映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2007年05月14日

「明日へのチケット」エルマンノ・オルミ、アッバス・キアロスタミ、ケン・ローチ

`PbgR.jpg`PbgS.jpg明日へのチケット5.jpg

何度も書いているが「放浪記」などというタイトルをつけるだけに旅の物語が大好きなのである。自分がそこへいるかのような共にどこかへ移動しているかのような錯覚を見させてくれる映画には酷く弱い。飛行機はちょっと旅という気がしないが、自動車、オートバイ、バスなんか、そして列車の移動というのは独特の雰囲気と大勢の人々を運ぶだけあって数多くの映画で取り上げられるシチュエーションである。私の趣味としてはやはり「オリエント急行殺人事件」のようなミステリーがまず先に出てくるのだけど「何か事件が起きる」予感でどきどきしてしまうのである。

列車の音。窓から見える風景というのはどうしてこうわくわくするんだろう。遠景と近景が不思議な速度の違いで変化していく。線路上を一定のリズムで走っていく音が心地よい。通り過ぎる町も人々の姿も不思議な映像を観ているようだ。

第1話。エルマンノ・オルミ監督。
小柄で優しげな初老の教授がオーストリアからローマへ急ぎ帰ろうとしている。可愛い孫の誕生日に呼ばれているのだ。飛行機が欠航のため、仕事先の秘書の女性が急行列車の切符を用意してくれた。駅で切符を受け取る僅かの時間に教授は秘書女性に恋をしてしまう。
食堂車で揺られながら、その存在を確かめてもいない想像上の初恋の少女と切符を渡してくれた美しい女性秘書と重ね合わせてしまう教授。
発信することはないメールを打ちながら教授は甘い想像を続ける。そこへ入り込んできた兵士たちの行動が教授の夢を切断してしまう。
乗り合わせた難民家族が赤ん坊にミルクを飲ませようとした時、リーダーらしき男が乱暴に歩いた為ミルク壜が落ち、中身がこぼれてしまった。こぼれたミルクが酷く悲しい。
いつも恋に臆病で声をかけ切れなかった初老の教授はウェイターにホットミルクを注文し仕切りドアの向こうにいる難民の家族へと運ぶ。
小柄な教授と背の高いオーストリア女性の絵が楽しい。小柄な男性と背の高い女性の組み合わせって凄く好きなのだ(私は全く背が高くないが)夢ばかり見てるような内気な教授の最後に起こした勇気に拍手なのである。

第2話。アッバス・キアロスタミ監督。
一番不思議な謎の物語。1話目が初老の男と若い女の物語で甘く切ないのに、こちらの初老の女と若い男だとこうも苛立つ話になるというのはちょっと不公平なり。しかも教授はなかなかハンサムだったのにこの女性の厚顔ときたらば。
しかも若い男とはいえ、また昔を思い出す話である。どうも男は昔を思い出してばかりいるようだ。話相手は厚顔で体格も厚いオバサマの方ではなくほっそりとした14歳の少女。オバサマはほっとかれてますます憤りとうとう大爆発である。
男性が見てたら、当たり前なんだけど、オバサマとしては連れの男がスレンダーな若い女性や少女にばかり愛想を振りまいてちょっとやっかんでしまった部分もあってちと可哀想ではある(男はそんなことは考えもしないんだろうな)
若い男が主人公なのかよくわかんないが老いた女の哀愁を感じさせる一編であった。老いた男の哀愁っていうのはよくあるけど女のはホントに悲しくないか。

第3話。ケン・ローチ監督。
まずはセルティック中村俊輔、スコットランド・サッカー記者協会選出の年間最優秀選手賞を受賞、おめでとう!俊輔のおかげでセルティックが凄く近しい存在になったのであった。
この1話は主人公たちと同年の女の子達がちょっと出てきて彼らにひと時の夢と絶望を与えるが殆どはセルティックサポ・トリオの騒動に終始している。
彼らの夢はなんといっても最愛のスコットランド・セルティック対A.S.ローマの試合を観ることにある。
決して裕福ではないスーパー店員の彼らは金を貯めスコットランドからローマへと向かっているのだ。
列車内で出合った難民家族にサンドイッチをあげたことがきっかけで切符を奪われてしまう。
疑いをかける友達フランクを留めて彼らを信じようとするジェムジーだったが、事実は彼らの仕業だった。
自分たちが夢に見たセルティックのチャンピオンズリーグ準々決勝を観るか難民家族に切符を渡すか、彼らの懊悩が情けなくもおかしく愛おしい。
父親に会うためアルバニアからローマへと必死の旅をする家族を見て切符を盗まれたジェムジーは「俺だって盗む」と断言する。私もそうだと叫びたい。
ジェムジーの切符を取り戻そうと怒り狂ったフランクは家族の悲しい目を見て自分の切符を上げてしまう。
あんまり馬鹿でお人よしなサポーターくんたちよ。私もこれからセルティックを応援しちゃうよ。日本相手じゃない時はね。
アルバニア難民家族を救ったために車掌たちに捕まり警察に引き渡される事になった憐れなサポ3人。
僅かな隙をみつけ脱兎の如く逃げ出したときは大喝采。行け行け、わー!!!
こけつまろびつ大逃走。最後は敵のASローマサポと鉢合わせ。ローマサポの助けられながらもセルティックを高らかに応援するのであった。なんてステキなエンディングなんだ!この前ローチ監督を「この一作で愛してしまった」と書いたが、この作品でさらに愛は深まったのである。



