映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2007年05月02日

「麦の穂をゆらす風」ケン・ローチ

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悲しい。世界中で起きた、そして起きている様々な紛争を思ってもこれと同じような事があるのだ。
自分の国、日本を思えばここに描かれるイギリスのような立場でアジア諸国の人々を苦しめていた歴史があるのだから。特に朝鮮(韓国)に対しては非常にこの関係に似ている。

この映画を作ったケン・ローチ監督がイギリス人であることに驚きを感じてしまう。これと同じように日本人が自分たちを見つめ作品を作り発表する事ができるだろうか。

だが悲しいのは他国であるイギリスに惨たらしい攻撃を受けたいた間だけではなくそれ以上にイギリス兵が撤退してからの同胞達の争いである。
映画ではイギリス軍との戦いが終わったと同時に仲間達の間に亀裂が生じ同じような惨たらしい争いが繰り返されてしまう。

ローチ監督の映画作りは丹念である。美しいタペストリーを織り込むように物語の糸を選び組み立てていく。冒頭のどかな緑色の風景の中でハーリングという球技で遊ぶテディ・デミアン兄弟と仲間達。皆に期待され果敢に挑んでいく兄テディの姿は後の戦う姿を予感させる。
のんびりと帰宅する彼らに突如銃を向けるイギリス兵たち。仲間の一人は名前をどうしても英語発音しなかったために撲殺される。「名前を言いさえすればよかったんだ」というデミアンは後には心を誤魔化すことが出来ないように変化していく。

それにしてもアイルランドを弾圧するイギリス兵のなんという理不尽な恐怖に満ちているのか。
いつでも他を支配しようとする者はこのような意味の解らない暴力を(肉体的にも精神的にも)振るっているものなのだ。
そして暴力による報復と仲間の裏切り。どうしようもないとは言え、幾度となく繰り返される空しい戦い、報復。
争いを避けようとしていたデミアンは友達の裏切りを知り自ら彼を殺害する(処刑という言葉を使う必要はないだろう)それは人間として間違ったことではないのか。心がなくなったような気がする、とデミアンは泣く。友人の母親、かつてよく食事を作ってくれたその人に友人の死を知らせる。友人の母の言葉「もう二度と来ないで」

命がけのゲリラ戦の末、イギリス軍は撤退することになる。アイルランドとイギリスの講和条約。だがそれはデミアンたちの意にかなうものではなかった。仲間はその条約に賛成反対で分かれてしまう。そして仲のよかった兄弟、テディとダミアンもここで袂を分かってしまうのだ。
兄の意見を受け入れないダミアンを銃殺する兄。一体何が大切なのか、何を守ろうとしていたのか、争いというのは人を狂気に走らせてしまう。友達を殺めたダミアンは最愛の兄に殺されてしまう。兄は弟の恋人にその死を知らせ「もう二度と来ないで」という言葉を聞く。

なぜ最も愛する大事な人を殺し殺されなければいけなかったのか。
緑溢れる自然、柔らかな光線が心地よい国で、高い志を持った若者達が共に戦いやがて互いに刃を向けることになるこの悲しい出来事に目を背けてはいけないのだ。

タペストリーというものはよく戦争を題材とした叙事詩を織ってあるもののようだ。
ローチ監督は美しいタペストリーを織るようにこの物語を作り上げた。
それを見る時、私は涙を流すだろう。またそれを折々に思い出すことだろう。

監督:ケン・ローチ 出演:キリアン・マーフィー、ポードリック・ディレーニー、リーアム・カニンガム、オーラ・フィッツジェラルド、メアリー・リオドン
2006年アイルランド=イギリス=ドイツ=イタリア=スペイン


posted by フェイユイ at 22:09| Comment(3) | TrackBack(2) | 欧州 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
『麦・穂』・・何故私はこの映画を観たのだろう・・と考えてみた。
何か自分にとって、「観なくてはいけない」という雰囲気が漂っていたから☆でした。
映画館で鑑賞後席を立つ時、年配の女の方が「私、もう途中で(恐くて辛くて)外に出たかったわ・・」と仰るのが耳に入り、尤もと思いました;私もとにかく辛くて辛くて・・。
同胞同士が殺しあう・・あまりにもむごいですよね。恐怖と狂気の世界。こんなにも辛い想いがアイルランド紛争でおきていたのか・と呆然となりました。
うまく感想が書けないですし、一回観たらもうDVDとかでもう一度観たり等は出来ないです〜私の場合。
キリアンの透明感が、素晴らしい。
彼はどんな作品に出演しても監督の期待以上☆の何かをもたらすのではないかしら。先日『サンシャイン2057』観ましたが、やはりキリアンあってのあの作品◎だと思いましたし。^^
Posted by フラン at 2007年05月04日 21:13
フェイユイさま、こんにちは。
この映画、駅から遠い劇場で観たのですが、映画が終わって駅までの帰路も涙が止まらなかったのをよく憶えています。
泣きながら歩きました。心が砕けそうになった映画でした。今でも思い出すだけで涙が表面張力になります。
でも傑作ですね。

↑でフランさまも書かれていますが、キリアンは素晴らしいですね。
彼を評して「役に丸ごと染まる」とおっしゃった方がいらっしゃるのですが、本当にその通りだと思います。
タペストリーで、キャロル・キングの曲を思い出してしまいました。
ではでは、また来ます。
Posted by 真紅 at 2007年05月04日 23:13
>フランさんへ
ほんとにどう書けばいいのかと戸惑う作品でした。一見クールに淡々と描いているようで戦争への怒りと悲しみが爆発しているのです。ケン・ローチ監督という人は凄いと思いました。

ところでキリアンですが勿論この映画を素晴らしいものにしたのは彼の才能だと思うのですが、正直に言うと外見があまり好みではないのです(笑)だから「プルート」でもあまり騒がなかったわけですね^^;
どちらかと言うと兄貴役のほうが好きでして(笑)でもまあその辺を言うこともないかと今回省略させていただきました。
でもきっと監督が使いたくなる役者の一人なんだろうと思っております。今後の活躍も気になりますね。


>真紅さんへ
胸の痛くなる映画でした。イギリス人である監督がここまで同国人の行動の酷さとアイルランドの悲劇を描いたことに驚きます。こういった作り方というのは非常にイギリス的だとも思えます。

キリアンくんの魅力に対し否定的なことを言うわけではないのですが、全くの個人的趣味として好みではないのですよねー(笑)俳優としてはまったく申し分ない方だと私も思います(^^ゞいやもうホントに好き嫌いだけの話で。しつこいけど兄貴役の人とダン(カニンガム)が好きです(笑)

キャロル・キングって知りませんでした。是非聞いてみたいです(聞いたら知ってるのかも)
Posted by フェイユイ at 2007年05月04日 23:27
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