映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2007年12月09日

『楽園の瑕』王家衛

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東邪西毒/Ashes of Time

一体なんと言っていいのか。好き過ぎてどうしようもない作品である。すべての映画の中で1,2を争うのであるがもう一つは『ブエノスアイレス』だからどちらが上でもまあかまわない。理由は無論レスリー・チャンが主役であることとウォン・カーウァイ&クリストファー・ドイル&ウィリアム・チョン・トリオの仕事が素晴らしいからだ。
レスリーは全作品の中でも本作が一番美しいのではないかと思っている。ここまで口髭のセクシーな男はそういないし、この切なさ、狂おしさは壮絶な色香を漂わせ追随を許さぬ存在である。
果てしない砂漠に一人きり孤独の中で何かを待ち続ける姿にレスリー自身の姿を重ねてしまうのだ。

本作を予備知識なしに観た人は難解な作品だと感じてしまうだろうか。登場人物の説明はあるもののそれは言葉(字幕)によるものにすぎないのでなかなか頭にはいってこないのではないだろうか。というのは最初私がそうだったからなのだが。これは中国人なら殆どの人が読んだ事があるという金庸の武侠小説の登場人物から物語を作り上げているために人物説明は皆知っているものとして進んでいく感がある。だがそれが却って深遠で複雑な構成に思わせているかもしれないが物語を知っていればそう難しいわけではない。カーウァイ作品は知っていればちゃんと判る、という丁寧な(?)作りになっているのである。

幾つかの作品が参考になるが『射[周鳥]英雄伝』が主な登場人物である。最強の4人の老人東邪・西毒・北丐(南帝が省かれている)の若き日の物語を王家衛が独自に作り上げているのだ。
レスリーが演じる西毒・欧陽峰(欧陽鋒という文字だったと思うが映画では峰になっているのでそう書いていく)はその名の通り“毒”を操る達人である。性格は冷酷と言っていいが後に甥として面倒をみた我が子を溺愛する(ということはちゃんとマギーといたしていたわけか)しかしその子も薄命でやはり愛に恵まれない西毒なのである。
レオ・・カーフェイ演じる東邪・黄薬師。後に黄蓉が生まれるその島が愛した人の住んでいた場所でその名を取って桃花島と呼ばれる。というのは王家衛の創作か。しかも黄蓉がいた頃はその島は桃花で溢れていたので後にせっせと植えたのだろうか。最強なだけでなく学問や音楽にも秀でていて娘・黄蓉に英才教育を施す。邪という名前の通りへそ曲がりで人間嫌いな性格である。つまり西毒とどっこいどっこいなのだ。この最強で性格の悪い二老人が若い頃両方ともこんなにかっこよかったとは。といっても二人とも老人でも美貌だったが。
そしてジャッキー・チュンの北丐・洪七公(映画では洪七)は我が最愛の方なのであるが後に物乞いの長となり強大な勢力を持つことになるのだ。最強の中でも最も強い方だと思われる。(もっと強いのは周伯通だろうけどここでは出てこないので)本作でも女のために指を一本失い「九指神丐」と呼ばれる原因としている。妻を伴って旅を続けたり、と他の二人と違い人間味のある性格である。後にも東邪の娘・黄蓉の師匠となるなど慕われる人格であることがわかる。
ブリジッド・リン(すてき!)は燕国の名家・慕容家の兄妹、慕容燕・慕容媛を演じ分けているのだが、まさにブリジッドならではの役柄である。東方不敗の彼女に参ってしまったファンは多いだろう(私も)
きりりとした美貌は武侠ファンの憧れの存在である。そしてさらに彼女は独孤求敗でもある。これは剣の腕が人並みはずれて孤独となり負けることを求めている剣豪の名前である。
また慕容というと『天龍八部』での慕容復を思い出す。
そしてこれにこれは創作となるのだろうか、東邪の恋敵である盲目の剣士にトニー・レオン。本作で最もかっこいい役は彼である。次第に見えなくなっていく目で馬賊と戦い首から血飛沫をあげる最期に残してきた妻を思う。強い日差しがあるならなんとか敵が見えるという時に日が翳り視力を失ってしまう。最期に故郷に戻り桃の花を見たいといった言葉は妻の名前「桃花」を意味していた。
その妻役のカリーナ・ラウ。揺らめく光の中水辺で馬を洗う彼女の真っ白な素足が馬体をゆっくりと撫ぜていき白い腕でその首を抱きしめる。なんとも性的な描写なのである。彼女の美しさが盲目の剣士と東邪の心を引き寄せてしまうのだ。そして東邪は彼女の住む島に行き、西毒を訪ねる事もなくなってしまう。
西毒が愛したのは兄嫁となった美しい女性。西毒が愛するという言葉もかけず出て行ってしまったために彼の兄と結婚してしまう。だが彼女の心は西毒を離れることはなかった。西毒もまた彼女だけを愛し続ける。互いを思いながらも意地を張り続ける頑なな二人は会おうとすることもなく遠い昔を思い出しながら辛い恋心に悶え苦しむばかりなのだ。思い出を忘れることができるという酒「酔生死夢」を飲んでも彼女への思いが消え去る事はない。「一生結婚することはなく、愛も育たないという」西毒の悲しみは尽きることがない。

