映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2007年11月22日

『サイコ』ヒッチコック版とガス・ヴァン・サント版を観比べる

マニアでもあるまいし、片方だけ観ればいいや、と思っていたのにどうしても気になってオリジナルサイコを近くのレンタルショップから借りてきた(笑)オタクといわれてもしょうがない。
まあそんなに細かく観ていくわけではないがそっくりと言われるヒッチコック版とサント版を下心ありで検証していく。

まずはオープニング。聞いているだけでサスペンスが走る素晴らしい曲である。映像もストライプの交錯するデザインで名前の出し方もかっこいい。
これはカラーであるかという以外どちらも同じなのだが、最初に出てくる名前がオリジナルは「ヒッチコック」なのにサント版は映画会社であった。

冒頭俯瞰からビルへカメラがぐーっと近づく場面は技術が進んでいるのがわかる。
ビルの部屋でマリオンとサムが逢引している。サント版ではベッドインしててヒッチ版はすでに二人とも裸ではなくマリオンは起きているのだがなぜかヒッチ版のほうが色っぽい。しかしサントのほうはマリオンがすぐ服を着てしまうのにサムはいつまでも全裸(!)である。
昨日も書いたようにマリオンはヒッチのジャネット・リーも当時としてはショートヘアーではあるが女性的なのにサントのアン・へッシュは少年のような可愛らしい感じである。
マリオンが食べるはずだったサンドイッチ。サント版のみハエがたかる。これは最後の蝿のシーンにつながっているのだろうか。
進み方は同じくらいなのだけどサント版のほうが若干早いのがわかる。

モーテルに着きノーマン・ベイツの登場。その前にあの禍々しい自宅は印象が同じだが実は違うのであった。オリジナルの前に新しくべイツハウスの外観を建てたのである。
ノーマン・べイツ。サント版ヴォーンの大きな体は魅力的でアメリカ田舎らしい感じがするがさすがにアンソニー・パーキンスは素晴らしすぎて見直してみてもどうにも太刀打ちできない気がする。
スマートすぎる気もするが田舎にも繊細な人間がいていけないわけではない。最初の対応などはいい人そうで安心してしまう。ヴォーンの方は最初からちょっと嫌味で怪しい感じがしてしまう。
サント監督がパーキンスのイメージでやらなかったのは案外彼が好みのタイプではなかったんでは、と思うのだがどうだろう。
ノーマンの勧めで食事をするマリオン。アメリカ映画でいつもイライラするのだがどういうわけか食事をする、と言っておきながらちっとも物を食べないのである。他の国の映画ではむしゃむしゃもりもり食うシーンがあるのにどうしてアメリカ人は物を食べないのか。いつも食べ物は食欲がない、という演出のために使われる。通常はあんなに大量に食べているくせに不思議だ。
ここでもヒッチ版のマリオンは少しではあるがトーストを食べているのに、サント版マリオンは最初になにかちょこっとつまんだだけで肝腎のサンドイッチは手に持っただけで一口も食べない。主人の方も「どうぞ食べて」と言いそうなものなのに言わない。物を食べない、という点に関してはどうしてもアメリカ映画に反感を持ってしまう。あんなに長旅をしたんだから普通がつがつ食べるものだろう。
無論ここでマリオンはノーマンに気持ち悪さを感じ始めたので食べないのだ、という演出なのである。しかし食欲は抑えきれないと思うんだけどねえ。
食事もしないまま部屋へ戻ったマリオンの着替えをノーマンが隣の部屋の覗き穴から盗み見る。
ヒッチ版ノーマンはただ見るだけだがサント版ノーマンは覗きながら自慰をする(音がする)これはかなりの違いになっている。

問題の殺人場面。ここはどういうものか。じっと観てしまうからそう思うのか、随分印象が違う。
さすがにヒッチコック版は名場面として名高いだけに一つ一つのカットが物凄い緊張感を持っているのだ。
画面がなんだか変な気持ちになる奇妙な構図になっていて一体どうしてこう微妙なずれ方をするのかな、という不安定感がある。モノクロだからこそできる美しい画面なのかもしれないがそれだけではない。
人間のいる位置が真ん中ではなくちょっとずれている。そのずれ方が気持ち悪い。あの心に残る音楽と共に画面も不協和音を響かせている。
マリオンが刺されて壁をずり落ちる場面。サント版はマリオンが真ん中にいるのにヒッチのはやや右に寄っているのが印象的なのだ。画面を広く覆っている白いタイルが不気味に美しい。
最後のジャネット・リー=マリオンの死に顔ももぬけの殻になったような悲壮感がある。この場面、サント監督も随分時間をかけたそうなのだが、天才ヒッチの前にどうにもならなかったのかもしれない。
またその死に顔の後サント版は真直ぐ金を包んだ新聞紙にカメラが移動するのだがヒッチは一度シャワーから流れる水を映している。これも時間と空しさを表現していて物凄い。こうやって比較するとヒッチの名作たる所以がありありとわかってくるのだ。
そしてマリオンもろとも車を沼に沈める場面。モノクロの勝ちというか、白っぽい車が真っ黒な沼の中にゆっくりと沈むコントラストが不気味である。そしてそれを見守るパーキンスの笑顔もまた秀逸であった。
(掃除をするシーンはどことなくサント版もいい。なかなか血の色が落ちないもどかしさといった所が。これはカラーだから余計思うのか)

