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2007年12月08日

『パラダイス・ナウ』ハニ・アブ・アサド

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Paradise Now

この映画で最も驚いてしまったことは鑑賞後に監督から聞いた「自爆攻撃は究極のサスペンススリラーになりうる」という言葉だった。
「自爆攻撃」をパレスチナの映画監督が扱った作品と聞けば非常に深刻なものであると受け止めてしまう。無論、そこに描かれる悲しみは深いものである。だが作品を作った監督がそれをサスペンススリラーだと位置づけたことは確かに頷けると思えたのだ。
そしていつも聞いていた「自爆テロ」という言葉ではなく「自爆攻撃」なのだということをここで知った。

若いサイードとハーレドは強い友情で結ばれておりパレスチナのために神の僕となって生命を捧げる「自爆攻撃」の命令が下る事を待っていた。
最初は熱く使命を遂げたいと願うハーレドと対照的に迷いを見せるサイードが描かれる。作戦がうまく運ばず中断した二人は別行動をとるはめになる。ハーレドはすぐ仲間の元に戻り胸に巻かれた爆弾を取り除かれる。一方迷っていたサイードは仲間の車に乗りそこない、一旦はイスラエルのバスに乗ろうとするが子供達の姿を見て決心が鈍る。重い気持ちを抱えたまま、パレスチナに戻った彼は自分の父親が密告者として処刑されたことを考える。
その間、ハーレドは殉教した英雄の娘スーハと語り合うことで自爆の意志を失い、サイードを説得しようとする。
だが再会したサイードはハーレドをパレスチナに帰し、一人、自爆攻撃へと向かうのだった。

私自身、パレスチナ人は宗教の為、国の為と言って悲しむこともなく自爆攻撃を行っているのだと考えてしまっていたのではなかろうか。
無論そんなことはありえない。「神風特攻隊」という存在がいた過去を持つ国民ならそれを考えることはできる。
自分の命、家族・友人の命を平気で捨ててしまえる人間はいないだろう。ここで描かれる若者たちの苦悩と悲しみは胸を打たずにはいられない。もがき苦しみながら彼らは生命を捧げなければならない状況にある。ハーレドのように「帰る」という一言で中断できる立場であってもサイードのように苦しみながら死を選ばずにはいられない者もいるのだ。名誉を失いたくない、という恐れが彼を死に追い詰めていく。
確かにこれはサスペンススリラーである。

財力が乏しいために彼らの勇姿を撮るカメラが古くて壊れてばかりだとか、爆弾もそれを留めるテープも質が悪いだとか、携帯電話を渡すのが遅いだとか、いかにも侘しいパレスチナの抵抗組織である。
若い二人を煽てながら自爆攻撃に向かわせる仲間たちにも疑問を持ってしまう。
イスラエル側からは「テロリスト映画」として攻撃され、パレスチナ人からは「叫び足りない映画」として誹謗されるという本作は他から観れば非常に冷静に「自爆攻撃」という題材を描いた作品として優れていると思える。冷静だとはいっても若い生命を散らせてしまうことへの反発と抑圧され続ける事への抵抗は熱く語られているのだ。

作品中「自分の人生は退屈だ」というサイードにスーハが「あなたの人生は日本のミニマリスト映画みたいよ」と答えるシーンがあって監督はこの言葉は青山真治『ユリイカ』を思い描いて言わせたらしい。
偶然にも直前にこの作品を観ていたことは幸運だった。スーハはサイードが子供たちを助ける沢井のようだと言い当ててるのではないだろうか。そういいながらスーハは行ってしまったサイードに涙を流すのだ。

暴力ではなく声高に叫ぶことでもなくストーリーテリングによって抵抗を表していきたいという監督の意志は素晴らしいことだと思う。
ドキュメンタリーではなくフィクションで若者たちの炸裂した青春を描いた抵抗の作品である。

監督:ハニ・アブ・アサド 出演:カイス・ネシフ アリ・スリマン ルブナ・アザバル アメル・レヘル ヒアム・アッバス
2005年 / フランス/ドイツ/オランダ


ラベル:抵抗
posted by フェイユイ at 23:42| Comment(0) | TrackBack(1) | 西アジア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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