映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2007年12月07日

『EUREKA ユリイカ』青山真治

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言いたいことが溢れてきて何から話していいか判らなくなってしまう。
観ていくのが怖かった。でも止められなかった。重く辛い題材だが反面どきどきするほど面白かった。その心理も怖ろしいことなのかもしれないけど。

事件に出会った人はそこから抜け出すのエネルギーを必要とするものなのだろう。その事件が目の前で次々と人が殺され自分だけが生き残ったというものだったら。人の心は闇の底に堕ちていってしまうものなのか。他からの庇護を受けたいと願う時に受けるのは中傷と非難。彼らは自分たちでそこから這い上がるしかなかった。
妻と仕事を失った沢井は生き残ったことで苦しみながら同じ体験をした子供達を救おうとすることで生きる望みを持つ。
両親と発せられるべき言葉を失ってしまった兄妹は沢井の助けを受けながら何とか生き延びていこうとする。
だがここにもう一つの苦しみが生まれる。はっきりとした原因がわからないままにバスジャックと殺人という冒頭の事件の犯人は射殺されるのだが、その場にいた被害者の一人である少年(兄妹の兄の方)が後に連続女性殺人事件の犯人になる、という怖ろしい事実である。
この少年の動機も被害を受けた事件との因果関係も語られてはいない。いや、だからこそ「殺人事件」もしくは「衝動殺人事件」というものが絶え間なく形を変えて続いていくことが示唆されているように感じられるのだ。
沢井は刑事に連続殺人の嫌疑をかけられる。映像でも沢井に疑いを持つような奇妙な行動を取らせる。夜、窓際で何かの合図を送るかのように照明を点滅させる事、仕事場の事務の女性に対する曖昧な態度など。刑事は沢井を「何かをしでかす男」だと見るのだ。これはどういうことだったのだろう。結果、沢井は何もしなかったが、「何かをしようとはしていた」のか。犯人は少年だけでなく「沢井でもあり得た」のかもしれない。だが、彼は「ちょっとした逆の出来心でしでかさなかった」だけなのかもしれないのだ。
だからこそ沢井は「しでかしてしまった」少年に自分を重ねた。少年を排斥した若者を怒鳴りつけた。残された少女を守ろうとしたのではないか。

バス運転士だった沢井が自分と子供たちの再生のためにもう一度バスを運転し子供たちと旅立つこの展開はすばらしい。
怖ろしかったバスの内部は居心地のよい寝場所に変えられ彼らは澱んでいた住処から離れていく。その行き先が生命を感じられる活火山である阿蘇(しかも蘇るという文字がある)なのだ。次第に心が通じ合い沢井に運転を教えてもらうまでになる少年を見て「すべてがいい方向へ行くのでは」と思ったのだが。
少年がすでに闇の中に堕ちていたことを知っても沢井は彼がまた帰ってくることを信じている。
そして少年は妹に心の声で語りかける「自分の代わりに海を見て欲しい」と。海はすべてを生み出す場所でありそこへ妹を行かせた彼はきっと生まれ変わりたいと願っているはずなのだ。
海から山の上へ上がっていく沢井とこずえ。それまで何も話せなかった彼女が山頂で大声をだして両親、犯人、兄、従兄弟のお兄ちゃん、沢井を呼ぶ。
沢井の下へ元気よく駆けていくこずえはなんという希望に溢れていることか。

