映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2007年09月02日

『ヴェラ・ドレイク』マイク・リー

FEhCN.jpg

ヴェラ・ドレイクはいつの世にもいた人なんだろう。社会的にどうでも女性にとって必要な人。でも男性はどう思うのか。なぜかその答えはいつも曖昧のようである。

ヴェラは幸せになれる人なんだろうか。
自らは優しい夫と二人の子供を持ついい母親で幾つかの家の下働きをして収入を得ている。いつも明るく振舞って、気難しい年老いた母や近所の病人にも心配りをする働き者で善意の人、ヴェラ・ブレイク。
どこかで覚えた素人の堕胎術で20数年もの間「困った女性」を助け続けてきたヴェラ・ブレイク。
ただの一度もその報酬を受け取る事はなしに女性達を助けるために法を犯し続けてきた。そのてきぱきとした処置の仕方や「困った女性」への対応にはまったく戸惑いは見えないが、ヴェラがその行為を正当化していたわけではないことは警察が逮捕に来た時の彼女の言動から伺える。ヴェラは素人が行う堕胎を有罪だと認めながらも「困った女性」がいると知れば見過ごしておけなかったのだ。20数年もの間、無報酬で。
そして逮捕され幸せな家庭を失ってしまった。一体何のために。

ヴェラは正しいのか、正しくないのか。
望まない妊娠をした女性にとって法的にまたは経済的に堕胎手術が受けられないなら誰かに頼らざるを得なくなる。
妊娠というのは女性だけでできることではないのに、堕胎は女性が行わなければならない。
堕胎が様々な理由で公的にできないなら古今東西ヴェラ・ドレイクは必要なはずだ。現にそうであったろうしこれからもそうであろう。
正しいのか、正しくないのか(黒か白か)ではなく必要なのだ。

「妊娠・出産・育児という女性の問題について」などと言われたりする。しかしそれは男性があってしかあり得ないこと。なぜそれが「女性の問題」なのか。
という疑問は所詮大人気ない非常識な屁理屈なのであろうか。 

ましてやそれが堕胎ということになると男はそんなことに関係した事はないかのごとく存在を消してしまう。
理由は様々あるだろうが映画の中では特に堕胎は女だけの苦しみとなって表現されてしまう。

医学的に堕胎が可能であっても宗教・思想・文化が嫌悪感・罪悪感を生み出す。
妊娠・出産は祝福された結婚から生み出されたものであることが望ましいという考えは地球上の多くの地域でなされているものだろうが実際にそれだけではないことは皆が知ってる事実なのに必然として行われる堕胎は闇の中の行為となる。
そうでなくなるためには宗教・思想・文化が変化し「困った女性」は経済的理由で悩むこともなく堕胎できるように体制が整わなければいけない。そうでなければヴェラ・ブレイクは存在するはずだ、どうしても(しかも彼女のように“いい人”であるならまだしもだ)
だがこうして書いているだけでも堕胎を奨励するのかというそしりを受けそうである。
もう一つの道は妊娠した場合万全に出産できその子供が養育できる環境ができることだ(それに近い国もあるかもしれないがまだ近未来小説での社会にしか思えない)
望まない出産のために母親・子供はどういう生き方をするのか。誰かが責任をとってくれるわけではない。

ヴェラ・ドレイクの物語から離れすぎてしまった。
ヴェラは平凡でさほどの学歴もない中年女性だが持ち前の気さくさと人から必要とされると断れない性格も手伝って割に合わない手助けを引き受けてしまう。その結果、家庭は崩壊し未来は予想もつかない。
2年半の禁固刑を言い渡されたヴェラは刑務所内で同じように堕胎手術を施して捕まった女性達に出会う。彼女らは再犯でヴェラ以上の罰を受けるのだ。それまで泣きはらしていたヴェラは心に何を思ったのか。
ヴェラが出所してまた「困った女性」に頼まれた時、彼女は断ることができるのか。再犯の女性達と同じ道を歩んでしまうのではないか。
看守から「足元に気をつけて」と言われながら危うい階段を上っていくヴェラの後姿はその後の彼女を暗示しているかのようである。
沈鬱に集まり言葉もない他の家族達の様子もその未来が単純に明るいものではないように思える。