ラベル:鉄道
posted by フェイユイ at 22:07| Comment(13) | TrackBack(3) | 欧州 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
☆ぅああ〜;ケン・ローチ監督シリーズに入ってしまわれているのですね〜・この作品も私まだ観てない〜壁に半年もチラシが飾ってあるというに(笑)★観たら読ませて頂きますー!。スイマセンのろくて^^;何だか今はギャスパー・ウリエルに嵌ってまして先日みた『かげろう』という映画が良くて良くて良くて・・^^;(宜しかったら今度ご覧になって下さいまし・官能的ででもせつなくて◎台詞が最高!!)『ブロークバックマウンテン』と一緒にDVD取寄せて浸ってたりしたのでなかなか他へテが回らなく。。^^;
Posted by フラン at 2007年05月15日 11:53
ケン・ローチに浸りたいんですがレンタルできるDVDが後1作しかないんですよー(しかもオムニバス)有名ベテラン監督なのにどういうことなんでしょー(-_-;)「SWEET SIXTEEN 」とこれを見れただけでも満足すべきということか。いやもっと観たいですー(>_<)欲求不満だー。

ギャスパー・ウリエルって「ハンニバル・ライジング」で今話題の方ですね。「ジェヴォーダンの獣」に出てたのかー、すみません、記憶が。でも「かげろう」面白そうですね。早速観てみますよー(でも人気でレンタルできる確率低いみたいです)


Posted by フェイユイ at 2007年05月15日 13:30
TBありがとう。
僕は第1話が好きでした。
男というのは本当にいくつになっても、すぐ妄想しちゃうんですね。老教授が、可愛らしい。
Posted by kimion20002000 at 2007年05月21日 11:26
こちらこそいつもありがとうございます。
このオムニバスはどれも面白かったです。自分的にはローチ監督ですが、第1話も可愛らしくて好きでした。教授の妄想は甘い夢のようですが、現実に戻った時、心無い兵士の行動に教授の反撃がうれしい映画でした。映画はこうであって欲しいですね。
Posted by フェイユイ at 2007年05月21日 15:51
フェイユイさん 今晩は。
TBありがとうございました。ご無沙汰しておりましたが、久々にコメントさせていただきます。
列車を舞台とした映画というとミステリーが出てくるというのはとてもよくわかります。僕も最初ヒッチコックの「バルカン超特急」を思い浮かべました。
第1話のミルクのエピソードは印象的でしたね。老教授の優しさがうれしくなるシーンでした。
第2話については、僕はフィリッポの視点で書きましたが、中年婦人の哀愁に着目したフェイユイさんの視点は新鮮でした。
そして第3話。あのラストは実に爽快でした。「いいぞ、逃げちまえ!」と声を上げたくなります。
ラストが爽快なのは、恐らくその前に僕らが彼らに共感してしまっているからです。取り返した切符を難民たちに返すかどうか彼らが悩む姿に共感したからだと思います。彼らは難民の女性の話を真剣に受け止めたのですね。真剣に受け止めたからこそ、本気で怒鳴り合った。
彼らはサッカーの試合を観る夢を捨てたわけじゃない。でも天秤のもう一方の側に彼女の話を置き、その二つの重さは比べるに値すると考えたのです。彼らは真剣に悩んだ。その姿に僕は深い感動を覚えました。
Posted by ゴブリン at 2007年05月22日 00:50
いえいえ、こちらこそいつも拝見するばかりですみません。毎日のように読ませてもらってはいるんですがつい無精で。「母たちの村」はゴブリンさんに教えてもらって初めて知りました。ありがとうございます。

