に行った妹・袖に叶わぬ恋心を抱いてしまう直助。やがてそれを父に知られ殺してしまった直助。
家を出た伊右衛門の後を追い、しなくともいいのに彼を慕い仕える直助。娼婦として生計をたてる袖から「買ってください」と頼まれ実の妹と知りながらそれが言えずその体を買うしか道のない直助は生きながらして地獄にいるとしか思えない。
演じる田山涼成は小柄で失礼ながら見栄えのする風貌でもないが(DVD写真でも一番下の目立たない位置に窮屈そうにおられる)それだけに卑小な直助が生きていこうとする最後は涙を覚えずにはいられない。

本当言うと何を感動していいのかよくわからないのだが、何故だか妙に感動させられれてしまうのだった。
岩はやたらと伊右衛門伊右衛門でどうかしてるという所だし、伊右衛門が悪党と言っても岩と直助に当たっているだけのしょうもない奴のようであるし。何の義理もないのに(彼の中ではあるのだろうが)伊右衛門に従う直助というのも今現代となっては不可解な存在でしかないだろう。
だが伊右衛門、岩、袖が死んで地獄に堕ちてしまい自分は百年生きようと言う。百年すれば彼らは生まれ変わり姿かたちは変わっても自分にはわかる。それを見届けてゆっくり死んでいこう、という直助の決意は何の意味もないようだが泣けてしまうのだ。

他の3人もいいのだが直助の心細い立ち姿にすっかり負けてしまったのだった。直助は他の3人から取り残される存在なのだがそうした古臭い人間に悲しさを見てしまうのだ。

ここのところ続けて「四谷怪談」ものを観て同じような設定でこうも豊かにバリエーションが作れるものかと面白かった。
名作というのは力強いものだと改めて感じたものである。

脚本:岸田理生 演出:栗田芳宏 出演:藤原竜也、松井誠、田山涼成、寺島しのぶ
1999年日本


posted by フェイユイ at 22:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。