映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2007年08月06日

「上海の伯爵夫人」ジェームズ・アイヴォリー

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悲しい話なのにどこか懐かしく昔を思い出しているようなそんな過ぎ去った日々への憧憬が描き出されているような作品だった。

1936年上海。中国の大都会・上海には様々な国の租界が存在し、様々な国の人々がいた。
外交官、国を追われて来た者たち。かつては栄華を味わったロシア貴族が落ちぶれ、中国人の下でこき使われることもある。
ロシア伯爵家一族は町の片隅の小さな家に身を寄せていた。主がいないその貴族一家は食い扶持を稼ぐ能力もなく、亡くなった主の妻ソフィアがクラブで働くことでなんとか生計をたてている。だが主の妹はそんなソフィアに冷たくあたるのであった。
ソフィアにはまだ幼い娘がいて母娘は強く愛し合っているのだが義妹は何かと二人を引き離そうとするのだった。

今はクラブで働くしかない没落した美しいロシア伯爵夫人。それ自体が夢物語のようであるし、1930年代の魔都・上海のイメージにふさわしい妖しい魅力を持つ。ソフィアを演じるナターシャ・リチャードソンが硬質な高貴さ秘めた美貌のためによりその悲劇は高まる。
そしてソフィアと盲目の元・外交官ジャクソンの出会いがある。

かつては青年の憧れの存在でさえあったアメリカ人外交官のジャクソンはある時目が見えなくなったのだが、そのことを語ろうとしない。
そんな彼が、ふと出会った日本人青年に打ち明ける。
「この上海に自分の夢のクラブを作りたい」と。

そしてソフィアの悲劇性に惹かれたジャクソンは店の名前も「白い伯爵夫人」と名づけソフィアに働いてくれるよう頼むのだった。

正体不明の謎の青年・松田はジャクソンの夢に加担していく。
ジャクソンの選んだ店作り、選んだ用心棒、選んだ女達、だが何か足りない。何が。松田の問いかけへのジャクソンの答えは「政治的な緊張感」驚いた松田だったが彼はジャクソンのために中国共産党員、国民党、そして他国の兵士たち、などをかき集めて店へと誘った。
「白い伯爵夫人」はジャクソンの夢どおりになったのだ。

とても不思議な夢である。ジャクソンの思い描くクラブそのものがあり得ないような夢物語であるようだ。
ソフィアを理想の女性として選ぶ理由も悲劇性がある、というのが奇妙でもある。ならばジャクソンはソフィアに出会い、彼女を愛し彼女を悲劇から救おうとしたのではなく、まず夢の女性の姿がありその人は悲劇的でなければいけなかった。それに叶った女性がソフィアだったことになる。

そしてもう一つの符合が幼い少女。亡くしてしまった自分の娘こそがジャクソンの灯火なのであり、彼女を失った時、ジャクソンは目が見えなくなってしまったのだ。
娘の代わりのように現れた少女がジャクソンの手を引くのを彼は許す。他の人が彼の手を引くのを極端に嫌っていたのに。
彼女が彼の新しい光となったのだ。

ジャクソンが夢のクラブに置こうと思った理想の女性と彼が思い描いた店(政治的緊張感のある店)はやはり儚い夢でしかなかった。
ジャクソンが夢を語れる友人と思っていた日本人青年・松田は日本軍が進出していく為の重要な仕事をしている男だったのだ。
ジャクソンは失望する。
無情なロシア貴族一家がソフィアと娘を引き離して香港へ逃亡するのを知ったジャクソンはソフィアに同情していたユダヤ人の助けを借りて追いかける。
あわやというところで娘を奪い返し、ジャクソンとソフィアは再会。ユダヤ人の親切な誘いに乗り3人は共にマカオへと船で向かう。

まだ彼らが安住の地を見つけたわけではないのだが、目の見えないジャクソンと何の身よりもないソフィア母娘が互いに支えあって生きていこうと誓い合う。
小さな船は絶え間ない爆撃を受け3人がこれからの不安を表しているようだ。
何もかもが混沌とした魔都・上海に酔いしれ、時代の波に翻弄される力なき人間の悲劇に涙する。
まさにこの時代のロマンを堪能させてくれる物語である。
ジャクソン=レイフ・ファインズ、ソフィア=ナターシャ・リチャードソンも素晴らしいがマツダ役の真田広之がなかなかに決まっていたと思う。私は彼が日本の映画に出てる時は全くいいと思ってなかったのだが、「プロミス」など外国の映画に出ると非常によく見える。年齢のせいもあるのかもしれないが。
上海を舞台にして日本人がこのような役をやるのは実際勇気のいることだと思う。ましてその地でプレミアがある時など。
日本人である彼がこの役をやってくれて本当によかったと思う。

本作の監督・脚本は名作「日の名残り」での名コンビとなる。且つ撮影がクリストファー・ドイルである。
彼らが描く夢の時代に暫し酔いしれた。

監督:ジェームズ・アイヴォリー 製作:イスマイル・マーチャント (遺作となる)脚本:カズオ・イシグロ 撮影:クリストファー・ドイル 出演:レイフ・ファインズ ナターシャ・リチャードソン バネッサ・レッドグレーブ 真田広之 リン・レッドグレーヴ
2005年 イギリス/アメリカ/ドイツ/中国

とにかくこの時代の物語が好きなのである。特にその舞台が上海となった日には。
あんまり好きすぎて勢いイメージが先行してしまうのだが、落ち着いた作品で見ごたえあった。
この時代で中国を舞台にした中国人、西洋人、日本人(←これが嫌な奴だけだとイヤだが今回のようにちょっとかっこいいとね)が出てくる映画を観たい、という願望がいつもある。


posted by フェイユイ at 22:16| Comment(3) | TrackBack(1) | 欧州 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
フェイユイさま、こんにちは。
少女に手を引かれるまで、ジャクソンは誰にも手を預けようとしなかった、というのはまさしくその通りですね。
真田さん、とても頑張っていたと思います。これからも頑張って欲しいですね。
『恋愛睡眠のすすめ』も早速ご覧になったのですね〜、TBさせていただきました!
ではでは。
Posted by 真紅 at 2007年10月08日 22:38
いつもありがとうございます。しっとりとした良い映画でした。
中国を舞台にした人種が混沌とした物語というのは強く惹き付けられます。カズオ・イシグロの物語は素晴らしいですね。是非他の作品も映画にして欲しいと願ってます。
真田氏、以前は好きでなかったのですが、国際的になってから凄くかっこよく見えます(笑)かっこいい日本人、という役が合ってますねー。
『恋愛睡眠のすすめ』可愛かったです。
TBありがとうございます。
Posted by フェイユイ at 2007年10月08日 23:40
コメント、ご丁寧にありがとうございます!娘さんと一緒に写真を撮っていただいて、光栄でした。レポートもご覧になっていただいて、感謝しております!ご家族に、よろしくお伝えいただけませんか。
Posted by 板野友美 妹 at 2013年06月13日 15:57
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Weblog: 真紅のthinkingdays
Tracked: 2007-10-08 22:24
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