レスリー=欧陽峰は待ち続けるだけの役である。仕事は殺人の仲介人。恨みを持つ依頼人の話を聞き、殺し屋にその仕事を回す。彼は手数料を懐に入れるわけである。
何も育つ事のない砂漠はぎらぎらと太陽が照りつけ、ある時は激しく雨が降る。
荒涼としたその光景は彼の心そのままである。
愛しい人を置き去りにし、戻った時はすでに遅く、さらに長い間その女性のことだけを思いだしながら生きている。が、彼女を追い求めて行こうとはしない。
彼が剣の道よりも毒薬に染まっていくのもその歪んだ心を表しているようである。
とはいえ、愛する女性を思い、年に一度訪ねてくる友人を待ち続けながら風に吹かれ悲しい目をした西毒に心引かれてならないのである。
確かにこの前観た『セブンイヤーズ・イン・チベット』で友をハラーを待つと言った友の住居を思わせる。

仏典曰く 旗なびかず風なし 揺らぐは人の心なり

監督/脚本:王家衛 撮影:杜可風  美術・編集・衣装:張叔平  
出演:Leslie Cheung 張國榮 レスリー・チャン (欧陽峰)
Leung Ka Fai 梁家輝 レオン・カーフェイ (黄薬師)
Brigitte Lin 林青霞 ブリジット・リン (慕容燕・慕容媛)
Tony Leung 梁朝偉 トニー・レオン (盲目の剣士)
Maggie Cheung 張曼玉 マギー・チャン (兄嫁)
1996年香港


posted by フェイユイ at 23:57| Comment(5) | TrackBack(0) | 香港 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
王家衛の映画は、いつも美しく、カッコヨク、そして訳わかりません。(笑)。
『楽園の瑕』は、武侠モノなんで、大好きです。金庸先生の作品は、中国人では何度も映画化、TVドラマ化してますが、王家衛が映画化すると、判る人にしか、判らない作品になってしまうので、困ります。

私も、『東方不敗』のブリジッドは大好きなので、ただブリジッドが武侠モノのかっこして出るだけで感動します。


ところで・・「もっと強いのは周伯通だろうけど」。そうでしたっけ?周伯通は強いけど、自分勝手で、子供じみてて、黄薬師に負けて、桃花島に閉じこめられていたのでは。
Posted by おおくぼ at 2007年12月10日 17:43
Posted by おおくぼ at 2007年12月10日 17:48
ははは。確かに!でも周伯通は可愛くて大のひいきなので。子供っぽい彼には修行そのものが遊びで純粋に強くなることに夢中でいつも楽しみながら強くなっていってるので私は彼が最強だと思っているのですよー。最も愛してるのは洪七公ですが。

『楽園の瑕』は原典を知っていればそう難解ではないのでしょうけど。
でもわざと複雑に作ってしまうところが好きです^^;
Posted by フェイユイ at 2007年12月10日 18:50
私も大好きな作品です。
「花様年華」以前のウォン・カーウァイでは最も好きな映画でした。
この映画のマギー、本当にきれいですよね。

そしてジェイの「娘子」の歌詞を見ると、いつもこの映画の「桃の花」
カリーナを思い出してしまいます。
Posted by じえるな at 2007年12月12日 21:45
こんばんは、じえるなさん。
なるほど!そんな感じしますね。

武侠もののかっこよさと美しさ、何度観ても見入ってしまいます。
Posted by フェイユイ at 2007年12月12日 22:42
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