アーボガストが殺される第二の殺人シーンも他にないぞっとする光景である。
ノーマンの母親に会おうとしてこっそり階段を上るアーボガスト探偵。階段を上った所で俯瞰となり突如部屋から出てきた女性から刃物で切りつけられる。泳ぐようにして階段を落ちていく探偵。
ややシュールな映像なのだが、サント版では監督の思いつきというか短いカットで幾つかの心象風景のようなものが入る(これはシャワー殺人現場でも使われたが)

ノーマンが階段を上っていくシーン。なんこたないがすっとしたパーキンスの尻に比べヴォーンの尻は随分扇情的である。サントの目が感じられるなあ。
マリオンの姉(ヒッチ版ではライラが姉、サント版では妹になってる何故)が老女に会う為、ノーマンを引き止めるサム。ヒッチ版はただ引き止めてるだけだがサント版はなぜか色っぽいの止め方が。
あの入り口に両腕をかけるのってセクシーだよね。

いよいよ母親の正体を見てしまう場面。
まず子供部屋に行った時サント版では子供の声がこっそりと聞こえている。
ヒッチ版では「エロイカ(英雄)」のレコードがありタイトルのない本があったのが気になったが、サント版ではレコードタイトルが違っていて本は出て来なかった。
そしてライラが地下室で母親の後姿を見つける。サント版では鳥たちが賑やかに鳴いている地下室。ヒッチは狭くて寂しい地下室である。
母親に触るとなんとその正体は。
その時ノーマンが女装してかつらをつけてくる。パーキンスはむしろ男っぽい感じだがデカイからだのヴォーンの方が女っぽくなってる。かつらも薄い金色の長めのかつらで色っぽく見える。サント監督はこういうとこでもしっかり自分の好みで長めの金髪にしてる。っていうかこの場面を撮るためにここまで頑張ってきたのかもしれない。

今夜はここまで。また明日。


ラベル:サスペンス
posted by フェイユイ at 23:57| Comment(4) | TrackBack(0) | 北米 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ガス監督の『パリジュテ』メイキングで、フランス人の撮影監督さんがガス監督を評している言葉が印象深いです。「・・ガス監督は(映画の中で)私的な旅行をしているんだ」「・・映画の中に彼の理想の人生を描いている・・彼にとり至福の時なんだ・・」ガス監督が何故『サイコ』のリメイクを創ったかわかるような気がしてきます。^^
私はヒッチコック『サイコ』しか観ていないのですが・・ガス監督の『サイコ』はフェイユイさんの評だけでいいかな(^^;)それ位よく判りますもの。。ヒッチコックの方で印象的なのは、先駆的な創りの旨さですね。いかにも自分で全部作り上げた革新的な映像。少年がそのまま大人になったような雰囲気の彼が創る世界。『北北西に進路をとれ』『裏窓』『鳥』辺りを観ましたが今想うと全体に少年ぽい。よき時代のアメリカ、という感じです^^
Posted by フラン at 2007年11月23日 11:54
素晴らしい言葉をありがとう!!
ガス・ヴァン・サントが映画の中で旅をしている、というのは私にとって大きくうなづける言葉です。
サント版『サイコ』は確かにヒッチ版を楽しんだ人にはもう観なくていい気もします。私はどうしても監督の心を覗きたくて観てしまったんですが(笑)
記事にも書いてるようにそのままにリメイクしてるのにこっそり自分の趣味をいれてます(笑)撮影してる間、楽しくて仕方なかったんじゃないでしょうか。
Posted by フェイユイ at 2007年11月23日 13:04
私も「サイコ」はヒッチコック版しか観ていません。二重人格というネタは今でも面白いと思います。ヒッチコックのカット割は特撮の難しかった時代にも関わらず現在でも斬新です。

雨の中の車、シャワー室での殺人。特にシャワー室は生々しい映像が無いにも関わらず、当時としてはショッキングなシーンとして、多くの人の記憶に残りました。

ところで、ヒッチコック映画の特徴としては二重というのがあると思います。別の言葉で言うと、「誰かの代わり」でしょうか。例えば『めまい』ですね。デ・パルマ監督は『めまい』に強い影響を受けたそうです。

あとトリフォーのヒッチコック研究本は、ハリウッドでは教科書扱いだそうですね。

最近出た、『黒沢清対談集』(青土社)を読むと、ヒッチコックの話が何度か出てきます。ヒッチコックの話は出て来ないけど、青山真治との対談も入っています。
Posted by おおくぼ at 2007年11月23日 18:50
ヒッチコックほど多くの映画関係者に影響を与えた人はいないかもしれませんね。
一番凄いのは誰もが楽しめる娯楽映画でそういう影響を与えたことではないでしょうか。
ヒッチコックのテレビ番組を見るのが楽しみでした。
トリュフォーのヒッチ好きは有名ですが恋愛ものや悲しいドラマを作る人ほどヒッチコックの技術は生かされるような気がします。
Posted by フェイユイ at 2007年11月23日 19:29
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