第二話は見てるときは私もふてぶてしいオバサマにムカついていたんですが書き出したら違う感想になっていました(笑)
フィリッポはハンサムだし、オバサマも女性だし悲しくなってしまったんですよー、きっと。ひねくれた人だったんで素直に言えなかったんですね。優しくしたらしたで嫌がられそうだし。結構、哀愁ですよ、年取った女性というのも。1話の老教授はあんなに可愛かったのになあ(笑)

第3話は先日「SWEET SIXTEEN」観てたので余計に感動してしまったのも事実です。
お馬鹿3人組の騒々しいけど真剣な気持ち、短い話でこんなにうれしい気持ちにさせてくれるなんて。
今頃になってケン・ローチを知ったんですけど、この2つで他に比べることができないくらい好きな監督になりました。
Posted by フェイユイ at 2007年05月22日 15:38
今迄ありそうでなかった(と思う)一本の列車中で数名の監督それぞれにより描かれる人生模様。正に“人生とは旅である”というロードムービーですね。
第一話〜老教授、現実と空想の境がなくなっちゃうのネ^^〜車中では列車の揺れに身を任せながら窓外の流れていく風景−自分の来し方行く末みたいなもの−眺めつつボウと想像しますよね〜旅は。幸せな時間です。私なら想像の中で(マタ悪好きと云われますね^^;)教授の向いの恐そうな軍隊?のリーダーみたいな彼が気になる(爆)不気味ですねサングラスだしカーテンで顔隠すし〜でもこれイイ考えと思った(笑)男性って、いくつになっても女性には、自分の話すことを黙ってにこやかにただ聞いていて欲しいのだろうな〜とつくづくよくわかりましたです。
第二話〜フィリッポ役の彼♪love(笑)です^^;基本、淡青の瞳&茶のくちゃくちゃ髪頭に弱い私(笑)。それにしてもこのおババはどうしたことでしょう!驚天動地のジコチュー丸出し!怖いですねぇ・同じ女としてこうならないでおきましょうという見本ですねぇ・この彼女本当はフィリッポが大好きなのにサ・・そんなことにも気付けなくなっちゃっている悲しさ。もうもう只只太っちゃってバタバタと生きてて世の中全て憎たらしいし自分も嫌だし太ってるし(笑)着替えも出来ないし(いい男にエスコートして貰い、着替えまで手伝って貰っちゃって天国なのはアンタだろう)太った首に服は通らないし袋状態になっちゃってバタバタしてとうとうフィリッポは“地獄の方がましだ!”(爆)って逃げちゃうし〜爆笑!!笑いましたァ・・そしてやがて悲しき。最初は憎かったおババが最後は可愛く哀れに見える、監督流石です。。それにしてもフィリッポが素敵〜(笑)
すいません時間切れですので、しばし後に。。(長くてゴメンナサイね☆)
Posted by フラン at 2007年11月07日 08:33
第三話〜辿り着きました三人組にやっと!^^『麦の穂をゆらす風』『SWEET SIXTEEN』とみて来て。賑やかな三人組のエピソードにも社会派のケン・ローチ監督、しっかり難民という社会問題が主張されています。三人組と難民の彼女両者の、若いパワーがはじけていました。
太っちょ君(ガリー・メイトランド)もいい味出してたなぁ。台詞が可笑しかった「もし警察に捕まってさ・・警察にテレビあるか?」のくだりとか(笑)ウィリアム・ルアンは、デビューした時より何倍も存在感が増しいい役者に成長していてびっくり。まず前後しますが『麦の・』のゴーガン役でしたものねぇ。。そしてマーチン・コムストン。『SWEET・』時はまだ子供の面影残ししかし何とも瑞々しい魅力に溢れた16歳位?が4年後には・・スイマセン私の感覚ではフツウノコになっちゃった(涙)お顔がああいう可愛い子は変わってしまうのですよね。レオと一緒。多分この時期は彼にとって中途半端な時期なのでしょう。勿論いい役者です。只残念ながら隣のルアンの存在感の大きさに、完全に『SWEET・』の時とは立場が逆転していましたね。男の子って成長期だしこれからもどんどん変わるでしょうね。それこそ一作ごとに。これからどんな、今度は青年になっていくのか、非常に楽しみな三人ではあります^^

最後、各エピの人物がローマ駅で降り立つ様子が映る。いっとき時間を共にした人々ともここでお別れ。またそれぞれの向う方向へ散っていく。列車という設定がユニークでした。
フェイユイさんはロードムービーがお好きとのこと。今回ケン・ローチの“社会派”というアプローチと“ロードムービー”という二つから連想した映画作家がいます。山田洋次です。私は現代の日本映画界では彼が一番好きです(ごく最近の作品は観ていないので少々説得力に欠けますが^^;)。特に『家族』は、昔の作品ですがロードムービーの白眉と思っています。寅さんシリーズも当然ロードムービーですしね。。^^
Posted by フラン at 2007年11月07日 17:11
2話目のオバサマ、観てる時は頭にくるんだけど同じ女どんどん年取って男に見向きもされなくなる悲しさよ。感想書いてたらなんだか悲しくなってしまいましたー(笑)
 
