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2007年10月15日

『地雷を踏んだらサヨウナラ』五十嵐匠

サヨウナラ.jpg

この映画の批評をする時、まず「何故“必要もない”のに他国の戦争の中に入り込むようなことをするのか?」という疑問が先に立ってしまうのではないか。
私自身かつて多くのジャーナリスト・カメラマンの行動を聞くたびに不思議に思わないわけではなかった。どうして命がけで報道をし写真を撮らなければいけないのか。
だが時を経て世界各地の出来事を知り、映像を見、映画として作られたものを観るごとに自分の中ではそうした人々の仕事により多くのことを知り考えていくことができるのだということがわかってきた。他の人に説明できるほどではないにせよ。

本作の主人公である一ノ瀬泰造はもしかしたらジャーナリストとしてはそれほど後世に残る仕事をしたわけではないのかもしれない。
したがって映画においても彼が偉業を達成したということを謳っているわけではないから観た者はまた「何故彼の行動を映画にする必要があったのか?」という疑問を抱いてしまうのかもしれない。「さして何か偉いことをしたわけでもないのに」と。
そしてここにはまだごく若い青年が何の保障も手がかりもないままにひたすら「アンコールワット」をカメラに収めたいという激しい情熱だけが映し出されている。親も愛してくれる女性も置き去りにして命を犠牲にして走り出してしまった無謀と言っていい青年の姿が。
目的はたった一枚の写真を撮るということだけなのに。
その想いをどう受け止めていくのか。それなしにはこの作品を観ていくことができないのである。

実は一ノ瀬泰造には色々な思いがある。彼の事が最初話題となった当時(私の記憶の中だけでの話しなのでどこまで真実かわからないが)といっても彼よりピュリッツァ賞を取った沢田教一氏の方が有名であったと思う。だが私は若くして命を落としたカメラマン一ノ瀬泰造に興味を持ったことは確かだった。但し若い頃の私は戦争報道写真などは怖ろしくてとても見ることができなかった。今思うとなんという残念なことをしたのだろうか、と悔やまれてならない。
今でも大した知識はないがその頃は戦争というだけで慄いてしまい、それらを写した写真や話を知る事が怖くてできなかったのだ。それからもう20年以上経ってしまったわけだ。何も知ろうとしなかった自分が情けない。

この映画の中で一ノ瀬泰造を浅野忠信が演じている。まだ非常に若く精悍で魅力的だ。
写真で見ると彼らはよく似ている。浅野氏自身そう言っていた記憶がある。泰造氏の母上は映画を観て「たいちゃんがいる」と言われたそうできっとそうなのだろうと感じた。
また泰造が亡くなったと言われる1973年11月に浅野が生まれている。不思議な縁があるのかもしれない。
泰造になった浅野は他の映画では見られないほど活動的で強い情熱を感じる。話し言葉も特に日本語の時は自然な話し方をする。

何も頼る者がないフリーカメラマンの泰造だが不思議なほど色々な人々に助けられている。それも彼の魅力の一つだったのだろう。そういったことを疑問に思う人もいるが何かをやり遂げようと思っている人は誰かの助けがなければそこへ到達する事はできないのだ。ヒーローには(この呼び方も考えてしまうが)必ず助けてくれる人が現れるものなのである。
特に強い友情を示してくれるロックルーは命がけで泰造を守ろうとしてくれる。

どんな苦境にたってもあっけらかんとしている泰造がもう少しでアンコールワットへたどり着く、という時クメール・ルージュの兵士たちに捕まりカメラを取られてしまう。
隙をついて逃げ出した泰造はついにアンコールワットの前に立つがその手にはカメラがない。「カメラが、カメラが」とつぶやく泰造が悲しい。彼はそれを写真に撮ることだけが目的だったのだから。

一ノ瀬泰造はそうして念願をかなえることはなく行方不明となり1982年に両親により死を確認されその遺骨の一部はアンコールワット内のガジュマルの根元に埋められているという。
この映画で報道カメラマンというものが他人には理解できないほどの強い力に引き寄せられていくことを見ることができた。
一ノ瀬泰造というカメラマンの魅力とそれを演じた浅野忠信の素晴らしさを感じた。

監督:五十嵐匠 出演:浅野忠信
1999年日本

先日、ビルマでジャーナリスト長井健司さんが亡くなられた。その様子は多くの人が見たことだろう。
日本人でそれまであまり興味を持たなかった人々もあの映像に強い衝撃を覚えたはずだ。
彼が死んでも離さなかったビデオカメラはまだ返されていないようである。その為に彼は命をかけたはずなのに、無念だろう。
今はただ氏の冥福を祈りたい。

もう一つ一ノ瀬泰造に惹かれたのは彼の出身地である佐賀県武雄が私の祖父母の町でもあるからだ。
やはり嬉しい。


ラベル:戦争
posted by フェイユイ at 00:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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