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2007年10月01日

『長州ファイブ』五十嵐匠

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思いもかけず、血が沸き立ち興奮してくるような作品だった。黒船来航により突如として西洋の存在を突きつけられ、鎖国時代からいきなり文明開化に突進していった当時の日本人は時に滑稽でもあり時にその熱い情熱に打たれてしまう。
幕府の禁を破れば死罪だと言われてもなお敵国英国への渡航を望んだのは何かを知りたい、前進したいという若者たちの志は眩しくて恥ずかしいほどである。
世界と戦うにはまず技術を会得しなければいけないと命がけで海を渡った彼らだが得たものはそれだけではなかったことを知った。

『Choshu Five』というのは実際当時の英国新聞で彼らのことを呼んだ言葉だということらしい。
井上聞多(馨)、遠藤謹助、山尾庸三、伊藤俊輔(博文)、野村弥吉(井上勝)ら5人である。
知名度が高いのは井上馨、伊藤博文だろうが本作の主人公はあまり知られていないだろう(私は知らなかった)山尾庸三である。
彼のリンとした態度、高い志に心打たれる。

尊皇攘夷を掲げた当時の長州藩の若き侍たちの中には闇雲に外国人の建物の焼き討ちなどに奔走することに疑問を持つ者たちがいた。
その中の一人井上聞多(ぶんた)は藩から英国への渡航を許され4人の有志と共に「生きたる機械」になって帰ってくることを誓うのだった。

莫大な渡航費・滞在費一人当たり千両(といわれてもピンと来ないが)を融通してくれる人を見つけたり5人の中に英語を話せる者(野村弥吉)がいたり、結構調子よくいった部分もあるが密航であるため物として運ばれたり、侮蔑される言葉で呼ばれたり、実際はもっと大変だったには違いない。
観ていてほっとしたのは5人が5人とも真剣に技術や知識を学んで帰り、落伍者がいなかった点でありこれが実際の話でなくて創作なら一人くらい堕落した者を作りそうである。
彼らはそれぞれ「井上(馨)は外交の、遠藤は造幣の、山尾は工学の、伊藤は内閣の、井上(勝)は鉄道の、それぞれ「父」とされている」ということで随分有意義な留学だったものだと感心せずにはいられないが、命がけであり、高額な出資をしてくれた方への恩義というものが強かったとも思えるが、それ以上に彼らが高い文明に対しての憧れとそれをモノにしたい願望の強さ、本当に日本をいい国にしたいという純粋な気持ちがあったからなのではなかろうか。
武士の魂である髷を切り「侍」である事を捨てよう、といった山尾の言葉に他の4人が戦慄を覚える。
彼らはここで藩士であることをやめ、日本人として旅立っていったのだろう。

聞多と俊輔は勉学途中で「長州藩が英国艦隊を攻撃」という新聞記事を読み急ぎ日本に帰り攘夷を止めるよう働く。
残った3人は勉強を続けるが造幣に興味をもった遠藤は体を壊して帰国(彼は死ぬのか、と心配したがちゃんと明治維新後、造幣局長となり有名な大阪造幣局「桜の通り抜け」を発案した人と知って安堵)
さらに2人は残って勉学を続ける。
酒飲みの野村弥吉(井上勝)は鉄道の発展を、山尾庸三はグラスゴーで造船技術を学び、人間の育成こそが大切だと知り、後の東京大学工学部の前身となる工学寮を創立する。だが山尾の素晴らしさはもう一つあった。
グラスゴーの造船工場で聾唖の女性と知り合い、イギリスには手話というものがあることを知るのだ。
いつも明るいその女性エミリーに惹かれた山尾は手話を学ぶ。そして帰国後、日本初の盲聾学校を設立したのだ。
エミリーという女性とのエピソードは監督の創作らしいのだが、初めて技術を学びに渡航した若者が障害者のための学校を作ったということに驚いた。本当にこのような出会いがあったのかもしれない。
また暴漢に襲われたエミリーを助けようと落ちていた棒を剣に見立てて撃退した場面は定番とは言えぞくぞくとしてしまった。

実在の人物をドキュメンタリーのようなタッチで生真面目に撮った映画である。
日本開国以前、世界を見ようとする若者達の噴出するのを抑えきれない情熱を見せ付けられこちらまでどきどきと動悸を感じてしまう。
英国でホームステイすることになった家の婦人に写真館に連れていかれまるで西洋人のようにポーズをつけて撮られている写真が彼らの夢を表しているかのように見えてくる。

監督が『地雷を踏んだらサヨウナラ』を撮った方だと後で知ってさらに感激。
また好きな映画監督にアラン・パーカー好きな作品に『バーディ』を挙げられていたのでさらに動揺した。
まったく監督の名前を覚えようともしないのだから自分自身にあきれるしかない。
ところが五十嵐匠監督作品というのはレンタルできるものがないのだ。ため息をつくしかない。

監督:五十嵐匠 出演:松田龍平 山下徹大 北村有起哉 三浦アキフミ 前田倫良

ところで今まで「あまり好きな顔でないし」と言い続けてきた松田龍平。ここまで観て来たらもうファンじゃないとは言えない。
特に(と今までも何度も言ってるような)本作の龍平氏は抜群にかっこいい。惚れてしまう。
若手俳優、というか年のいった日本人役者でも自分がこうも何作も観てる人はいないし、殆どが酷く面白いのだ。参った。
こうなったらとことん観ていこうか。しかし若い割には作品数多いのだ彼。





ラベル:歴史 松田龍平
posted by フェイユイ at 22:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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