この映画作品も九州出身の監督らしくかなりきつい九州弁で語られている。字幕がないために他の人々には聞きづらいものだろう。
私はほぼ地元と言っていいので(北九州よりさらに近くなった)嬉しいことに大変聞き取りやすい。バスジャック犯が殺人を犯す現場も何度も行った事がある場所なので奇妙なデ・ジャビュ現象をおこしてしまった。
おまけにこの映画は苦い思い出が残っている。この映画製作の方が先なのだが偶然にもこの犯人と同じ「西鉄バス」でのバスジャック事件が話題になった時期と重なっていたのだ。佐賀〜福岡間での事件(実際はもっと遠くまで走ったが)しかも少年による事件であった。そこにも少女が乗っていて、少年は刃物を持っていた。怖ろしいほどの相似にこの映画を観るのがためらわれ今になってしまった。実際の展開は違うものであったが、刃物を持った少年が犯人であるというこのキーワードはどういう偶然の仕業なのだろう。そこに乗った人々もまた体と心に傷を負われていたがこの作品のような救済があったのだろうか。
主人公を演じる役所広司。九州弁が素晴らしくうまいのでさすがと思っていたら長崎出身だった。どおりであの微妙なニュアンスまで早口でささっというところなど他所の人間には難しいはずだ。
他の出演者も九州生まれが多いのは納得である。仕事場の若者ヒトシなど「うたいびとはね」という佐賀のフォークデュオの本多哲郎であった。
東京出身である宮崎兄妹(そろって可愛い兄妹である)が全くしゃべらないというのも演出だろうがうまい騙し方である。あの場所で東京言葉の兄妹では変だろう。
ふたりを見張る役となる従兄弟明彦が標準語なのは一般の人の意見を彼が代表しているからなのだろう。

監督:青山真治 出演:役所広司 宮崎あおい 宮崎将 斉藤陽一郎 国生さゆり 光石研 利重剛 松重豊 塩見三省 尾野真千子 真行寺君枝 椎名英姫
2000年日本

この映画で感じられるサスペンスも非常に惹かれてしまった。どうしてもテーマに重きが置かれてしまうだろうが、犯人が誰なのか、という疑問が刑事の決めつけと隠し方が絶妙にうまくてその側面だけでも面白い作品だった。そのあたりの微妙さは役所広司ならではのものである。




posted by フェイユイ at 23:29| Comment(4) | TrackBack(2) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
役所広司がいいですね。黒沢清の映画でも、そうですが、いい味出しています。
「もう一つバス」に乗りたいです。
Posted by おおくぼ at 2007年12月08日 00:38
役所広司はいつもですがやっぱりうまいし、優しいような怖いような両面性があっていいですね。

残念ながら黒沢清監督にはいくつかの作品を観て合わないものを感じてしまったのですが^^;青山真治監督2作品を見てすっかり感銘受けてしまいました(黒沢監督は私にとっては『CURE』一作に留まっております)
これから青山作品、続けて観てみたいと思ってます。
Posted by フェイユイ at 2007年12月08日 13:38
『ユリイカ』でのバスハイジャック犯人が登場する場面は不気味です。携帯で話すシーンや、警察にバスが包囲されながら、沢井と一緒にバスから出てくるシーンは鮮烈を感じました。

また役所広司が工事現場で働くシーンは好きです。光石研や周りの同僚も雰囲気がいいですね。沢井がバスを買って、癒しの旅に出かける時、「これが別バスね」と理解して、見送るのも素敵です。

ところで沢井の咳はどうなるのか、気になっていましたけど・・・。あの後が観たいです。



黒沢清の映画は万人受けする映画ではありません。料理と同じで、映画も生理的に受け付かないものがあります。私は悪食なんで・・・。
(^^;)
でも黒沢清は監督だけでなく、評論家としても優秀です。だから活字から黒沢清を攻略するのもいいです。青山真治と黒沢清は仲の良い先輩・後輩の関係なので、お互いの著書によく出てきます。また二人の作品は、役所広司に限らず、多くの俳優が共通しています。
Posted by おおくぼ at 2007年12月08日 16:41
確かに作品はあまり好きでなくてもエッセイや評論には興味を持つことはありますね。読んでみたいものです。『CURE』だけは別格に好きなんですけどね^^;

青山作品は台詞での説明というのが大変少ないので謎も多く残りますね。
咳が一体なんの意味があったのかわかりませんでした。
もう少し繰り返して観ようかとも思ったのですが、一旦他の作品を見通してもう一度観ようかなと思っています。そのくらい気になる存在になってしまいました。
彼の文章も読んでみる価値ありそうですね。
Posted by フェイユイ at 2007年12月08日 19:23
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