映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2007年11月08日

『ゴッド and モンスター』ビル・コンドン

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GODS AND MONSTERS

この作品だけを観た人がすべてを理解するのは無理があるのではないだろうか(別にそうであってもかまわないのだろうが)
これはどうしても本作の主人公ジェームズ・ホエール監督が作り上げた『フランケンシュタインの花嫁』を観てから観るべき映画なのかもしれない。

というのはこの映画のホエール氏と青年はまさに『花嫁』の中の隠者と怪物の写し絵であるからだ。
この二人の関係は撮り方としては逆の視線になっているのだが『フランケンシュタインの花嫁』での怪物と隠者の出会いを思い起こさせる。
無論ブレンダン・フレイザーが演じるクレイは醜い怪物どころか大変美しい若者なのだがその大きな体と筋肉は怪物のシルエットを思い起こさせる。
彼はかつて父親に疎まれた苦い思い出を抱えている。そして恋人と思っていた女性に嫌われ、孤独感に苛まれていた時期でもあった。
まさに隠者のように世間とのつながりを切って暮らしているホエールとの出会いはクレイにとって父親に認められたような女性に代わってその美しさを讃えられたような不思議な安堵感を与えてくれたのかもしれない。
『花嫁』の場面を彷彿とさせるかのようにホエール氏とクレイが葉巻をくゆらす場面がある。
それは火(ここでは“ゲイ”ということだろうか)を怖がる怪物と隠者の心が通い合った瞬間でもあった。

クレイが最後怪物の真似をするのも彼がその役を演じていたのだという暗喩であろう。

この物語にはホエール、クレイともう一人ホエールが愛していた戦友の思い出が深く刻まれている。
残虐だった第一次大戦の怖ろしい記憶がホエールを苦しめる。そして労働者階級出身であることのイギリス人としての辛い思い出。年老いたホエールにはそれらの思い出が現在のことより強烈に蘇ってくる。
ホエールは思い出の中だけで生きているようだ。

ホエールが才能が枯渇したことに嘆く姿を見たクレイは彼が求めていた裸体になり絵を描くよう促す。
その逞しい体を見たホエールはクレイに怪物になって欲しいと願う。「怪物となって自分を殺してくれ」と。
クレイは拒絶し自分はホエールが作ったモンスターではないと泣く。
クレイは怪物ではなくまたホエールは隠者ではなかった。
だが夢の中でクレイは怪物のシルエットとなりホエールをかつて愛した戦友の元へ誘うのだ。

ホエールとの諍いの後、クレイが目覚めた時ホエールはプールの中で死んでいた。急ぎ助け出したクレイに容疑がかかることを怖れた家政婦のハンナは主人の遺体を再びプールへ投げ入れる。
ゆっくりと踊るように水の中に浮かぶホエールの体。両手を広げたその姿勢はまるで磔にあったキリストのようでもある。
『花嫁』のなかで怪物は恐怖に追い込まれた村人達によって磔にされる。
ホエール自身が怪物でもあったのか。

クレイを演じたブレンダン・フレイザーがとてもいい。
ゲイではないはずの彼が次第にホエールに惹かれていく。その作品も彼は深い感銘を覚える。自分を理解してくれる友人を求める孤独な二人の心をクレイは感じ取るのだ。
逞しく優雅な体は怪物に例えるには美しすぎるが髪の刈り方やセットがやや四角になるようにして怪物に似せているのが判る。
彼の演技を見るのは3度目だがこの作品がもっとも魅力的なのではないだろうか。

イアン・マッケランは本人もゲイだということもあるのだろうが、引退したホエール監督の寂しさと性的欲求の表現がなんとも言えずいやらしく(つまりセクシーに)表現されている。
老人の恋愛を枯れた淡いものではなくここまで露骨に表現することは差別感を持った観客には特に嫌悪感を抱かせるものであるかもしれないのだが、ほのめかすなどという表現に逃げることなく老人の欲望をさらけだしてしまったことには驚きも感じた。
それは先日観た『あるスキャンダルの覚え書き』にも通じることなのだが。

家政婦ハンナのリン・レッドグレイブが素晴らしい。この病弱で欲望を隠すこともないゲイの老人を健気に時に口やかましく面倒みる老婦人。ゲイの作品には彼女のような存在が非常に重要なのである。

余談ではあるが奇妙な一致を面白く思ったことがある。
少し前に観た『ブライアン・ジョーンズ ストーンズから消えた男』もブライアンと庭師の(こちらは)そこはかとないゲイ関係(のようなもの、というべきかもしれないが)を描いていたが、そこでも自分の才能の枯渇に落ち込むブライアンはプールで死ぬ。こちらは自殺ではなく庭師によるものだが「擬似ゲイ関係(そのものではない)、芸術家(ミュージシャンと映画監督)、庭師、プールでの死、自殺か他殺か疑わしい、女性が最後助ける」という事柄が微妙なところで重なっている。ホエール氏はイギリス人でもあるし。
こういった相似点というのはよくある話なのだ、ということなのだろうか。

タイトル『GODS AND MONSTERS』複数形の神と怪物。何が神で何が怪物なのか。

監督:ビル・コンドン 出演:ブレンダン・フレイザー イアン・マッケラン リン・レッドクリープ ロリータ・ダヴィドヴィッチ
1998年アメリカ


ラベル:老年 同性愛
posted by フェイユイ at 22:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 北米 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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