ローチ監督の三人組最高でした。コムストン君、今回はルアン君にいいとこ持っていかれてましたねー。この3人がまたずっと年取って・・・なんてローチ監督がご健在だったら撮って欲しいです^^;

ロードムービー、若い時はあまり好きでもなかったような気がするんですよ。なんだかしまりがなくてだらだら走っていくだけじゃん、みたいな(笑)
でも今の環境がどこにも行けない状況なので映画で観るだけで涙出そうになります。ガス・ヴァン・サントなんかツボなんですよー。旅ってほどでもないけど移動シーンが素敵だ。あの人のはウィルが電車乗ってるだけのでもなんだかうるうるしてしまって。

お勧めの『家族』是非観たいです!寅さんは確かにロードムービーですねー。若い時は観てなかったけど最近TVでちらと観てるとやっぱりいいなーとか(笑)年取った証拠ですわー。
Posted by フェイユイ at 2007年11月07日 23:12
山田洋次とか一見日本のダサダサで、若い頃の私は抵抗が最初はあったのですが、一旦観ると・・これがいいんですよ。年には関係なくいいものはいいのだと。^^
山田洋次の作品に駄作はありません。若い頃に寅さんシリーズほとんど観ました;もともと古い映画にあまり抵抗がないので。
山田洋次は底辺に徹底して「庶民の立場からの視点」があります。そこがケン・ローチと一緒だなと思うのです。
Posted by フラン at 2007年11月08日 08:24
早速借りたいと思ってDISCAS覗いたら判ってはいたけどもの凄い作品数で(笑)
『幸福の黄色いハンカチ』もそうですし他にもそんな感じの映画が多い監督なんですねー。
監督ではないですが山田洋次・橋本忍脚本で『砂の器』もありましたねー。これも大好きなロードムービーの一つです。
Posted by フェイユイ at 2007年11月08日 12:34
連投スイマセン☆おおー;;山田洋次は脚本も書くから尚に素晴らしいのです。『砂の器』は橋本忍という世紀の脚本家だったのは覚えていますが山田洋次もだったのですね〜凄いはずだ!(失念していて悔しい)
『砂の器』は映画題名見るだけで滂沱(T_T)。それ位名作;監督の野村芳太郎の演出も前出の脚本も原作もキャストもそして大好きだった芥川也寸志さんのあの音楽も!!!・・その他全てに素晴らしい作品ですよね。・・つい興奮してしまいました^^;
山田洋次の作品群の中では『家族』『故郷』『同胞』が確か三部作として位置づけられています。寅さんシリーズも全て名作。山田監督の作品に対する姿勢はいつも同じですからね。中でも特に私の愛する作品は・・全部好きですが・・『家族』『遥かなる山の呼び声』『息子』辺りはおオススメとしてあえて上げさせて頂きますが(勝手にお薦めしてます)。^^;もうお分かりでしょうが私は山田洋次を深く敬愛しているのです。。^^
Posted by フラン at 2007年11月08日 14:05
『砂の器』はなにかにつけ思い出してしまうんですよ。悲しいけどあの父子の愛情は他のどの映画より深く暖かいものを感じさせてくれました。思い出すだけで涙が。

山田洋次作品は(寅さんを除けば)殆ど観ていないという感じなのでフランさんのお薦めを参考にこれから少しずつ観ていこうかと思います。
Posted by フェイユイ at 2007年11月08日 17:23
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック

mini review 07047「明日へのチケット」★★★★★★★★☆☆
Excerpt: カテゴリ : ドラマ 製作年 : 2004年 製作国 : イタリア=イギリス 時間 : 110分 公開日 : 2006-10-28〜2006-12-22 監督 :..
Weblog: サーカスな日々
Tracked: 2007-05-21 11:22

明日へのチケット
Excerpt: 2004年 イギリス・イタリア 2006年10月公開 評価:★★★★☆ 監督:エ
Weblog: 銀の森のゴブリン
Tracked: 2007-05-22 00:15

旅は道連れ、世は情け〜『明日へのチケット』
Excerpt:  TICKETS  カンヌ映画祭でパルムドール受賞経験のある三人の巨匠による、オムニバスでな く「共同演出」という形の長編。オーストリア・インスブルックからミラノを経てローマ に終着..
Weblog: 真紅のthinkingdays
Tracked: 2007-06-05 17:57
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。