ヴェラ役のイメルダ・スタウントンは言葉を発さないまま感情を表現していく。犯行の理由と過去を問われ涙を流すだけで何も言えないヴェラには話したくない重い過去があるのかもしれない。
彼女が大切なのは家族なのに「困った女性」も見捨てきれないでいる。他から見れば報酬もないのだから(私なんかそこにこだわる)やめればいいのに、と思うのだが。
友人面をしてちゃっかり代金を横取りしていた女性こそ腹立たしい。あちらは何の罪もないのか。不満である。
秘密にしておかなくてはいけないのに自分への罰をおそれヴェラの名を口に出してしまう女性を見てると完全な秘密とはあり得ないと判る。

この映画では細かい説明というものが省略されていて観客が疑問に思う点も幾つかあるようだが、本当のところヴェラの堕胎術というのはどのくらいの成功率だったんだろう。精神的ケアや2度目の診察などがないのは無報酬だから(こだわる)当然だろうが処置を受けた女性達のその後が描かれてない、もしくは説明もなかったので他にも何らかの被害を受けた例はなかったんだろうか。それを暴こうとしている映画ではないので省かれているのだが、石鹸水堕胎がどのような結果になるのか、知りたくもある。

監督:マイク・リー 出演:イメルダ・スタウントン フィル・デイビス ジム・ブロードベント ピーター・ワイト ヘザー・クラニー ダニエル・メイズ アレックス・ケリー
2004年イギリス/フランス/ニュージーランド

追記:望まない妊娠、悲しい言葉である。そこにはすでに生命の誕生が隠されているのにその子供は望まれていないのだ。
一体幾たびそういう思いが抱かれ、悲しい運命が待ち構えているのか。それが生まれないにしても生まれるにしても。
堕胎が全く必要ない社会ということがありうるのだろうか。すべての命が祝福されて迎えられるわけではない。そして男女の営みはすべてがすべての納得の上で行われるわけではない。
どうしても望まれる妊娠のみを求めるなら男女とも精子・卵子を採取保存した上で互いに子供を生まない体(つまり去勢)そして医学的に望む子供だけを生むのだ。
そういう社会を望む日がくるのだろうか。今の感覚で言えば寂しい気がする。
その場合は多分逆のヴェラ・ドレイクが出てくるのだろうが。


ラベル:イギリス映画
posted by フェイユイ at 21:14| Comment(0) | TrackBack(3) | 欧州 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック

法で裁けない罪〜『ヴェラ・ドレイク』
Excerpt:  VERA DRAKE  第二次大戦の記憶もまだ生々しい1950年の英国。夫と二人の子を持ち、家政婦 として働きながら困っている人々を助けずにはいられない一人の労働者階級の主婦、 ..
Weblog: 真紅のthinkingdays
Tracked: 2007-09-03 05:51

[2004] ソーヴィニヨン・ブラン(マールボ
Excerpt: 期待していなかったので飲んでびっくり。味に深みもありレベルは高い。最初は微発泡が結構強くてびっくり。ニュージーランドのソーヴィニョン・ブランは苦手なのですが、その中では飲みやすいほうでした。あまり冷や..
Weblog: ニュージーランドへの思い
Tracked: 2007-09-06 12:10

映画DVD「ヴェラ・ドレイク」
Excerpt: 2004年 イギリス、フランス、ニュージーランド 監督:マイク・リー 主演:イメルダ・スタウントン ヴェネチア国際映画祭 金獅子賞、女優賞受賞作品   ..
Weblog: 映画DVDがそこにある。
Tracked: 2007-09-20 17:57
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。