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2007年05月18日

「ミュンヘン」スティーブン・スピルバーグ

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イスラエルとパレスチナを公平に描いている、ということを聞いて観たのだが、当然の如くイスラエル側の物語であった。
なのに観客に公平な見方をしていると思わせるのは監督の巧妙な手法なのであろうか。
物語は、ミュンヘン・オリンピックでのパレスチナ人テロリスト「黒い九月」によるイスラエル選手団11人殺害、というのが発端となる。よってイスラエル人のやむにやまれぬパレスチナ・テロリストへの報復、という運びになるわけで何も知らなければうなづいてしまいそうだ。だがユダヤ人がパレスチナに入植していった上イスラエルを建国してしまった、という事実はここで判り易く説明されてはいない。冒頭、パレスチナ人テロリストが何の罪もないイスラエル選手達が殺されまた人質にとられる。そのやり方はいきなり頬に穴を開けてしまうなどいかにも残虐で非道なものである(テロは非道に決まってるが)この残虐さを見ればその後の主人公たちの報復はやむを得ないものとして納得させられてしまうのだ。
パレスチナ人たちは英語を話さない異国の者たちで個々の人格がないのだが報復をしていく主人公たちは英語で会話しそれぞれのキャラクターがある。主人公アブナーには妻子がいてよき夫であり生まれたばかりの赤ん坊を愛している。料理もうまく仲間達に手料理を作って振舞う。楽しげに会食する暗殺者たちは家庭的にすら見える。

一体どうしてこんな事が起きたのか、という詳しい説明はなくかなり駆け足で物語の導入部が描かれる。私などは何がどう起きたのかよく判らないほどだった。
とにかくパレスチナ人がオリンピックに出場する未来ある若者を殺したのだ、残酷に。

ここから突然物語は面白くなってしまう。人を殺したこともない善良なアブナーをリーダーに才能あるユダヤ人が集まり祖国の為に暗殺者チームが結成されるのだ。そのために莫大な資金も提供される。
ヨーロッパを巡りながらパレスチナテロリストを暗殺していく面白さはさすがヒットメーカーの手腕である。持ち味であるコミカルさも加えられ、子供に対する心配りも忘れない。可愛い女の子をばらばらにするのは良心が痛む。
あんまり面白くなりすぎたのか、後半、仲間達が次々と死に暗殺に対する反省が促される。主人公アブナーは狂気に陥るほど苦しむ。仲間を死なせた悲しみ、本当に自分たちが暗殺したのは本人なのか、それは罪ではないのか。
「プライベート・ライアン」でも主人公たちがドイツ軍を殺していく様子が小気味いいほどに描かれていたことに嫌悪感があったのだが、ここでもスピルバーグは暗殺を面白く描いてしまう。
だがそこですかさず主人公の行為への疑問と苦悩を挿入することでバランスをとっていく。
そして最後、度重なる暗殺と仲間の死と失敗の無念の後、アブナーは疲弊しきっている。不安定な精神で妻を抱く。
一方的な性行為のシーンとパレスチナ人によるイスラエル人虐殺のシーンが交互に映し出される。この場面はこれ以上ないほど気持ち悪く、アブナーの表情は醜悪とさえ言える。
このパレスチナの残虐さとアブナーの苦悩を見て再度暗殺がやむを得なかったのだと確認される。
そしてさらにその後アブナーは上官に対し、暗殺の無意味さを訴え、イスラエルへの帰国を拒否する。
結局スピルバーグは面白い活劇を作り、イスラエルに偏りながら、パレスチナにも公平な態度をとったと言われ、自分はアメリカに居るのだと言うことを描いているのだろうか。ただすべての思惑がうまく行ったわけではなく、やはりそこまで欲張りに成功するのは難しいのだろう。結果、なにか煮え切らない、何かを隠しているような、映画に仕上がってしまったのだろう。
同時多発テロで破壊された世界貿易センタービルがラストの場面でCGにより再現されているのもなぜか不気味である。

ところでこの映画を何故観たのか、というとそれは暗殺者チームの一人をダニエル・クレイグが演じていたからなのである。
「プライベート・ライアン」でマット・デイモンがライアンを演じていた為仕方なく観てしまいしかもその姿が魅力的であったので却ってめげたのだが、ここでのクレイグもまた壮絶に色っぽくて参ってしまった。
スピルバーグなので特になにやらクレイグがやらかすわけでもないがちょっと耳打ちしたりする仕草など妙に色っぽさが滲み出る人なのだった。最初の仕事の成功で仲間とダンスするところなどスピルバーグと来たらちらとしか映してくれないんで頭に来たが、結構出番は多いし、最後まで相棒役を続けるので彼目的に観る価値はある。青い目のアップもあり。

もう一つ面白かったのは敵かみかたか謎のフランス人情報屋ルイとパパの存在。すべてのパレスチナテロリスト探しを彼らに任せているのだが、一体何者なのか、不思議な家族であった。
家族の中にこの前「明日へのチケット」の最初の彼女の顔が見えてうれしかった。

なんだったのか、の存在は女殺し屋。男ばかり登場する映画には一人お色気役としての女性が登場するものだが(アブナーの奥様は清楚であるべきなのでこの役は除外)全くもってそのために登場としか見えない。暗殺集団が人間性を失っていく証明としてという言い訳も成り立つがその役にセクシー女殺し屋を使い残酷に殺す。この辺も娯楽作品ならでは、ということなのか。スピルバーグさすが配慮が細かいのである。

監督:スティーブン・スピルバーグ 出演:エリック・バナ、ダニエル・クレイグ、マチュー・カソヴィッツ、キーラン・ハインズ
2005年アメリカ


posted by フェイユイ at 23:43| Comment(0) | TrackBack(0) | ダニエル・クレイグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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